妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

79.

「一つ尋ねる」

ガルダは既にその燃える闘気を解いている。シンも戦闘を解除した。

ガルダは全力ではく、そしてシン自身も同様で互いに様子見の軽い手合わせであった。故にまだこの南斗神鳥拳の全貌は輪郭しか捉えていない。
シンにはボルツ戦のダメージがある。それは決して浅いものではない。ここで戦闘を回避することが正しい選択である。
もう昔とは違う。高揚に任せて戦い続けるような悪い意味での若さはない。
時折あの勢いが恋しくはなるのも事実だが。

「何故にレッドイーグルなんて名乗っていた?」
先までの戦いなどなかったかのようにガルダは平然と訊いて来る。
「赤い髪の鷲、俺の兄弟子から取った名だ」
「ジュガイか」

シンよりも年上で、拳の才にも恵まれたもう一人の南斗孤鷲拳継承者。はじめは良き兄弟子だったジュガイ。
しかし、シンの才能が自分よりも上であると気付くと、日に日に成長するその拳を見るに連れ、ジュガイは自らが南斗六星の一人になるを脅かす存在として弟弟子シンを敵視し始めた。
シンもその変化に気付き二人の仲は険悪なものになって行くが、年若くしてシンは既に南斗孤鷲拳の奥義に達したと自身で判断。師を蔑ろにし他流会得の道を歩み始めていた。
だが、これにはかつて慕った兄弟子ジュガイとの衝突を避けたいという小さな思いもあった。
そして世界的なこの乱世、暗黒の世が訪れてすぐ、、、ジュガイは妻子を暴徒の手によって喪っている。そして彼は飽くなき復讐という魔道に堕ちた。
そこまでは知っている。

もしその後生きていたのなら、ジュガイの名が知れ渡らない筈はない。故に既に生きてはいまい。
だが、今こうしてあの頃を振り返ってみれば、ジュガイは良き兄弟子だったという記憶が勝つ。シンの拳の一部はジュガイによって形成されているとも言えなくはない。
故にシンは賞金稼ぎとしての自分をレッドイーグルと称した。

もう一つ、理由がある。

大物喰いとして知られるレッドイーグルだったが、賞金稼ぎとしての実績数は少ない。
矛盾するようだが、賞金のために賞金稼ぎをしたわけではない。

賞金は表向きの話。まだ南斗聖拳存続のために隠者たろうとしていた頃の話だったからだ。

レッドイーグルの的は泰山流崩れの猛者や実験施設出の超人たちだったが、中には南斗の一派も含まれており、それらにはある共通項があった。
子供たちを拉致し、それを倒錯的性奴隷や虐待嗜好を満たす道具として取引していたことである。
そのギルド化した組織のルーツは聖帝サウザーにあった。ケンシロウにより聖帝が滅ぼされても、身寄りのない子供たちは多く、彼らには戻る場所がない。
その身寄りのない子供たちを保護の名目で引き取り、徐々に組織を固めていったとされている。

ジュガイに起こった悲劇を思えば、彼が道を外したことを一言で否定はできない。
子を喪う痛みをシンは知らないが、その耐え難き苦痛をシンは背負い、乱世と化した世にあっても尚忌まわしい闇の組織を探した。ジュガイだったらその人身売買のゴミどもを放っておくわけはないのだから。

そのための情報を得ることを目的にシンはレッドイーグルとなった。

だが、、、結末はあまりに悲劇的であった。

的とする賞金首は全て討ち取ったが、子供たちの大部分は既に売られるか、餓死しており、助け出すことができたのはほんの一握りだった。

その頃を、つまり天帝が新たに支配を開始した頃のことを思えば、圧政であろうと秩序があるというボルツの言にも説得力はある。

シンが元斗の男ボルツと戦ったのも天帝を滅ぼすためではない。そんな理由も動機もない。元はと言えば南斗の名に手を出し侮った者への復讐である。
だが、北斗の軍という者たちの蜂起があり、今後間違いなく北斗神拳伝承者ケンシロウが現れるだろう。
であるならば、ここでシンがボルツを倒した事実もまた、その新たな乱の一側面を形作るものとなる。

 

だがシンは、、、ジュガイがケンシロウとの戦いで命を落としたことを知ってはいない。

 

「こちらも訊く。俺を見に来てどうするつもりだった?」
「単純な話だ。自分の力を知りたかったからだ。雑魚では我が力、神鳥の拳威を知るに至らない」
そしてガルダは自身の特異な手をシンに見せた。
サウザーが俺の故郷を襲った時、まだ俺は南斗神鳥拳を身につけていなかった。女ながらに南斗神鳥拳伝承者となった我が母ビナタもその時に討たれ、修行半ばの俺は自力で拳を会得するしかなかった」
「母を、、」
「そうだ、、、ユリアもあの五人の馬鹿どもも数を揃えながらサウザーの動きを察知出来なかった! 役立たずのノロマどもだ!」

やはりおかしい。
その当時のサウザーの挙動からすれは、組織内の誰もが警戒を怠ってはいまい。そのような惨事を引き起こさんとする気配に気が付かないわけもない。そう、あのシュウが気付かないとは思えない。
「この手は俺が自力で神鳥拳を身に付けて来た証。お前らのように恵まれた立場と才能を持った人間にはわかるまい。俺は天才ではない!だからこそ、この醜い手は俺の誇りなのだ」
シンはその手を醜いとは思わない。異形なその手はガルダの言う通り、凄絶な修行の結果だとわかるからだ。
あの右目を覆う鉄仮面もその類なのだろうか。

 

「だがどうしても、、神鳥拳の特徴である火を身に付けることができなかった。今は亡き五車のシュレンのように燐を用いるような、そんな紛い物ではない」

ダンもコダマも傍らから話を黙って聴いている以外の何もできていない。できる筈もない。

「故に俺はある男を師と仰ぎこの火翼を得たのだ」
「ある男?」
元斗皇拳正統伝承者ファルコと互角と並び称される男。元斗の金獅子ガルゴ」
「ガルゴ」
「もうアンタはこの戦いに深く絡んでいる。重要関係者だ。このままこの地に残るなら、ファルコかガルゴのどちらかと戦うことになるだろう。しかし結果は見えている。アンタに勝ち目はない。すぐに姿を消すことだ」