妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

77.ガル②

ズン、ズン、ズン、、、
2mはあろう巨体の男が急ぎ足で進む先はファルコの家だった。
「あ!」と驚く扉の前の従者を大きく分厚い手で制し「どいてくれ」と無礼極まる態度で断りなく家の中に押し入った。

「ファルコ!」
室内には大きなベッドの上で読書中のファルコと、黒髪の長身美女ミュウが身の回りの世話をしている最中だった。
ファルコはいきなりの「友」の来訪に驚いた顔を見せたが、その表情もすぐに穏やかな笑顔に変わった。
「ノックもせずに、、久しぶりだな。ガルゴ」

※サイバーブルーのバイオビーイング、キメラスヒィンクスのガルゴ的見た目

「ガルゴ」
ミュウもファルコの笑顔を見て少しは安堵したが、かつて元斗皇拳伝承者を争ったライバルであったという二人の関係は知っている。

まさかこの状況でファルコを倒し自ら正統伝承者の座に収まる気ではないだろうか、と思わず身を竦めた。

「本当だったのか! 自ら脚を落とすなど!」
ファルコはフッと笑うとこの元斗の異端児ガルゴに「外で話そう」と言いながら長い金属製の杖に手を伸ばした。

「ミュウ。ガルゴを誤解しているようだな。大丈夫。ショウキたちと同じくらい信頼できる男だ」

 

 

「何故、拳王を前にこんな真似を?」
ガルゴも落ち着きを取り戻し静かなトーンでファルコに訊いた。
「お前なら拳王を倒せただろうに」
「どうかな? 噂通り、いやそれ以上だった。あの全身から醸し出す強者のオーラ。勝つにしても、俺が受ける傷も命に届くことになっただろう」
ガルゴは「お前がそこまで言う。それほどか」とファルコの杖を見た。金属管を焼き切って紐で繋げただけの不格好な作りだ。ファルコがこんな物に頼ることになるとは、、、
「拳王ラオウを倒したとして、俺も動けぬ状態になる。この村は抑えの利かなくなった拳王の兵たちに襲われることは必然だった。せめてショウキかソリアがいてくれれば」
「拳王も馬鹿ではあるまい。それを見計ったのだろう。反面、わざわざ元斗最強の男に会いに来たのも面白くはあるが」
「俺が最強と認めるのか?」とファルコは返した。友を前にして口調も修行時代の若い頃に戻る。
「最強が二人いてもいい。お前ならな。やはり先代は正しかった。元斗皇拳真の継承者はお前しかいなかった。もし俺がお前の立場だったら拳王との戦いを見送ることは難しい。沸き立つ血を抑えられんだろう」
「ガルゴ」
「いいだろう。俺が拳王を討つ。俺は元斗「光」拳聖穢の戦士。俺の役目だ。」

元斗皇拳は天帝守護という謂わば聖なる使命を受けている。
北斗と南斗が天帝から去り、大陸東の王は代わる代わる歴史上に幾度も勃興した。
そんな歴史の陰に追いやられ、それでも細々と命脈をつなぐ唯一無二の天帝の血筋を常に護り続けてきた聖なる使命。
その聖なる使命を負った元斗皇拳でありながら、天帝の傍について守護するではなく、先んじて敵を暗殺する穢れた役目に身を堕とした陰なる元斗光拳、、、聖穢の拳。

 

本来それは北斗神拳の役割だった。南斗聖拳が六門を護り、北斗は天帝の御許に仕えながら、時に潜在的な脅威を排除すべく地を巡った。

 

「その必要はない」
対してガルゴは険しい顔でファルコを睨む。
「何故だ!?」
「拳王が再びこの村とルイ様を襲うことはないからだ」
「理由は?」

元斗皇拳の戦士として根本的な問題だが、ガルゴは天帝守護の役割に疑問を持っていないわけではない。

天帝は太極星の化身と伝えられていても、それこそまさにただの神話に過ぎないのではないだろうか?

護る価値や意味は本当にあるのか?

とは言え、現代の天帝があの可憐な少女では無碍にもできぬ気持ちも理解できる。それに、ファルコはルイをずっと見守って来たが、それは元斗皇拳伝承者として役割だけではない。

天帝としての敬意を払いながらも、まるで娘の成長を喜ぶ父の姿に思える時もある。


「もしラオウがなりふり構わぬ者、ただこの世を覇することだけを思う者なら、このファルコが脚を斬ったことを好機と捉えるだろう」
「、、、」
「奴は王。王だがその前に一個の拳士だ。俺もそう、拳士だ。元斗皇拳を受け継いだ拳士であることに誇りを持っている。ラオウも一子相伝北斗神拳の伝承者でなくとも、拳士としての自分に誇りを持っている」
「ファルコ」
「だからこそ俺は脚を落とした。これは賭けだったのではない。拳王軍を退かせ、ルイ様と村を救うための対価だ」
ガルゴは図太い腕を組んで納得の行かない表情を浮かべた。
「甘いぞファルコ。乱世、戦国の世にそれはあまりに甘い! 拳王があの遠方の地を征したとき、そのまま国を固めると思うか? そうではない。王とは飽くなき野望をその身に抱えている」
一度は退いた拳王も、やがて再び襲い来る。それが覇王なるものだと言うのだ。
「片脚の拳士は弱いか?」
「!? 何を言っている!」
言うまでもない! かつて俺と互角に戦った男は片脚を失ったのだ!
「ガルゴ、今の俺ではお前の相手にはなるまい。だがどうだろうか? ただの拳士ならともかく、元斗皇拳なら片脚を補うばかりか、逆にこれを一つの特徴として活かすこともできる!」
「ファルコ」
義肢装具士だったベルファに出来のいい義足を頼んである。今は最強の二文字お前に預けよう。だがそう遠くないうちにその二文字、奪い返しに行く」
とファルコは笑った。
「わかった。元斗最強の名、、ではないな。最強の男の称号このガルゴが一時預かりしておこう」

 

フッ、、何故かこのところ、、、あの頃のことをよく思い出す。
「ふ、うん」とガルゴは立ち上がった。身体が重い。
その大きな身体は自らの、そして敵の返り血で染まっている。金色の雄ライオンを彷彿とさせる長い髪も血で染まってざらついている。
「斗士」のような強敵はただの一人もいなかったが、いまだに現存していた旧世界の銃器で武装した多数の兵には、さすがのガルゴも命を落としかねないほどの苦戦を強いられた。

それも今日までのこと。
天帝を脅かす、というよりもファルコが背負う元斗皇拳の使命を脅かすであろう北西の残存勢力は滅ぼした。これでしばらくはこの傷付いた身体を休めることができる。


ガルゴは筆舌に尽くし難いほど酷い有様の戦地を後にした。