妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

73.見切り

シンは「南斗聖拳を見せる」と言った。ボルツの氣弾を捌いてみせていたが、それが南斗聖拳の真価のわけもない。
そのシン本人は特に呼吸を変えるなどの大きな違いを見せてはいない。

対するボルツにしても中距離では氣弾を連発したところで当てることは出来ないとよく理解している。
ならば今度こそ光の拳で斬り裂いてやろう!

シンが歩みを止めた。まだ構えていない。気負いもなく、ただ静かだった。
ボルツも同時に止まる。だが今回は右足を半歩前に出して構えている。半身になるほどではないが先程までとは異なりシンを警戒する内心を映し出している。
二人の距離は約5m。

「何故構えぬ? 何故動かぬ?」
ボルツが問う。
「これは構えなき構え。キサマは我が修練の成果を試すに相応しい」


今や観客の一人に過ぎないダンだが、流石に南斗の男である。二人の間に満ちる氣当たりにより空気が乱れていることを感じ取る。

だが、その氣が押し合い密度を上げているかというと、そうではない。

圧縮されて今にも爆ぜる、というのではない。

そうだ、真の南斗聖拳の裂の氣が、圧縮される二人の間の氣を斬り裂いて、結果逃している。

シュメとして南斗を見続けて来たコダマも、「使い手」が感じるのとは異なる感覚で二人の間の氣が特異な流れとなっていることを肌で知る。

そして、、、

ふっ、、、ほんの一瞬、シンは脱力し膝を抜く。氣は発していない、身体の動きが先だった。
落下、、いかに「斗」の拳士でも、身体を屈めるのにこれを超える速さは平地では不可能。
最速で疾ることが可能なまでに身体が落ちた時、、、
言うまでもなくここからが常人と別次元である。


ダッ!!

南斗聖拳最強鳳凰拳の神速にして「斗」最速の軽功術でシンが飛び出す!!
固められた地面に足跡を深く残す!
サウザーが見せた、或いは敢えて見せてくれた鳳凰拳の神速前進は既にシンの中にある!

 

そして、

ドヒュン!!
その疾さに乗ったこれも神速の右手での突き!

「!!」
ボルツも氣の起こりにより反応はするが、その速さ故に避け切ることは出来ない。
だが、その直後に驚くことになったのはシンである。
「!?」
これは?
シンの突きは心臓を狙っていたが、氣のバリアに阻まれ目標から逸れた。ボルツの肩の上の空気を斬り裂いただけであった。
それはボルツ咄嗟の氣の防膜。
氣の障壁は、裂気鋭く集中したシンの突きを止めることは出来ないが、シンの胴体を押す力はあった。


僥倖、からの勝機!
氣で圧して敵の防御を弾き上体を反らす。しかも半分浮いたようなその体勢ではせいぜい後方に跳ぶくらいしか出来ない。
そこを氣斬で追い討ちすれば躱せる者はいない!
高い防御能力を誇る元斗皇拳勝利の雛形だった。

 

我が奥義食らえい!
「元斗百閃槍光!!」


カッ!
時が止まったような錯覚だった、、、

南斗を捨て、根本から武を学んだ。
賞金稼ぎレッドイーグルとしては氣を解放し、学んだ武を南斗聖拳と融和させ、己の拳を高める場としていた。
それでも南斗聖拳を以ってすれば「敵」はいなかった。

だがやっとここへ来て、命を危ぶむほどの敵と出会えた。
試合ではない、荒野での実戦でしか向き合えない死合いの中、、、ここでこそ、生と死の端境を見切ることが出来る。
死の見切りなくして、南斗聖拳の真の奥義には達しない。


無意識に突きを撃ち出していた。無意識に更に突く。止まらない。手が速い、、、


ボルツの無数の光の手が視える、、、
指の股の氣は弱い。無意識にそこを突く。それまでの経験で培った条件反射。
常に修練を続け、氣で覚醒した脳内で技を研磨することも怠らなかった。
それらの溜まりが、貯まり、拳の全てで、、、溢れ出した。
南斗六星の一人として高みに胡座をかいていた過去はまさしく既に過去。
南斗聖拳存続?
違う、、、
暗い谷底から見上げる蒼い天空は遠く眩しく、そして憧れでありそこに南斗聖拳を押し上げたいと願う遠き場所だった。


ザワッ、、ザワッ、、、
我が内で飼う龍が疼いている、、、
千の首を持つヒュドラが。