妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

84.

数ヶ月前、、、

バシッ! ビシッ! ガッ!
「愚か者め! 貴様に任せたのが間違いだった!! 全くこの役立たずめ!!」
ファルコは氣を張らずにジャコウの鞭を黙って無抵抗のまま受け続けている。
怒り狂える総督ジャコウの後方には異様にゴツゴツした二人の筋肉ダルマがニヤけながら酒とツマミに手を伸ばす。大バカ息子として知られるジャコウの実子、ジャスクとシーノである。

「ファルコ、、、、俺はもう我慢ならん」
と、一歩踏み出そうとしたショウキをソリアが止める。
「ソリア、、止めるな」
しかしソリアの顔もファルコの屈辱と痛みを共感しているような厳しい顔だった。
「ここは抑えろ。これまでのファルコの忍耐を無にするな」
「何度その言葉を聞いたか!」
「声を抑えろ。バカ息子たちがこちらを見ている」
その間もジャコウの鞭がファルコを打ち続けている。
「くっ、、、せめて氣を纏えばあんな鞭など、、、」
「わからんかショウキ。あれはファルコの贖罪なのだ」

贖罪、、、あの拳王からの忠告を無視したことか。直後にジャコウはルイ様を拉致し幽閉。ファルコは元斗皇拳伝承者でありながらルイ様を護れなかった自分を責め続けている。
ジャコウとファルコの異母兄弟という関係に何があったかの詮索はしないが、ここまでの仕打ちができるのは並じゃない。

 

中央帝都内の金庫室・宝物庫。
その鋼鉄製の分厚い扉が開かれていた。破壊されていたのではなく、正規の方法で開放されていた。
開放、盗取、移送の流れがあまりに鮮やか過ぎて逆に感心してしまうほどだった。

金庫室はジャコウの用心深さもあり複数設けられているため、帝都の財政を傾けるような被害はない。
しかしジャコウの憤慨はほぼ無関係な者たちにまで及び多数の犠牲者を出した。もちろん犠牲者とは言っても、公式的には天帝の財産を守れなかった大罪人としての処刑である。
その際に消えたジュドルの行方は未だに不明。状況からして金庫番の者たちの結託による犯罪行為であることは間違いない。
少し後にわかることだが、その者たちの経歴は全て虚偽であり、人質に取った筈の家族らも元から存在していない。関連書類はほとんどが偽造されていたことになる。

「、、、、」
素人ではない。十分に綿密に練られた組織的な犯行だ。こちらの目を欺くための信用も必要だ。そのための年月も計算に入れてあったということであろう。

そして、その事件があってからだった。
抵抗勢力の力が大きくなり小競り合いの数が増えていた。
それを鎮圧するのも徐々に奇妙に困難さを増し、やがてその中から北斗の軍と呼ばれる一大勢力が台頭する。

有事の際には金の流れを追え。

もちろんジュドルはこの地上遍く浸透しているわけではない。どこぞのエリアやその近隣の村を当たれば高額使用された痕跡は残っているだろう。
だが、ジャコウは怒りと不安と、何より近頃よく見るという悪夢からの恐怖でそこまで頭が回らない。
それでファルコに八つ当たりしているのだ。ファルコは立場上金庫室・宝物庫の管理者だが、あくまで名前だけだ。ファルコには他の役目が多すぎる。

ショウキはジャコウへの怒りで熱くなった頭を努めて冷却しながら考える。
何者かが絵を描いている。この盗難事件と近頃の「テロ行為」は無関係ではない。何者かが帝都転覆を裏で操っているのではないか?

打ち続けられるファルコをこれ以上見ていることは出来ない。ジャコウが疲れるまでこれは続くのだ。
ショウキは断りもなしに総督の間を後にした。大バカ息子たちがその後ろ姿を睨む。
二人は目を合わせ無言で頷いた。
ショウキに叛意あり。監視を強める必要があると。


「そんなことが、、、」
帝都圏内の小さなオアシス。その一角にある古い戸建てを仮住まいとしている南斗聖拳のシンに報告したのはシュメ一族の男。黒づくめの衣装で身を包んだ痩身。
名は鴉。
女のように長く黒い美しい髪をしており、色白で綺麗な顔の口元は濃いグレーのマスクで隠している。理由は知らない。どうでもいい。
「はい。北斗の軍の動きを調査すべく潜り込んでいた身内からの報告がありました」
蝙蝠もそうだが、動物特に飛ぶ生き物の名をそのまま使っているシュメは手練れである、という認識がある。
コダマがリマたちの村を守るために派遣した男の一人で、爆発物の扱いに長けた危険人物だ。感情の起伏がなく、淡々と話す様子は感情の人であるシンから見れば好ましくはない。

細く長い指はピアニストを連想させ器用な仕事はなるほど得意そうではある。
「はい」
「しかし、そんな組織立ったことができるのは、それこそお前たちシュメではないのか?」
鴉は黒髪を後ろに流しながら切れ長の目でシンを見るが、その目からはまるで感情が読み取れない。この者もコダマたち革新派だったのだろうか?
「そうかも知れませんが、そのような訓練を受けた人間、つまり元軍人か、その類縁の線も」
実行犯だけが問題なのではない。その大元は何者か?

「では私は命ぜられた村に向かいます。しかしご安心を。私がその村に住み着くことはありません。警護の役目を為すだけです」
この男も同様だ。南斗聖拳がそうであるようにこの鴉も人とは共に居られない。居てはならない種類の人間だ。
「シン様へのサポートはシュメの腕利きが複数で行います。望まれる情報は可及的速やかにお届けできるでしょう」
と、スゥと静かに出て行った。
真昼間から全身黒い服の長身で痩せた男が静かに歩いているその姿にはどことなくミスマッチの美があった。
数々のならず者たちを見ているであろう、すれ違うエリア民も鴉の異様な雰囲気に道を空けている。
「フッ、あれで裏仕事ができるのか?」
鴉がオンボロなクルマに乗り込むのを見送った。

さて、、、
謎のテロ支援者か。あの物知りなら何かしら知ってるだろう。シュメに捜索を願うとしよう。