妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

85.

リンとバット、二人の若く勇猛なリーダーが軍を率いてこの村を去って後、彼はいつもこの小高い丘に座し、遥か中央帝都の方角を眺めている。
最早、第一線にて軍師としての才腕を奮うことは困難である。年齢的な問題もあるが、ラオウとの戦いで深い傷を負っている。それが完全に癒えることは恐らくもうない。
それだけではない。
ケンシロウの力を見誤ったため、ラオウ戦での勝利を妨害することになってしまった。

一生の不覚

リハクは一線から退いた。

戦いに絶対はないが、あの時にケンシロウラオウを倒していれば、かつて鬼と恐れられた男から転じて沢山の子供たちを育てる良き父となったフドウを死なすこともなかった。

 

それでも旧新両方の世界を跨いだ様々な戦場での経験は若い後進たちに分かつことができる。
特にあのラオウの前に敵として立ちながら存命しているというのはケンシロウの介入があったとはいえ、極めて稀なる奇跡的なことであることに変わりはない。

リハクは今、彼ら若い力の無事を祈り、そしてかつて仕えた将ユリアのように時世と星を背負う者たちの宿命を照らし合わせながら将来を観ようとしていた。

その彼は、南斗の男が一人、血で染まり倒れるとの予見をした。

自覚することもできないような小さな知識と情報の断片が混ざり合い形となり、遂にはビジョンとなった。決して心霊的なものではない。
そして、予見通り南斗双鷹拳ハーン兄弟のバズが命を落とした。彼の犠牲は大きいがその死が北斗の軍の二人のリーダーを救ったのだ。

ザッ、、
「は!?」
背後の足音にリハクは慌てて振り返った。
「あ、あなたは! シン様!」
生きていたのは知っている。レッドイーグルという腕利きの、いやそんな表現では到底足りないほどの賞金稼ぎの正体はこのシンであると予想できていた。
「久しぶりだな。リハク」
しかしシンの目は決して温かいものではなく、懐かしむようなものでもない。

「リハク様、申し訳ありません」
とリハクの共の者たちが謝罪するが、彼らがシンを止めることはできなくても不覚とは言えない。
「シン様、、」
リハクがシンと会うのはあの時以来である。その時のシンはシュメの蝙蝠により仮死の眠りにあり、シンからすればユリアを託した日以来ということになる。

シンの印象が変わっている。精悍さが増し、そして静かだ。だが見る者が見ればわかる。全身に刃を隠し持っているかのようで明らかに拳格が上がっている。
その姿を見て確信した。
「帝都の将軍ボルツを倒しましたか」
「流石はリハク。助言者に落ち着いてもその分「耳」が良くなったようだ」

ボルツの腕は他の将軍と比してさほどではないと聞いたが、それにしてもあの恐るべき元斗皇拳を退けるとは、、、、
ユリア様が南斗聖拳存続のため救ったこの男が驚くべき成長を遂げている。それにしてもやはりこの男は南斗存続のために隠者となることは出来なかったようだ。
それはユリア様も見抜いてはいたであろうが。

シンから目を戻し、リハクはまた遠き中央帝都に想いを戻す。
「今更この老いぼれに何用でしょう」

元斗皇拳のことは既に知っている。
知りたいのは北斗の軍の支援者だ。そして何故天帝が今更南斗を朝敵として滅ぼそうとしているのかである。
支援者についてはシンはリハクこそがその人物ではないかと予想立てていたが、リハクは既にそんな男ではなくなっていた。
歳を取って丸くなったか、目付きはまだまだ鋭い光を放っているが、今は息子たち或いは孫たちの無事を願う老人だ。
軍略のためには多くの犠牲を払うことさえ厭わなかったあの智将リハクが、、、

 

リハクによると、、、

支援者に関しては、決して多くはない情報を統合した末、今も帝都に仕える有力者である可能性が高いとのことであった。
ただし、その素性は知れない。
もっとも、素性が知れないのは言ってみれば当たり前ではある。大いなるリセットがあったのだから。
全身に酷い傷痕があるとのことで顔も包帯で覆っているらしい。その名はナンフー。

そして天帝が南斗を滅ぼすとする理由とファルコという男が抱える事情も知れた。
最も重要な点、、、帝都の全権を掌握する者は天帝ではなく総督ジャコウ。その男が南斗北斗の融合を恐れて先んじた凶行に走ったというのである。

「ナンフー、、、しかし帝都内でそんなことを為せば、噂が立つだけで危険だろうに」
「詳しくは私の耳にも聴こえませぬが有力者と言ってもせいぜい百人隊長程度だとか。ジャコウから見れば取るに足りない小物でしょう」
その疑いがかかる人物に対し元斗の将軍たちが動かないことから考えてもジャコウへの忠誠は皆無と見て間違いない。
やはりケンシロウが現れたことにはそれなりの理由があったのだ。奴は奴で己の宿命として元斗との戦いに臨むだろう。それでいて結果的に天帝を救うことになるか、、或いは否か。

「シン様、「表」にお出になるつもりですか?」
「敢えて裏に回るつもりはないが、今は北斗と元斗の「時」のようだ。自分の立場はこれでもわきまえている気でいる。さらばだリハク」
ユリアのことは訊けなかった。だがリハクのあの様子では予想していた通りであろう。
仕え続けて来た将を失い、かつて万を率いた覇気も衰えたか。
リハクとの間に咲く昔話という花はない。


「は!! まさか!」
シンが去ってしばらく経った後、リハクは急に思い立った。
自分が視たビジョン、血に染まって倒れる南斗の男、、、
あれはシン様ではないのか?

「、、、それならそれで、、、南斗聖拳もこれまでか」