妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

レイ19.

三度目の合図で現れたシュメはチイという名の若者と、他にやはり若い男二人だった。

シュメを呼ぶ合図?
何ということはない。シュメなら南斗聖拳の人間をどこかで見守っているだろう。見晴らしの良い平地を進む時に、手で招くような仕草をすればいい。それだけだ。
もちろん、目立つ場所で目立つことをすれば、お呼びでない賊が現れることはあるが、この付近は既に聖帝の支配領。
数人規模で動いている者はいない。斥候の類はいるにしても、そいつらがわざわざ旅の男一人を襲撃を仕掛けることはまずない。
それよりも第一に、そんな奴らを恐れる必要は、俺にはない。

カムフラージュのためとは言うが、シュメの若者たちはモヒカンにきめたヘアースタイルとトゲ付きの肩パッドを装着している、、、、言わばこの新世界のフォーマルだ。
本人たちはフォーマルぶっているというよりも、旧世界で憧れたパンクロックのつもりもある、と訊いてもいないのに自分から言って来た。
シュメの工作員としては、疑問も出そうな若さだが、俺としても元は「外部」の人間な上に、組織のことには関心が、ほとんどない。
本来の伝承者候補が先代との対決で命を落としたことによる、その穴埋めに過ぎなかった。それが実情だ。
漸くにして南斗水鳥拳伝承者、そして義の星を授かるも、俺は同じく外部出身のユダほど上手に組織の中で根回しもできず、、というより、全くそんな気はなかった。故に、シュメの人間とも尚更関わる機会はなかった。
それでもだ、シュメの忠実さは堅実で信頼できるというよりも、ある意味ほとんど意固地と思えるほどだった。感心する。
こんな世界になっても僅か数日一人で歩いていれば現れるのだから、実に大した組織だ。南斗聖拳の下部組織というよりも、実質的には南斗聖拳と言ってもいいだろう。
などと言うと、彼らは思いっきり謙遜して否定するだろう。とにかく、信頼に値する連中だ。
「申し訳ありません、レイ様。私たちのような若輩者で。こちらも欠員が多分に生じてまして、、、」
本当に感心する。
「構わない。それよりも、よく来てくれた」
などと、俺が言うものだから、彼らは「フォーマル」な姿なのに深々と丁寧に頭を下げる。
「以前、別の男だったが、シュウへの手紙を託したことがある。この辺りは既に聖帝の勢力下。シュウのレジスタンスも付近にいる筈。そこへ案内できるか?」
「、、、はい」
若いシュメに少しの戸惑いがあった。俺とシュウが合流する、、、それは二人でサウザーに対抗するということを意味するからだ。
「シュウ様の配下に一人、私たちシュメの者がおります。シュウ様たちは常に所在を変えていますから、現在地を掴むのは私たちにも困難です」
若いながらに言葉遣いを丁寧に丁寧にと努める姿が「フォーマル」だから、そんな彼らが微笑ましい。それでもシュメはシュメ。仕事とあれば、えげつないことを躊躇なく実行する輩でもある。
「その者からは定期的に連絡がありますから、数日後であればシュウ様のところへと確実に案内できると思われます」
俺は若い三人に「頼んだぞ」と告げて歩き出した。シュメからの接触を待てばいい。ならば今日のところは雨風をしのぐための場所を選ぶのみ。
見渡した。
廃ビルはいくらでもある。パンクロックなシュメたちからは食糧と衣類も渡されている。
「楽な仕事だな」
俺は一人呟いた。

そして三日後。
シュメからの報告を受け、俺は待ち合わせ場所へと向かった。
途中、遠く背後からエンジン音が聞こえて来た。物陰に隠れ、何者であるかを確かめる。
「あれは」
聖帝の旗。ゆっくり進む一台のトラック。荷台はオリになっていて、中には年端も行かない少年少女たちが閉じ込められている。聖帝十字陵と言ったか、、、例の建造物を造らせるための奴隷にされる子供たちだ。
俺は南斗聖拳という異常な世界で生き抜いたが、元は平々凡々とした両親の元で平々凡々とした少年時代を送っている。これがどれほど有り難いことだったか。この時代は否応なくそれを理解させてくれる。
トラックの周りには武装した兵が、ざっと20人、、、、18人だ。運転席と助手席の男併せてピッタリ20人。物の数じゃない。仮にサウザー麾下の南斗戦士がいたところで俺の敵ではない。
俺が心を決めた時、
「大丈夫だ」
と、声がかけられた。
穏やかだが、少しだけ奴らに対する怒りだろう、それが感じられる。
それにしても、、、簡単に俺の背後を取るとは。流石と言ったところか。視線を感じることがない分、気配が読みにくい。しかも暗闇での活動力は南斗聖拳全体にあっても並ぶ者なし。
「シュウ!」
年上の友人との久々の再開だ。同じ南斗の男とこうして出会う、それがこれほど頼もしいとは。
「レイ、久しぶりだ」
と再開の言葉はそこまで。シュウが右手を上げると周囲で「ブォン!」とエンジン音が湧き起こる。
「は!!」と一台のバイクが跳び出てトラックの前を遮る。次の瞬間、十台ほどの、、、9台だ。バイクに乗った戦士たちが姿を現す。ドサマギで自転車の戦士がいたことも俺は見逃さない。
「むう!!? シュウのレジスタンスか!!」
トラック助手席の男が叫んだ。
しかし、トラックが加速して強引に逃げることはなかった。次の瞬間にはバイクの戦士たちと、自転車の戦士一人による弓やボウガンから発せられた矢がサウザーの兵士たちを撃ち抜いていたからだ。
見事! 念入りな察知をしていなかったとは言え、俺の周りにこれほどの人数が気配を殺して隠れていたとは。というより彼らの待ち伏せ場所にまんまと踏み込んでいたわけだ。そして、この急襲の練度。流石はシュウ。
トラック助手席の男だけは無傷だ。もちろん、偶然でも幸運でもない。始めから矢に狙われていなかったのだ。他の倒れた兵士たちよりも上等な軍服を着込んでいる。
「き、貴様ぁ! 何故同じ南斗でありながら聖帝様の邪魔をする!?」
敵ながら大したものだ。この絶体絶命の状況でもシュウに啖呵を切る度胸がある。とは言え同情はしない。悪党の最期はこんなものだ。
「シュウ! このガキどもを連れ去っても!貴様らの懐事情が悪化するだけであろう!」
シュウの目に怒りが浮かんで、、、いただろう。その目が光を失っていなかったなら。
「これから輝く子供たちの未来。貴様ごときに曇らせはせん!」
フッ、、シュウ!
いいものだな、、、
「フン!」とシュウが南斗の拳を見舞う。
いや、バラバラに崩れて行く肉片のことではない。もちろん違う。
こんな時代になってもシュウが以前のまま変わらずにいることだ。
仁星の男シュウ。
この男となら、、、、きっとサウザーを止められる!
俺は硬い握手を交わした。
外道とは言え人間、それを斬る。これを繰り返す俺たちはもう人の世界の者ではない。だが、この旧き友の手は暖かい。この男は斬る相手を間違わない。
俺もそうだ。それは師父から以上に教わったのだ。

「久しぶりだな、シュウ」