妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

119.

史上二人目の南斗聖拳伝承者だと?
「どういう意味だ?」

「答えを焦るでない。それはまだ確定した事実でもないのだから」
「何が言いたいんだ?」
「ここでどう過ごすか、、、それがそなたに聖なる拳が授かるかどうかの鍵となろう」

ここで過ごさせるつもりらしい、、、、。
が、これ以上何を訊いたところでバルバははぐらかすであろう。そうなればイラつくだけだ。

更に黙ってついて行くと、遂に通路が終わりを迎え、その先は闘技場と思しき広い空間となっていた。
しかも天井が抜けている。見上げると星空が散りばめられた天空が広がっている。いつの間にか思った以上に時間が経っていた。
蝙蝠と別れた時はまだ夕方にもなっていなかったのだが。

 

「ここは闘技場か?」

南斗宗家の本拠地の恐らくど真ん中だろう。それがこの大して何もない闘技場とは思いもしなかった。

もっと闘神像や秘伝書の収められた書庫の類があってもいい。

 

「闘技場、、、うむ、兼ねておった。そして崇拝所でもあり、儀式場でもある。だが感じぬか? そなたなら」
「、、、、」
何も感じない。何を感じると言うのだ?
感じるのは観客席と言っていいだろうそれらを埋める黒いローブの者たちが放つ異臭と、無理やりに押し殺した気配だけだ。

「あいつらは何をしている?」
「あやつらは皆、祈っておる」
「祈り」
「本当のことを言おう。呪っているのだ」
「何を呪っている!?」
「全てをだ」

バカバカしい!何が呪いだ!もう十分だろう。ここまで付き合ってやったのも何かしら得るものがあるのでは?という下心があったからだが、俺の気が短いことを、まさか知らないというのか?

「ここまで来て祈りだと?呪いだと!?」
そんなもので何が変わる!

シンの身体から南斗の裂気が発せられた時、バルバが言った。
「彼等のことはいいのか? あの快適な暮らしは、そなたの協力あってのその代償。報酬のようなものだ」
「!」
報酬、、、この場合、それは言葉通りの意味を持たない。俺がこの男の言うに従わねば、人質たちは快適で安全な暮らしから出される。
つまり、身の安全は確実に失われるということだ。それどころか間違いなく、、、、、

「キサマ!」
「やれ」
バルバが両腕を開いた。
「人質ではないと言ったであろう? あれはそなたのやる気を少しでも後押ししようとしているだけ。それで得心行かぬなら、好きにするがいい」

元よりシンに殺る気はない。感情の昂りから南斗の氣が溢れ出てだけである。リマや花たちを死なすわけには行かない。
「わかってるだろう。その気はない。だが、俺を決して挑発するな」

まずい、、、まさか人質を取られるというのがこれほどこの俺に効果があるとは。

その考えが微かにでもシンの表情に浮かんだか、自分の有利を感じ取り、
「先ほども言ったが、その激情嫌いではないぞ」
とまたバルバは不気味に笑い始めた。

リマはあの若さでも子を身篭っていると聞いた。花や他の村人たちの顔も浮かんで来て止まない。
彼らは既に白の街にいるのか?
そうでなくても何かしらの強力な保護の元に置かれただろう。
南斗の男ダンはどうなった? 賢く動いたか、それとも抵抗したか?


「今、北斗神拳は大陸に渡った」
ケンシロウが?」
バルバが急に話を変えた。人質たちのことは氣になるがここでケンシロウの名を出されれば、それを無視できるわけもない。
従者の言だが、元斗皇拳のファルコが大陸に渡るとは聞いていた。更にケンシロウもとなると、目的地は同じ修羅の国か。

「大陸とは言ったが、向かった先はそのほんの一部の小さな国だ。外部からの侵入を決して許さず、また生きて出ることも叶わぬ」
「それが修羅の国か」
「知っておったか」とバルバはローブの下から薄いグレーの瞳を覗かせる。
そして続ける。
「あやつが修羅の国へ向かうということ、その理由は知っているか?」
「ファルコの理由と同じだろう。天帝の片割れを救うためか」
片割れという言い方は違うかも知れない。双子とは言え天帝は一人。連れ去られたのは天帝の双子でも妹。だが、今更そんなことはどうでもいい。

「50点だ。その答えは半分足りていない」
「説明しろ」
話しているだけでこの男への嫌悪が高まる。

ケンシロウは知っているのか否か、、、。あの国にはもう一つの北斗がある」
「、、、、、」


ケンシロウ北斗琉拳のことを知ってはいない。それをリュウケンが伝える前にラオウによって命を落としたからである。
古代より北斗神拳に伝承者出ぬ時、代理の伝承者は北斗琉拳より出すとなっている。

故に北斗神拳伝承者として相応しい力があるかを北斗琉拳伝承者との戦いで示さねばならず、琉拳伝承者に勝利して後、真の北斗神拳伝承者の名を受け継ぐ。

それ即ち、天授の儀。

だが、、、、先代リュウケンがその儀を為す前、北斗琉拳伝承者ジュウケイは琉拳の禁断の奥義である「魔界」に呑み込まれ錯乱した。
リュウケンは捨て身の秘技でジュウケイを制したが、それは天授の儀とはとても言えない代物だった。
リュウケンの父、テッシンも琉拳伝承者が高齢且つ病んでいたこと、そして愛する女の実父だったため天授の儀は果たされぬまま。
つまり、北斗琉拳と戦い勝利することが北斗神拳伝承者を名乗ることの条件ではない。
一方で、リュウケンの兄であるカスミケンシロウは見事北斗琉拳伝承者との宿命の対決を制し、名実ともに真の北斗神拳伝承者となっていた。

これらのことを現在の伝承者ケンシロウが知るに及ぶことはなかったが、シンは知っている。

ただ、知っていると言っても北斗神拳以外にも北斗を冠する流派があるとの噂程度であり、南斗聖拳の創始にはこのもう一つの北斗も関係しているらしい、という曖昧な意味合いでしかない。

「この乱世の神は随分と北斗神拳を愛しておるようだ。北斗神拳を使ってまるでゲームを楽しんでいるかのよう。天帝めの妹は連れ去られたのではない」
「何?」
「天授の儀を執り行わんと、天がケンシロウ修羅の国へと導いたのだ」
「それはキサマの見解に過ぎない」
「フフフフ、、ケンシロウは見事真の北斗神拳伝承者となるか? だが同時にここで真の南斗聖拳伝承者も生まれるやも知れん」
「、、、」
「そなたの南斗孤鷲拳は源流南斗聖拳の直系流派とは言われているが、既に鳳凰拳に敗れ最強の地位から落とされている。だが、真の南斗聖拳鳳凰拳をも凌ぐ、ものと、、、、」

バルバはシンを見ながら言葉を溜めた。
「、、、なるか否かはそなた次第だ」