妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

74.

ボルツの氣に圧されてシンの上体が浮き上がった。
その隙を逃さず多数の闘気の槍を突き刺さんとするボルツ。


、、、、、

指の一本一本から蒼い光の槍が発せられているのを極限状態に入ったシンは視た。
一撃の拳を押し出せば同時に指の五本の槍が刺して来る。それを高速で連発することで光の槍はその数を増す。
初めての元斗の拳を相手にシンは先ず「観た」。そして既に見切った。


南斗千首龍撃!!


体内の疼きを解放した。
半分は意識的に、もう半分はダムが決壊したが如くに無意識に流れ出た。
無数の氣の槍を、シンの実の拳が相殺し、それで尚余る攻撃的で飢えた数多の龍の首は槍と槍の隙間、即ち指の間に喰らいつくべく首を伸ばす。
高揚感と同時に、どこか遠くから俯瞰するような冷静で他人事のような思い。


バシシッ!!


シンが強く押されたように後方に離れた。
その接触は瞬間であっても、実際は夥しい数の衝突があったその合成音である。蒼い光が弾け散った。

スタッ
シンが着地した。
本人さえ驚いている。自分で描く以上に拳が速く、そして軽かった。
脚の力を地面に当て拳を強く打つ、というようなことは南斗聖拳に必要はない。宙に浮かされた足場の利かない手打ちの拳でもまるで問題はない。
外部から突き入れ全てを破壊する鋭さと速さ、、、南斗聖拳の原点にして奥義を自らの拳の中に再認識した。
それでもふと拳に軽い違和感を持った。見ると拳の薄皮一枚が凍り付いている。
焼き、斬り、凍らせる、、、この時代には貴重な技術だ。道を間違えたか、ボルツ。料理人にでもなるべきだったな。
パリン、、拳を握り込み凍った薄皮を割り散らす。

 

「お、おおお!」
ズバッ!
ボルツの指が全て裂け斬れ、次いで青い服が赤黒く染まって行く。シンの裂気の拳の幾つかはボルツの胴体に着弾していた。
その激痛で膝を着かんばかりのボルツではあるが、シンに憎しみの眼を向けて元斗皇拳の意地を見せる。
しかし、勝負あり!

帝都兵たちに動揺が見られた。誰一人としてシンに襲い来ようとする気配はない。元より忠誠心などないのであろう。
「に、逃げるぞ!」
遂に一人が叫ぶと恐怖が連鎖し、敵兵たちは恐慌を来たしながら一方向、シンの逆方向に逃げ出した。

偶然だが、その方向はリマたちのいる村と反対方向だった。

 


シンは油断はせずにボルツに近付いた。
「ボルツ。キサマのおかげでまた一つ高い舞台に上がれた。感謝する。で、、、どうする?」
拳士としての勝負はついた。だがこれは果たし合いではない。南斗を侮ったボルツに怒りは残るが、ここでボルツを攻めるのはただの殺人に過ぎない。
「天帝とは何者だ? こんな辺境の地まで、ただ南斗の名を冠する者たちを討とうとする。そこまでするのが彼の天帝なのか?」
当然、シンは天帝が提督ジャコウにより幽閉されていることを知らない。ボルツはもちろん知っている。知りながらジャコウに寄り暴虐を楽しんでいた。
「こ、これが南斗聖拳の将の力か。まさか奴以外にここまでできる南斗がいるとは、、、」
「何?」
「先程言ったろう。もう一人、銀髪の南斗を知っていると」
かつてキングとしての暴威と共に駆け巡っていたシンの過去を言っていたわけではないらしい。

「それと、言っておく。俺とやり合ったからといって元斗皇拳を知った気になるな。元斗皇拳正統伝承者にして最強の男、金色のファルコの力は俺の比ではない」
「、、、」
「これで貴様は完全に天帝の敵となった。政敵だ。逃げようとどこまでも追われる。天帝とはそういう方だ。脅威となり得る敵を放置はしない」
ボルツはジャコウのやり方を天帝のものとして語っている。
「それともう一人、、、元斗にはとんでもない男がいる。その男だろう、貴様をヤルのは。もう逃げられぬわ! そ奴から見れば貴様など何の脅威にもなるまいがな!」
ボルツは苦痛に顔を歪ませながらもシンを笑った。

いいだろう、、、介錯しよう。
いや、、まだボルツの目は死んでいない。指は全て破壊されてもまだ勝機の訪れを待っている。

南斗千首龍撃、、、我ながら速かった。だが、千手羅行の末に身につけたこの秘技も、更なる高い舞台に上がるにはまだ足りない。
もう一つ、試させてもらう。

「ならばボルツ! これで終わりだ!」
シンは高く舞い上がり鷲のように構えた。南斗猛鷲脚!

「!」
馬鹿めが!
やはり南斗聖拳は馬鹿だ。馬鹿と煙と、そして南斗は高いところに上がりたがるか!
指は失ってもまだ掌がある。
南斗のような馬鹿のための対空技は元斗にしっかりと用意されている!

ボルツは掌に残った氣を全て集めた。
圧拳!
「元斗猛天掌!!」

最高点に達し落下に転じたシンを下からボルツは迎撃に出る。
左の流輪で蹴りを捌き、開いた胴体を右の圧拳にて滅殺してくれる!!