妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

144.

「思い掛けないほど、上手く行きましたね。こんな時は逆に用心しないと」

南斗宗家聚聖殿に隣した旧世界の機能を持っている真っ白な街、、白の街。
南斗宗家内部の人間でもあるリハクの手引きにより、そしてまさかの天帝軍の助力も得て、この白の街はあっさりと攻略に成功していた。
天帝軍を動かしたのは、言うまでもなくナンフーである。
とは言え、蝙蝠本人とその隣にいるナンフーの「中の人」の一人にして南斗将星付きシュメの棟梁モウコの活躍なしにはこの勝利はあり得なかった。
とにかく凄まじい、その一言に尽きる奮闘ぶりであった。
「感応者」であるモウコは南斗の流派を会得はしていないものの、その戦闘能力の高さは半端な南斗諸派よりも遥かに秀でていた。
武器も使わず、そしてもちろん「聖拳」も有してはいないが、その掌底打ちは敵を砕き飛ばし、
鎧で固めた相手に対しても、衝撃のみを内部に浸透させるという秘技を用いて、止めようのない前進を見せた。
組織のリーダーが先頭を切って進むのなら、他のシュメたちもその勢いに乗って突き進む。まさに烈火の如き勢い。
その前進し制圧する様は、蝙蝠に聖帝サウザーを思い出させる。
同じく「感応者」であり、南斗蝙翔拳を会得している蝙蝠も、ボヤッとしていては置いて行かれるほどの勢いだった。

もう一人いる。

蝙蝠やモウコと同じく「感応者」。そして時にナンフー役を務める、将星付きシュメの副棟梁、リュウキである。
両刃の剣を二刀扱うその戦闘能力は、素手で戦うモウコをも凌ぐもので、その活躍ぶりは正に目覚ましいものだった。
力だけならモウコよりも上、、彼本人もそれを認めているほどで、戦闘中にあっても不敵な笑みを失くすことはない。その表情もまたサウザーを彷彿とさせる。

サウザー様は拒否されたが、リュウキは元々影武者の役割も備えていた」
「なるほど、、、」

あのサウザーが影武者の類を置くことはあり得ないが、備えそのものを怠ることはない。それがシュメの中でも精鋭で構成された彼らの凡常。

「ところで蝙蝠」

ムスッとした顔でモウコが尋ねる。

「そなたの顔が随分と晴れやかになった。救い出した者たちの中に、近親者でもいたのか?」
「、、、いいえ、おりません」
というその顔は「ええ、いましたよ」と言っている。
だがモウコは「そうか」とだけ言い、辺りに目を向ける。その視界に入ったリュウキも、シュメの仲間たちも油断ない目で警戒を続けている。

あまりに簡単過ぎるからだ。

考え過ぎか?
天帝軍の加勢に敵も怖気付いたのか?

「モウコ」
リュウキ。流石の勇猛さだな」

リュウキは鼻で笑い、警戒を怠るべきではないとモウコに注意喚起する。もちろんシュメの棟梁モウコが、それを怠ることはないと知っていても。
次いでリュウキは、
「そしてお前が噂の蝙蝠か」
と蝙蝠に目を向けた。

「へい」
と返事した蝙蝠は、嫌味のつもりはない薄笑いで、やや上目遣いにリュウキを見る。
口元の片側だけ吊り上げたリュウキの笑みは、本当にサウザーに似ていた。

「本来、シュメが南斗様の技を会得した場合の処遇は存じていよう」
「もちろんですよ。ですが今はもう少しだけ延ばしてくれませんかね」
「フン、、我らはお前たちとは別のシュメだ。お前たちのことはお前たちでやれ」
「へい、、まあですね、私はシュメではないんですよ、もうね」


白の街の高い天井に幾つも設置された排煙口が轟音を上げて煙を吸い出している中、その音を掻き消す爆発音が響いた。それに続けて銃声まで。

「モウコ!」
「うむ、やはりか。銃器の類は設えているとは思っていた」

自動小銃を構えた敵兵たちの出現には流石の天帝軍も瞬時に劣勢に追いやられ、退却を余儀なくされていた。

「フフ、、聖帝様であったらこのような事態でも前進しか許されまいよ。なあモウコよ」
「うむ」

モウコは余計な言葉を発しない。ほとんど勝利を確信した戦況からの、この劣勢である。
組織を束ねる者としては、当然に無駄な兵士の死を避けたい思いがある。

「任せろ、モウコ。先ずは銃器を扱う者どもが、正規に訓練された兵士たちか、それを見て来る」

幸いにして市街戦である。銃器から隠れる物陰を探すのには困らない。
そこを獣のような速さで動き回れる人間リュウキなら、眼前の危険も最小限にまで縮小できる。
知恵を持った獰猛な虎が二本の剣を持ち、そしていつの間にやら、その後には優秀な部下たちが従っている。

「はぁ、凄い方ですねぇ」
「うむ、あれがシュメ最強の男リュウキだ。銃声と気配からして、、、さほど多くはあるまい。奴だけで制圧してしまうやも知れぬ」
「たしかに」
と蝙蝠は肯いた。


またもや幸いにも、銃器を構えた敵兵たちは野党に毛が生えた程度の連中であった。十人程度で一つの群れをなし、各群れが放射状に広がりながら攻めて来ていた。
リュウキは、このような場合に取るモウコの選択を知っている。モウコならこう考える筈だと。
敢えて攻め込ませ、敵の群れ同士の距離を遠くさせる。

「フン、素人め」

読み通りだった。自分たちが銃を持っているという有利にかまけ、せっかくのその利を自ら捨て去っている。
リュウキは、そして別の場所ではモウコと蝙蝠が、孤立したことに気付いていない愚かな群れに狙いを付けた。
身を潜めた天帝軍の勇気ある兵士たちも、ナンフーの手の者である手練れの働きを邪魔すまいと、一時の静寂を貫いている。

二人のシュメがリュウキと合図を交わすことなく同時に動く。銃兵の気を逸らすためである。流石の手練れであった。
リュウキは「見事!」と感心することすらしない。戦闘能力という点では「感応者」ではないそれらの戦士だが、
言ってみれば彼らも忍の者である。工作活動の類はその技量に不足はない。
彼らが作り出したスキを逃さず、リュウキが絶妙な機を以って敵兵たちの中央に飛び降りた。
着地しながら二人を斬り、残りの八人も瞬く間に斬り捨てた。反撃はもちろんのこと、何かしらの反応も満足にはさせない速さであった。
蝙蝠とモウコのコンビも、個人としてはリュウキほどの戦闘能力を持たないにしろ、力を合わせる分がある。
こちらも一瞬にして敵の群れを絶命させている。
他の工作員たちもガソリンをばら撒く火術を用い、銃を装備していてもただの野党上がりである敵兵を駆除している。
その優勢に乗じて隠れていた天帝兵たちも奮起。数人の犠牲者を出しつつも銃兵雑魚たちを追い返すことに成功していた。


「フフ、銃を構えても素人ではこんなものよ。やはりここは俺の出番か」

長い黒髪、口髭、黒いロングコート、、、
その黒い衣服の下の鍛錬された肉体。そして何より、さらにその肉体の内側に宿る「氣」。

逃げる雑魚たちには目もくれず、男は一人、各所火と煙が上がる白の街に足を踏み出した。