妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

161.蝙蝠

話が長い、、そう思われる前に、いや、もう遅いですかね。急ぎます。こうやって話す機会って、近頃めっきり減ってしまったものでしてね。

誰かに色々と話したいという衝動がときどき、、、あ!、すみません、こいうところですね。

 


その下衆はですね、、実名を出したくもない下衆様なので、G様としましょう。します。いえ、若い方ですよ? ホタル様やかの方と同年代の。

いやハハハ、爺様ですよ、それは。G、アルファベットのジーです。

 

 

「お久しぶりです。ヘンショウキ様」

ヘンショウキ様は無言でした。

いつもなら、「おう、来たか。じゃあやるか」と技を試すための実験台と言いながら、蝙翔拳の秘術を伝授して下さるのですが、、。

曇天でした。崖っぷちに立つ黒衣装のお姿が曇天の暗い灰色に映えてたのを覚えています。

私の言葉を無視した、というよりも、言葉を発せられないというような重苦しい気が感じられました。伝わって来ました。

怒りと悲しみと、その制御が忙しく明滅しているような荒波のような強さその上に、重く巨大な一枚の真っ黒い鉄板で蓋をしてる、、そんな気がしました。

だから、表面上は静かなんです。ですが、この方をよく知っている私でしたから、何かが、、決して良くはない何かが起きたのは間違いないと、感じ取れました。

私も「どうされました?」とは言えません。ヘンショウキ様が何かを仰るのを待ちました。

 


「ホタルが、、、」

ザワっと私の胸が騒ぎました。脇下から背中からと、肌がざわつき、もう嫌な予感しかない。そうでないはずがない。

「死んだよ」と、ヘンショウキ様は振り返りました。あっさりと、核心部分を仰いましてね。

で、私はというと、片膝を着いた姿勢を変えませんでしたが、実のところ、身体が動き出すのを抑えるのに必死でした。

「何故です!?何故です!?何故です!?」と詰め寄りたい気持ちを抑えるのにね。

ところが意外にも、全く意外にも、ヘンショウキ様は、実に静かな目をしておられました。ええ、本当に意外にです。

そのお身体には破裂しそうな思いが強い圧力で閉じ込められているというのに。

だからこそ理解しました。この方は「やる気」だと。

そしてその穏やかとさえ言える静かな目とは裏腹に、そのお身体の中に蠢く怒りと憎しみが見える。奴以外に考えられない、、、直感的にそう思いました。

例のG様がホタル様を手籠めにせんと、色々と良からぬことを詮索していたのは知っていました。しかし、そこはホタル様とて南斗蝙翔拳の伝承者。

女性(にょしょう)と言えど、そうそうG様も力づくで思い通りに、とは行かない。

ですが奴には、やはり揃いも揃ってどうしようもない同類の取り巻きたちがいる。それに加えてG様は各方面に顔が利く。

一方でヘンショウキ様と来れば、谷に籠って拳技を磨くといったお方でした。

六聖拳様を超えてみせる!などと豪語するような、言ってみれば突き抜けてしまってる方でしたから、あんまり親しい方はいなかったようで。

 


「野郎の親父とはよ、昔はよく技を競い合ったもんだ。拳士として負けたくない思いは当然に強かったが、

フッ、お互いパッとしねえながら、言葉に出ささずともよ、それなりの敬意を持ち、いつも負けじと切磋琢磨して来たんだよ」

「、、、、」ああ、何故にそんな昔話を?

「だがよ、そんなあいつも自身の拳を継承するにあたり、命を落とした」

「、、、、、」そんな古き友のご子息があの、、、

「それは悲しくはねえ。少しもなぁ。むしろ羨ましいかぎりだ。俺はわざと負けねえことにはホタルにやられねえからな」

以前、ヘンショウキ様は、「ホタルには才がある、拳のな。だが、女だ。才があり、南斗の拳も身につけたが、

女は戦うようにはできてねえ。戦えても、根っこのところでそうじゃねえ。ホタルじゃあねえんだよ」と言われてましてね。

ヘンショウキ様はご自身の流派が南斗聖拳の中では中程度、良くて中の上くらいだと識っていました。

だからこそ、六聖拳に負けないよう、いえそれこそ超えようとさえしてましたから。まあ、全く以って無理でしたけど。

 


「、、、ヘンショウキ様、、、ホタル様は、、」

どう言葉に出そうか迷いました。何故にお命を落とされた?お亡くなりに?旅立たれた?

本来ならシュメらしく自分の分を認め、黙しておくべきだったでしょう。

ですが、はい、私もまだ今よりも若い頃です。当時は当時で、もう若くはないと感じていても、振り返ると、まだまだ一介の若者だったと思うものなんですね。

私もね?、こういう類の仕事をしている、決して誇れるようなことをしている人間じゃあありやせん。

いえ、もうきっと人間と呼ばれる資格を失って久しい別の人型の何かでしょうよ。

ですけどね? 心惹かれた、、、、ん〜、、格好つけてどうしょうというのでしょう、、はい、惚れた女と、そのお人が愛した人を謀略の果てに、

私利私欲のために殺めたとなると、そいつを知ってるだけに、とても赦せたもんじゃありません。

、、、後にですがね、別のシュメから聞いたんです、、、私の「家族」ではない別のシュメからです。

かの方は元からお身体が弱かったことを巧みに利用しての毒殺。

ホタル様はG様他数名に囲まれた上、拳にて敗れ、当然ですよね、そして「回された」そうです。意味、わかりますよね?

それはもう酷いもので、、ホタル様の女性の部分はもう酷く、壊れていたそうです、、、はい、、、

でもね、壊されたのは肉体だけじゃあない! ない、、、すみません、私らしくもなく、、、

心が、、、、壊れないはずは、、ないんです。

 


話を、ヘンショウキ様に戻しますね。

まだ詳しいことを知りませんでしたが、間違いなく「決意」しているヘンショウキ様を私は止めようとしました。

もちろん、私は私でG様とその下衆どもを、とてもじゃありませんが看過できない。私が殺るつもりでした。はい。

しかし、彼奴とて弱い男ではない。取り巻きどもは頭が足りないながらに、一応はそこそこ「使う」輩ども。

ですが私は忍です。いかに暗殺拳南斗様のお一人であろうと、必ずスキはある。

その小さなスキを狙い待ち続ける忍耐力は私にある。忍ですから。全て必ず殺ります。

、、、余談ですが、サウザー様には一切スキを見つけられませんでした。はい、わかっております。脱線癖がついてます。

私の「家族」、、、にも、、、、済まない気持ちはありました。悪ければ私一人の責により、一家全員粛清とならないか?とです。

ですが、私の怒りは鎮まらない。

この人の姿をした人外の何かである私の内側に、僅かに残る人間というものを知らしめたのは、皮肉なことに強い怒りでした。

そんな私の申し出に対して、、、

「ふざけろ蝙蝠! なんでテメエがやる気になってんだ? おめえだって、しがらみみてえなものはあるんだろ?」

「、、、ですが」

「それにな!ここで俺が出なくては、南斗云々よりも、何だ、、人として、いや、少なくても男として、親として! どうすんだ!!」

この初めて見たヘンショウキ様の強い感情に、私の心も、、心に似た何かであるにしろ、震えてしまったのです。

両目が潤むんですよ、私のね。あれは一体何だったのでしょう。私に感極まって流れるアレがあるとは思えないのですが。

それでですね、私はここで、とっておきの一撃をヘンショウキ様に喰らわせてやろうと思いました。

「では、お孫さんはどうなるんです!? そして誰が南斗蝙翔拳を伝えるんです!?」

かの方とホタル様の間にできた、愛の結晶というものです。まだほんの数ヶ月しか生きていない、小さく柔らかい生き物です。

、、、ええ、そのとっておきの一撃はヘンショウキ様を思い止まらせるとは行かずとも、仇打ちに私を巻き込んでもらえるくらいの効果は期待していました。

ところがです。

「村の女たちに任せてある。それに蝙翔拳は、、」とまた、私に視線を向けて言うんです。

「オメエさんがいるじゃねえか」

 

ズシっと来ましたよ。この両肩にね。

 


お孫さんはね? 女の子、でした。

ヘンショウキ様は、いくら拳才があっても女は女、という考えの方でしたから、ホタル様から教訓を得たのか、ハナからその子に拳を継承する気はないようでした。

真顔ですよ、、真顔で南斗蝙翔拳を託すと言うんです。この薄汚い蝙蝠に。

ずるくないですか?あまりに。ご自身は血の復讐に出るが、テメエには南斗蝙翔拳を任せてるんだ。大切にしやがれ!ですよ。全く。フフ。

あ、お孫さんは託されてませんよ?

 


まだ、この時は、、、ね。