妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

106.

シンに向き直ったガルゴを包む光が徐々に輝きを増す。同時にその光の中に黒い影も色濃く映える。

ガルゴの顔を伝っていた雨は氣膜に弾かれ彼の巨体を避けて降り落ちる。

 

「影力、、、今のがそれか?」

シンの問いにガルゴは無言で頷いた。そして言う。
「無心は先にも言った通り、元斗の特性上、完全な技にはなり得ない」
「、、、」
シンは構えたまま黙って聴いている。思い込みのないように。思考の固さは膝にも影響する。膝を固くしてはならない。固さは折角のこの自由な構えを全否定する。

 

「この影力は元斗皇拳正統伝承者ファルコでも会得はできん。いや、、、元斗の光たる男ファルコだからこそ」
ガルゴが一歩ゆっくりと踏み出した。


シンは構えたままで動かないが、自分の身体を再び内観する。
、、、戦える。
しかし挑発に乗せられ燃え上がった炎は既に影力によって掻き消されている。

 

ガルゴが歩み寄る。歩み寄りながら前傾して行く。攻め氣を隠さない。襲うタイミングも分かりやすい。勝てると踏んでいるからか。

そして、、、
ガルゴが飛び出す!
「既に我が心!闇に呑まれている!」

 

シン、お前に敬意を表する。

だからお前を殺したい。

シン、お前はファルコ以来となる最強の男。

奴以外の強い男はこの手で引き裂きたい。

南斗聖拳!どこまでも鋭く何よりも速い。

南斗聖拳?所詮は「斗」の傍流。残す価値なし!

シン、お前は気付いているか? この戦いの中にあって進行形で成長していることを。

シン、お前の内臓を引き出したい。そしてその臓物を喰らいたい。

シン、この俺の前によく現れてくれた。戦いの神に感謝しよう。

シン、お前を原型残らぬほどに解体し、その血溜まりの中で安らぎたい。

南斗聖拳よ、お前にはまだ最強たる可能性と資格がある。

南斗よ! お前を滅殺した後、俺は自分が最強だと誇りたい。

シン、誇り高く戦え!俺を酔わせろ!

シン、土下座して惨めに額を擦り付けて助命を懇願しろ!

そんな姿を見せるな!

そんなお前を見下して笑いながら存分に苦しめてやろう!

 

 

ゴアッ!
ガルゴが拳を繰り出す。全てを抉り取るような獅子の拳だ。
シンは退がって回避した後にサイドへ移動し追撃を許さない

先と違う。破壊を究める南斗聖拳のシンでさえ、ガルゴの拳を直接受けることに躊躇した。素直に言えば打ち負ける予感があった。
ガルゴの気配も変化し、先ほどの無心と異なり動きは見える。
その悲しき表情は消え去り、元の通り戦場の厳しさを映し出すものに戻っている。
しかしやや違う。
今度こそガルゴの本気の本気のようだ。厳しい表情の中に仄かに漂う狂気の香り。
さっきまでガルゴは南斗聖拳を様子見し、シンという一人の拳士を観察し、そして多分、ガルゴ本人が体得した元斗の究極奥義を見極めていたのだ。

それが今は遂にケリを着ける頃合いということだ。

 

「むん!」
続くガルゴの攻めを、現時点では唯一シンが優っている要素、素速さを駆使して間合いを巧みに外し回避する。
それにしてもガルゴの動きが落ちない。これほどの氣を放ちながら、加えて先ほどの屠脚の一撃もそれなりの傷は与えているのにだ。
シンにもダメージがある分、このまま逃げているだけでは先にシンの動きが止まってしまう。
ガルゴというかつてない強敵との長い戦い。体力、氣、脳力、その全てが極限にある。

オーバーヒートかガス欠か、、、シンの戦闘継続可能時間は確実に、既に確かな実感として減少している。

 

「!」
ガルゴに一呼吸の溜めがあった。

「おおお!」
ガルゴは両掌を押し出し、金と黒のおり混ざる闘気の濁流が発せられた!照射範囲は広い!
ヒュン!

それを神速の足捌きで回避すると、、、
ダン!!
移動角度を急変させ、照射後の隙を狙う!
ガルゴの氣を浴びたコンクリート床は割れ、剥がれ、溶け、或いは凍っている。

そしてシンが詰める!

また無心で逃げられるか?反撃されるか?
そうは思わなかった。先ほどとはガルゴの様子が違うからだ。
それに氣の消費の隙を撃つというよりも、もっと単純な話である。拳を突き出した打ち終わりの隙を狙うという基本的なものだ。
距離があってもその一瞬の隙に食い込める。それを可能にするのは、、その間合いを詰められるのは南斗聖拳の神脚!

ギュン!
間合い!だが先ずは浅い間合いでいい。

ガルゴもシンの動きを予測しながらの戦いである。シンの予想外の方向転換の速さとそこから続く前進の疾さには意表を突かれている。
そこに、、、シンは右の突きを撃つ!
ドシュッ!
ガルゴの左肩を浅く刺した!
浅いがそれでいい。この男を相手に簡単に取れる間合いは来ない。

「おう!」
ガルゴも金と黒の闘気でシンに反撃!
ボッ!
横に躱す!
シンの足が神脚で砕いた石面をガルゴの氣が更に細かく粉々にしながら穴を穿つ!

 

もう既にシンには取っておきの技はない。
その思いが逆に南斗聖拳の奥義である外部からの破壊を改めて思い起こす。
結局はどんな技も術も、この全てを破壊する南斗の拳を当てるための工夫に過ぎない。
余計なことは考えない。この南斗の拳を当てること、それ以外は雑念。

最後に頼りになるのはこの両手、この身体、南斗聖拳
授かった必殺の南斗聖拳に受け継がれている英知と、彼本人の経験、才能、思い、、、それらは既に形作っている。

南斗聖拳の無心を。