妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

レイ⑨

運命の三日目。
幸いなことに、そして当然と言えば当然なのだが、俺の身には何の変化もない。
ただ、今日はトキとの手合わせがある。
手合わせと言っても、そんな生易しいものに終わるかは不明だ。

早朝、ケンシロウは村を出ると言い残し、特に向かう先もない旅に出た。
拳王、聖帝、他にも大きな暴虐の組織があるかも知れない。ケンシロウは自然とそんなところに導かれる宿命にある。それも北斗神拳伝承者の宿命か。

あれは、トキ。
む? トキは俺と目を合わせもしないどころか、明らかに無視をした。
俺との手合わせを前に集中力を高めているのか、それとも戦う相手と馴れ合うつもりはないのか。
とにかく、トキは本気だ。本気で俺にその柔の拳を見せてくれるということだ。
これは北斗南斗の宿命の戦いではない。果し合いでもない。だが命を落とす危険性はある。それは当然だ。
俺の南斗水鳥拳は当たれば確実にその部位を破壊する。トキも同じだ。秘孔を外したとしても、カサンドラの牢獄で見たあの拳の威力は凄まじいものだった。
石の床と壁を深く刻むほどの氣。南斗聖拳と似た力を感じたが、それで以って二人の敵を斬ったのではない。触れずして秘孔を極めていた。
闘気にて秘孔を突く。そんな大技、南斗の誰からも聞いたことがない大技をあの場で見れたことは幸運だった。
もちろん、、、今回の狙いはそこではない。
ラオウの闘気、全てを押しやり破滅させる洪水のような闘気に力で対抗するのではなく受け流すあの柔らかい動きを身に付けるのが狙いだ。
そしてその柔らかさが攻に転じた時の力強さも知っている。見ている。この世界では実現しなかった戦いから。

あのトキの拳、足捌き、そして心境までも全てが俺の拳南斗水鳥拳に有用なものだ。

 

本当なら、今日はラオウに新血愁を撃たれて三日目。最期の日。
俺はトキに突かれた秘孔心霊台で少しだけ延命することができた。
、、、だが、その代償は大きかった。
これまででも未経験の苦痛を味わい、苦痛に耐えられぬ時に飲めと渡された毒薬など、想像を遥かに超える激痛で直後にどこかへ投げ飛ばしてしまっていた。
正直、、、苦痛から救いたいという気持ちの表れだとしても、愛する女から毒薬を渡されるというのは如何なものかとは思わざるを得なかったが、、、
生爪は剥がれ、肉体は悲鳴なんて言葉では到底足りない苦痛の果てで、俺の髪は全て白髪と化した。
少しだけの延命。本当に少しだったが、そのお陰でユダと戦うことができた。

どうだろうか? 今の俺の、つまり死人の境地に達していない俺ではユダに勝てるとは言い切れないのではないか?
そうでなくても苦戦したのだから。

 

昼過ぎ、俺は約束の場所に来た。
この村、ビル群の中にあった元シティホテルのロビー。戦うには十分な広さだ。俺の拳もトキの拳も周囲を無差別には壊し散らさない。
と言っても辺りは大変な散らばり様で、この地で行われた地上戦の跡を残している。

「来たか」
既にトキは一足早く着いていたようだ。
「ああ」
日陰部分は多いが、差し込む光だけで事足りる。
「では始めよう」
と、トキが立ち上がった。交わす言葉はない。我らは今日、拳にて話す、とも言わんばかりのトキらしからぬ険しい表情。
「!」
その時、トキは驚くべき構えを見せた。右拳を左の掌に合わせた礼。
北斗天帰掌!
その意味は当然知っている。南斗にも天帰掌はあるのだから。
トキは本気だ。そうではないかと予想していたが、本当に本気のようだ。
ゾクッ、、、
俺がまるで相手にならなかったラオウと互角以上にやり合った男、トキ!
賢く立ち回れ!
ラオウ戦のミスを犯すな!
ユダ戦の境地に立てずとも冷静にやれば圧倒されるほどの差は、、、

 

ないと信じたい。

 

今日という運命の日を形を違えただけの同様の結末にするわけには行かない。

俺はトキと同様に右手を握り、左の掌に合わせた。
そう、これは奥義。

南斗天帰掌。