南斗聖拳の本質は暗殺拳。闇に紛れた時、その真価を発揮する。 松明の下にいる柄の悪いモヒ二人の背後を、俺は駆け抜ける。 「ん?」「どうした?」「いや、、風、だな」「ビル風が強いからな」 わざわざ見張りを死体にして騒ぎを起こすことはない。俺は誰に…
「すまん、、、、わたしがバカだった」 そう深く詫びたのはシュウだった。不幸中の幸いと言おうか、ケンシロウはサウザーに敗れたが、その命までは奪われていないという。どうやらあのピラミッドの地盤に据えるとか、要は人柱として犠牲に捧げる魂胆とのこと…
義の星、、、 俺の歩みが、まさしくその宿命の星に導かれているとは、、自分では言い難い。「義」とは生半可な覚悟で体現できるものではない。振り返ってみれば、「あちらの世界」での最後のユダ戦での俺は、「義」というものに近付いていたのかも、、知れな…
「思い掛けないほど、上手く行きましたね。こんな時は逆に用心しないと」 南斗宗家聚聖殿に隣した旧世界の機能を持っている真っ白な街、、白の街。南斗宗家内部の人間でもあるリハクの手引きにより、そしてまさかの天帝軍の助力も得て、この白の街はあっさり…
荒野を一人行くケンシロウの後を、その男は追っていた。 男はケンシロウとの戦いを思い出す。北斗神拳は闘神の化身とはよく言ったものだと、そう感心するしかなかった。あの強さは他に喩えようがない。昔この目で見た拳王ラオウの剛拳も「神」を彷彿とさせる…
シンは上げた右手をピタと止め、次いで膝を一瞬だけ脱力した。自然に下がる身体操作に加え、南斗聖拳の氣をシンならではの解釈の元、「南斗紅鶴拳」の斬撃を放つ。生憎その比較対象はもうこの世に存在しないが、その拳の速さと鋭さは本家に劣らないものだっ…
「おぉ、、この子だけは!この子だけは!」 老人は必死の思いだった。この非情な世界を何とか知恵を駆使して生きながらえては来たが、遂にその人生も幕を閉じる。それは構わない。ただ、この子だけは、孫だけは守らなければならない!両親を失い悲しみの果て…
「ありがたい」 そう言ったのはセイランだ。左手の指を二本失って尚、ありがたいと言えるその理由を知りたいところだ。 「やはり強者と拳を交えるということには大きな意味がある」と、セイランは口元に笑みを浮かべ俺を見る。もう既に、調気により奴の手と…
「ケーーーーーーーン!!!」 口にかまされた轡(くつわ)を噛み切ったその若者の叫びは、遠く見守るシンの耳に届くだけでなく、その冷えた魂をも揺り動かした。 自分とは無関係な若者とはいえ、磔にされて非道な拷問を受け続けているその哀れで酷い姿を見…
息つく暇もない。そんなセイランの烈しい攻めを、俺はギリギリの間合いで躱し続けた。 奴の動きは直線的で、その速さを無視すれば単純で読みやすい。だが、速さを無視できるわけは、、当然ない。 ひとつひとつの移動ごとに十字斬を放つ攻撃主体の南斗鵷鶵拳…
どれほどの時を聚聖殿での修練に費やしたか、、、 闇夜の山中、シンは仔細に至るまで自身の修練を振り返る。特に三面拳と共に技を磨いた日々を。 、、、、南斗聖拳に刻み込まれた無念さは事実であろう。故にシンは、ケンシロウに対してではなく、南斗聖拳の…
数時間が経過していた。 バルバは一人落ち着きもなく、目の前の黒い鉄門が開くのを待っている。そこから離れた石道の曲がり角では、黒いローブを着込んだリハクが遠く隠れるようにして覗き見していた。事実、隠れていた。 南斗五車星を束ね、慈母星ユリアに…
南斗聖拳は六聖拳を最高峰とした総勢108派からなる大所帯だ。 ただ南斗と名乗るだけのような流派がある中で六聖拳の力はいうまでもないが、他にも極一部だけ上位の流派が存在している。 その最たるものが、この南斗鵷鶵拳、、、 短めの黒髪を立てた俺と同年…
小高く、今にも倒壊しそうに傾くビルの屋上から頭を上げ、俺は前方を確認する。既に聖帝勢力下の中心部に近い。堂々と歩いて行けばすぐにでも聖帝兵に見つかるだろう。その一方で北斗神拳によると思しき遺体はなく、兵士たちにも敵襲来を感じさせるような慌…
ヒエンの冷たい身体を抱き、シンは彼らしからぬ悲しみの深き谷の中にいた。 「なんとなく、最後はこうなるのではと予想はしていたが、これは決まっていたことなんだな」シンの独り言ではない。背後の気配に言っている。南斗宗家宗主バルバである。「彼ら三面…
蝙蝠は片膝を着き、高き座に就く男に頭を下げた。広い部屋の壁際には武装した腕利きたちが蝙蝠をやや遠巻きに取り囲んでいる。 「それで頼みとは?」低く渋い声。その主は、、「はい、ナンフー様」ナンフーとはサウザーの遺児を護る南斗将星直属のシュメたち…
変貌を遂げたヒエンから、これまでの彼にはなかった闘気が吹き出ている。闘気が吹き出る、、肉眼にも赤い蒸気が見えるが、これはヒエンの血液が渇いて塵となっている状態である。こんな状態は本来の暗殺拳南斗聖拳ではない。今更だ。なのに何故かそれをしみ…
「うっ、、ぐぅ、、、」 両肩が痛む。レイの奥義で斬られた両肩がだ。あれは別世界の話の筈だ。時を遡った俺の今の時間軸では起きなかったことだ。恐らく、俺がトドメを受けたあの強烈な瞬間を、心が現実にしようとしているのだ。俺は鏡に写して自分の肩を確…
シャワー浴びている最中、こんなことを書こう、、と妄想すると、いいアイディアが浮かぶことがあります。 我ながら、「これいい!」なんて思ったりします。 そして寝て、朝仕事に向かい、ストレスと疲れと共に電車に揺られて、昨夜のプロットは忘れて、空い…
「ライデン、、、これは一体、、?」 久しぶりの、強い雨の日だった。シンは息も絶え絶えに倒れるライデンの半身を起こして尋ねた。胸の刺し傷は深く、雨とともに流れ続ける血の量は多い。「はぁ、はぁ、シン様、、」「ライデン!」助からない、、、ライデン…
「そう、、、」 売りを生業としている馴染みの女だった。つまりはこの時代の女には最も一般的な仕事と言っていい。やや異なるのは彼女は実質的にはシン専属だった、ということだ。シンも南斗の拳士といえ、女を求める衝動はある。感情が女を求めなくても、自…
「謎の男たちか」 複数あるシュウたちレジスタンスのアジト。その一つで合流した俺は、ユダとの対戦のこと、そして結果的にその戦いを止めることとなった四人の男たちのことを伝えた。「その中の一人、岩のように大きかった、と」心当たりがあるのか?シュウ…
「そろそろ時間の筈だが」 自動巻きの腕時計を見て、ガルダは一人呟いた。口調からすれば毒付いたに近い。瓦礫が散乱したビル内の一角だが、外を通る道は広く、その見通しは悪くない。それでもガルダと待ち合わせた、あの連中の姿は一向に見えない。黒いロー…
一体、何が起きたんだ、ユダに。こちらを侮り、見下すような素振りもない。本当にユダか?この男は。そう疑うほどに落ち着いている。というよりも、、、凄味がある。纏っている。この男もラオウと同様に闘気を纏っている。もちろんラオウほど強大なオーラで…
北斗神拳伝承者ケンシロウでなければサウザーには勝てない、、、シュウはそう言い切る。望みはケンシロウだけなのだと。同感だ。ケンシロウはこの乱世の光となる男。口下手で朴訥とした男だが、紛れもなく北斗神拳の正統伝承者。あの圧倒的な強さは決して向…
「やけに」シンはライデンに話しかけた。 「今日は黒ローブたちが目につく」聚聖殿内のそこかしこを宗家のあの不気味な連中が徘徊していた。更に気になることもあった。あの出来損ないの機械のようなぎこちなさで歩いていた黒ローブの老人たちの動きが、この…
流石は三面拳最強と噂される男ゲッコウだった。 彼の南斗月辵拳は孤鷲拳と似た実利追究の拳。実際かなり似ていた。そしてゲッコウの戦法は拳士ではなく戦士と言う方が合っている。拳士という括りで捉えてしまうと見えなくなるものがある。それをゲッコウは思…
「ユダ、うぬも入るがいい」まさかの拳王の申し出に俺は戸惑った。と、同時に俺を「うぬ」と呼んだことに怒りを覚える。もっとも、、、俺はこれからキサマに一泡吹かせてやるつもり。少々のことは多目に見よう。「何を言う拳王。客人をもてなすため用意した…
聚聖殿から出て進むこと一時間弱の距離にある深い谷。そこに今回目的の修練場がある。 谷の遥か下に川の流れが見える、落ちたら南斗聖拳の拳士であろうと助からない高さである。その谷底から数十本の石柱が伸びており、その上、直径1mほどの円形の足場で戦…
拳王を迎えるために俺が準備したのは山間にある、かつて栄えた世界での旧温泉街、、、の近くにある、学校と呼ばれた施設だった。俺は特殊且つ上級国民の家に育ち、後に南斗聖拳組織に送られている。下々の民を寄せ集めたこのような施設とは無縁だった。感傷…