妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

83.ショウキ

シンが立ち寄ったそのエリアは住人たちに落ち着きがなく、いやむしろ急速に騒乱へと変化しつつある状態だった。
騒乱の勢いに右往左往する一人の老女を捕まえ、落ち着かせてから理由を聞いた。
話によると、帝都への反乱軍が北から規模を増しつつ押し寄せて来ているというのだ。
それが意味するものがボルツの言っていた「北斗の軍」であるのは明白だった。
その影響が故に混乱が帝都を挟んだ反対側のこの小さめのエリアにまでも波及している。
「それが、、バスクという凄腕と噂の高い長官がいるエリアまでが陥ちたというのよ。それでみんな焦っちゃって」
先程よりもさらに加速度的に騒ぎが増す中、幾度か「ケンシロウ」、「拳王」のワードが耳に入った。あの拳王を倒したあのケンシロウということだ。

、、、、ユリアはどうなっている? ケンシロウと共にいる筈だが、、、まさか、、、
もう想いはない。だが気にはなった。

「わかった」とジュドルの束を渡す。
「え? こんなにかい?」
既にこの有様だ。ジュドルなど再び無価値な紙切れになる。
「今のうちにそれで買いだめしてくれ」
と言ったが、この騒がしい最中に買い物などは難しいだろう。買いだめしたところで容赦なく奪われるのも目に見えているが。
仕方がない。それが正義なのだ。
せめて無価値な憐みを。


中央帝都の一室、元斗皇拳赤色のショウキ将軍は帝都の紋章を模した悪趣味な壁掛けの時計を見た。
帝都、、、都・街というよりも実質は要塞だ。天帝の権威を示すものというが、これもまた実質はジャコウが抱える北斗への恐れの具現。
超巨大な砲台が数門備えられているが、これも実はダミー。巨大さに見合った砲弾も、それを撃ち出す術もない。
だが兵力は高く、工夫を凝らした数々の仕掛けや電流を通した防護策もある。簡易的な砲台からはミサイルと呼べなくもない殺傷兵器を発射することも可能である。
何より、、この帝都では元斗皇拳の戦士たちが最高の防壁となり立ちはだかる。

だがショウキは傲らない。
他に類を見ない堅固な造りであっても、それを建てたのは欺瞞と恐怖。いつまでこの光を失わずにいられるか、、、

ゴン、ゴン、ゴン、、、、
壁掛け時計が午後三時を伝える。それ即ち放流の時間。
ショウキは帝都内部を流れる川を見下ろした。

、、、、来た。
「多い。今日もまたこれほど」
川に廃棄された皮袋が流れて行く。
中央帝都は光り輝く希望の都と宣伝されている。その光は「道に迷った」多くの者たちを呼び寄せるが、一度入ったならここから出る方法は一つだけ。死した後に袋に詰められてこの川を流れて行く他にない。

「ファルコ。俺はそろそろ限界だ。そうは待てんぞ」
誇り高き金色の狼ファルコが屈辱の日々に塗れ、ミュウは天帝の在処を聞き出すため身を挺し、あの薄汚い男に抱かれている。
外では北斗の軍が帝都に対して蜂起し、その波が徐々に高く大きくうねりを上げて広がっている。そして北斗の軍の真芯を担うは拳王を倒したケンシロウ

先程、ソリアの軍が出兵した。ソリアは強いがケンシロウと圧政に耐えかねた人民の力を甘く見ている。
この堅固な要塞でさえ、崩壊させるのは人間たちの意思。剣でも槍でもない、人々の巨大な思いがこの帝都をも陥すのだ。
「いや、その思いこそが北斗を呼んだのか?、、、これでいいのかも知れん。自浄できぬなら、北斗の力を借りるのもありかも知れんな」
流れて行く皮袋を見た。小さい袋もこのところ目立つようになっている。
悲しみを隠す厳しい表情でショウキは北の大地と空に目を移した。