ホタル様の愛した方、、、はですね、私と違ういわゆる「事務系」の方でした。
ヘンショウキ様は「現場」の方でしたが、南斗様が直接に現場を手掛けることは極めて稀でして、己が流派を高め究めるのが実際のお勤めでした。
現場をこなすのは大概私たちのような「下請け」でして、苦労をしても使い捨て、というような悲しい面はありました。
だから私、昔の世界のサラリーマンという種族に、共感できないわけでもなかったんです。
いや、失礼しました。また話がそれました。
その方は「事務」専門でして、南斗様の何かしらの流派を会得しているわけではありませんでしたね。
もちろん、南斗様の世界ですから半端な武など身を滅ぼすだけです。武に暗いならペンと計算機を使うことに専念なさった方がいい。
、、、不思議なことにね。私が心を鷲掴み、いえ、蝙蝠掴み、でしょうか?、まぁされましたホタル様と懇意も懇意、と言いましょうか、
男女の仲にあるかの方に対して、私は少しの嫉妬心も抱かなかったのですよ。
確かに、、今頃ホタル様がかの方に組み敷かれているのでは?などという愚にもつかない想像を巡らしたことも、はい、ありました。
ですが、私自身、かの方と言葉を交わさせていただき、「ああ、こういうことなのだな」と得心してしまったのですよ。
痩せておりましね。いえそれこそ、どうやら少しばかり病弱な方でしたから。
後々わかってくることなのですが、かの方は南斗聖拳という組織に、何と言うのでしょう、、反対というか、納得していないというか、、、
とにかくですね、南斗様のやり方、もっと言えばその存在を否定しつつ、反面、世の現実の中では必要なバランサーであるとも理解していた、というような、、、
これが世間様でいう普通の職業なら、退職届でも出せば良いのでしょうが、生憎それが南斗様ともなるとそうも行かず、、、
組織から生きて出るなど叶わない。生きる以上は直接でないにしても、ご自分の手を染めなければならない、人様の血でね。
そんな思いをずっと抱えていらっしゃいました。そんなお心苦労も、かの方を病ませていたのではないでしょうか。
南斗様の中でも、わりと有力な系譜のご子息のようでしたが、そのお身体は痩せていて、まるで芸術家というか、、、
そう、神経の細そうな昔の小説家といったような、、そのようなところでしょうか、、? 違うかな?
端正なお顔立ちでして、ああなんだかんだで女性(ニョショウ)と云ふものは綺麗な顔の殿方を好むのだなと、感心したものです。
私も、、、顔ならそこそこだとは思いますが、このサウザー様にいただきました置き土産が目立ちますかね? フフフ。
私はですね? 生まれた時からシュメでしたから、いつから苦無を手にしていたかは覚えておりません。そんなのが当たり前の世界の生き物でした。
南斗様も基本的にはそうじゃないですか。
それなのにですよ?、受け入れつつも苦悩して、仕事をこなすごとに崩れそうになっている。
どの道、かの方は長くは生きれなかったのでしょう。
本来であれば、私蝙蝠めは、そんな甘っちょろい大の大人にはこれっぽっちの関心も抱きません。
南斗様のお人でありながら、何を浮ついた理想を?と一笑に伏すところですが、そこはホタル様の選ばれた方という色眼鏡をかけていたせいか、
軽く流せないような、どこか重く、悲しく、そして儚い何かを感じたものです。
私はシュメに育った忍でしたから、どうにもそのような感情を理解するのが困難だったのですが、何となくどことなくわかったような、そんな気がしたものです。
でないなら、それは単に、ただ単に理解しようとしていた、、のかも知れません。
そう、ですね、、、あのホタル様のお隣に立つという意味において、私は到底かの方に敵わないと思い知らされていましたし、
だからこそ、かの方を理解し、自分より格が上の方だと知ることで、まだ幾分か残る、しかし、
きっかけが在れば一気に燃え上がってしまうようなホタル様への一方向な思いを鎮めようとしていたのかも知れません。
かの方は、物腰柔らかい、、と自分で言ってしまいますが、そんな私には、その赤心を推してなんとやらな風に接してくれましたよ。
私のような社会の人間には、はぁ、、かの方のような人が、その、、苦手でした。悪い意味ではなくね。
戸惑ってしまうのですよ。裏表なくご自分の青臭い理想を語る方には、ね。
どうにも青臭くて、馬鹿らしくて、弱々しくて、なのに無視できない何かがある。
それはきっと私のような世界の生き物には持ち得ない、ええ、決して持ち得ない何かを有していたからなのでしょう。
もちろん、かの方は私が密かに抱いていたホタル様への小さな気持ちを知る由もございませんでした。
それでです。
こう言ってしまうのは、既にシュメではない現在の私の言葉だということでお赦し下さい。
どんな人間の集まりでもそうであるように、南斗様の組織の中にも、どうしようもない者たち、というやか、、いえ、方々がおりました。
南斗様の聖なるお力を頂きながら、その力を暴力にしか使わない方々です。
あ、いえ、昔のシン様を言っているわけでは、、、ありませんよ? はい。
それでそのような中にですね、とある下衆、、、失礼しました、、、お方がおりましてね?
武器に頼らない「聖拳」を授かるほどでしたから、その武威もなかなかの方でした。
「現場」にもわざわざ、そしてたびたび訪れ、私たち、あ、当時のですよ?、、、シュメを散々顎で使い、、何と言いましょう、、、
刺すところは刺す、という方でしてね。その血で汚れた(よごれた)指を舐めるような、何ともえげつない方でした。
あ、まぁ、シュメを顎で使うのは南斗様には当然のことですから、先ほどのところ、忘れて下さい。
ふぅ、、、その方がですね? ホタル様に目を付けたのですよ。
はい、別に何の捻りもない、ありきたりなお話なんです。
は!? いえ、別にケンシロウ様からユリア様を奪ったシン様を揶揄しているわけでは、本当にございませんからね?
似たようなことかも知れませんが、一方は六聖様と北斗様、一方は失礼ながら、、、まぁ、、まあ。はい。ええ。
すみません、、もう言葉は選びません。
その下衆はですね、拳士でもないかの方が、美しく、拳技も備えたホタル様を妻として迎えていることに、納得が行かない、、嫉妬してたわけです。
南斗様も組織としては適切に運営すべきものですが、やはり力こそ正義なものじゃないですか?
通常なら「事務系」が「聖なる拳士」様と懇ろになるなんて許されるものではない!という考えもありますよね?
六聖様ともなると、そんな下々の諸事情など、気にもなさらないにせよ、下々の人間にとっては、これも一大事なのですよ。
しかしながら、かの方は事務方とは言え、先ほどを述べましたが、有力な系譜のお生まれ。手を出せば、どぎつい報復は確実です。
あ、なんか私、南斗様のこういうところ、実はわりと好きだったりします。理性のない獣、ではありませんものね?
力が絶対の正義でも、だからって何でもかんでも、というわけには行かないってところ、わりとねぇ、はい。