妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

76.ガル①

「あ、あれは?」
「炎?」
「いや!燃えているんだ!人が燃えているんだ!」
「まさか! だったらあんな平然と歩けるわけがない!」

遠く、大規模な土砂災害があったと思われる土に埋もれた荒野を、炎に包まれた男が悠然と歩いて来る。
ボルツの敗北により離散した帝都の兵たちは、その男の異様な様子にただただ焦るばかりだった。
恐るべきあの南斗聖拳から逃げて来たと思えば、今度は正面から謎の炎の男が迫っている。帝都の将軍ボルツの隊に所属した誇りと傲りは過去のものになってしまった。

「ん? あれは!? 、まさか!」
炎の男が目前に迫る。
燃えている。炎を背負っているかの様。
しかし自然の火とは違う。
うねり方が不自然で木彫りの炎の様に実体とも言うべきか、それこそ掴めそうな質感があり、明王像の火炎光背を彷彿とさせる。

「何処へ行く?」
メラメラと燃える男が発した言葉は意外にも若い。ヒュ、、揺らめきながら煌めいていたその炎が消え去った。
「おま!、、、あなたは!」
シンと同じような体格、銀色の髪、紫色のマントに付いた肩当てには、人工物か本物かは見分けが付かないが鳥の羽根らしきものが多数飾り付けられている。衣服は鮮やかな色を散りばめた派手なものだ。
そしてそれら何より目立つもの、、その若い整った顔の右目から右頬にかけて鉄仮面が付けられている。

ガルダ!」
「な、こいつが!」

※新しくオリジナルキャラを出すよりスピンオフ作品ながら既存のキャラの方が良いと思い、黄金翼のガルダからそのままお借りしました。
ただし、作品自体は読んでいないので見た目と流派名(火が関係しているとか)、そして宿星等以外は勝手にテキトーにやらせてもらいます。

「何処へ行く?」
ガルダは穏やかな口調で問うて来るが、その中には刺々しい響きが混ざっている。
ボルツという自分たちの将が敗れたというのに仇も取らず逃げるのか?というニュアンスが含まれている。
だが、こんな雑兵どもにどうにかなる相手ではないことくらいは理解している。真の南斗聖拳を目の当たりにしては逃亡以外の選択肢があるわけもない。
それを責めても拉致はあかない。ガルダは彼らを無視して歩き始めた。彼の身体は再びオレンジ色の揺らめく光に包まれた。

その姿が豆粒ほどに小さくなってやっと逃亡兵たちの不動の縛りが解かれた。ガルダに対する恐怖により彼らは射すくめられて動けなかったのだ。
ガルダの気が変われば、あっという間にここまで戻って来るだろう。そうなれば皆、サイコロステーキにされてしまう。彼らは隠れながらの逃亡を再開した。
既に戻れる場所はない。逃亡兵が帝都に戻ったところで極刑若しくは強制労働からの「川流れ」しかない、、、
彼らには、以前に下民と蔑んだ者たちに堕ちるより他に生きる道はない。
いや、それさえも無理ではないか?
この荒野に彼らの命を長らえる要素は一つも見当たらなかった。


肉塊と化したボルツとダンの仲間たちの遺骸の埋葬が終わった。
ボルツに敬意は持てないが、拳士として存分に戦い合った。
自らの南斗の拳でバラバラの肉片に変えてしまったが、カラスにつつかれネズミにかじられウジも沸いては後味が良くない。
と、そう思うようになったのも敗北と挫折を味わったせいだろう。拳士として、戦士としてそれが良いことか悪いことかはわからない。
自身の拳の成長の喜びはある。だが勝利の高揚よりも空虚な思いが勝っているという自分の感覚が理解しにくい。


「とりあえずこれを」
と上半身裸のシンにダンはスプリングコートを恐る恐る差し出した。
「直に着てはいないんで臭くはないと思います」
「すまん」
傲慢で知られる南斗六星の一人シン。その男から礼を言われるとは思っておらず意外な驚きを得た。
アシッドアッシュの長髪に引き締まった無駄のない肉体と精悍な顔。まるでロックスターだ。見た目だけでも多くの信者を獲得できるだろう。
ダンは新しい南斗聖拳体勢の記念すべき一人目の臣下になるとの決意を固めた。

「今のシュメの中に工作や諜報に長けた者は生き残っているか?」
シンはコダマにシュメの腕利き数人をダンの配下に置き、手段問わず村を守ることを命じた。
だがシンの予想としては、帝都の軍がまたこの村を襲うことはないのではないか、と読んでいる。北斗の軍、その名をボルツから聞いたからである。
ケンシロウの再到来を待ち望む者たちが帝都の圧政に対して立ち上がったという事実。これは単なる事象とは思えない。

ケンシロウが現れる。

そして北斗神拳の宿命がケンシロウを天帝の元へ導くだろう。そんな予感がする。

北斗現るところ乱あり
その影響がこの先にある辺境の小さな村に及ばないことを願った。