妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

62.

南斗聖拳108派はほとんど全てが戦争の災禍を生きて通過している。前以て情報を得ていたからだ。
シンは南斗六聖拳と一部の上位流派しか「南斗聖拳」とは認めないが、それでも南斗の名に対して外部から攻撃があれば、それは許せることではないという思いは持っている。

元々南斗の里は決して常人が足を踏み入れることが出来ず、地図にもない隠れ里だ。
戦争後はその南斗の里も破壊されているが、彼らは彼らで集落を新たに形成した。
その者たちはキングや聖帝やユダ、或いは慈母星に仕えていたが、ある者たちはこの戦争を全てのリセットと考え、それぞれ干渉せずに生きて行くと決めていた。
にも関わらず聖帝や拳王の勢力の及ぼない僻地で暮らす者たちにまで襲撃が及んだのだと、コダマは言う。
そしてその襲撃は天帝の命を受けた軍隊、中央帝都正規の軍であるというのだ。
であるならばそれを率いているのは帝都の将軍、つまりは元斗の拳士ということになる。

「考えられることではありません。南斗様の流派を身に付けた方々の所在を把握し軍を向かわせる。これ自体が不自然ですが、何故に今この時期に天帝が動いたのか」
確かにおかしな話だ。世紀末覇者拳王がいなくなり束の間の平和は訪れたがすぐに支配者不在の乱世に舞い戻っている。

その後は天帝によって一応の平定が為されている。
だが元より現在でいう中央帝都は、拳王と聖帝が争った地帯とはやや離れている。
「単に天帝の勢力拡大という見方では説明できません。勢力拡大そのものは確かに大きな敵対者がいない今、容易ではあります。ですが、何故に敢えて南斗様の集落を襲うのか」


それにしてもここであの「天帝」である。
かつては南斗聖拳もその居城の六門を守護した。北斗神拳も天帝に直に仕える守護者であったという。
そして、、、
元斗皇拳か」
南斗北斗が天帝の元を去って久しいが、元斗だけは常に天帝の側につき、あらゆる政敵から守護し続けていたという。
よってその本質は暗殺拳ではないが、表の人間ばかりか裏に通ずる魍魎の如き者たちでさえその存在を知る者は極々一部に限られるだろう。

ましてその拳の実態ともなれば流派の多い南斗聖拳はもちろんのこと、そしてあくまで南斗側視点だが、一子相伝北斗神拳よりも厚いベールに覆われており、シンの知る限りで実際に元斗皇拳を見た者はいない。
ただの言い伝え程度ではあるが「光の拳」とは耳にしたことがあるが。


湧き立つ


「シン様?」
コダマが怪訝な顔を向けている。


南斗聖拳存続のためにだけ生きるなど、、、
初めから出来るわけがなかった。

そうするとは言ったが、、、できるわけはなかった。
そのために蝙蝠と、そして何よりユリアに救われた命だが、敗者の屈辱のままに存続させる拳にどれほどの価値があろう。
いや、確かに南斗聖拳は特異でその能力の価値は高い。だが、北斗神拳元斗皇拳と同じ「舞台」に立てぬなら、その存在意義も虚しいものとなる。

、、、
蝙蝠もユリアも、このシンが大人しく細々と、ただ南斗聖拳の命を繋ぐために隠者として生きる道を歩めるはずがないことくらいわかっていただろう。
天帝が何を目的として南斗を敵として定めたかはわからない。だがいずれはこのシンの生存を嗅ぎつけてこの命奪いに来るであろう。


それを待つ?

出来るわけがない。

「コダマ、敵の動向は掴めているんだろう?シュメであれば」


顔色が違う。先ほどまでの顔の腫れが引いている。今はこの方の血が滾っているのが感じられる。

「だいたいの居場所、進行地点は予測できます」
シンは南斗下流諸派を「聖拳」と認めない故にその所在も知ってはいない。こんなとき、やはりシュメの存在はありがたい。
「この街ともようやくお別れだ。待っていろ。すぐ準備して来る」
と物陰に消えて行った。
行動が早い。早いというより衝動的に思えて心配になる。それに戦闘そのものはこなしていたようだが所詮は賭け場の軍鶏。しかも南斗聖拳は封印したまま。
現在のそのお力、いかほどのものか、、、

ポロ、、ポロロ、、
何気なくコダマは壁に手をついた。その壁の表面がポロポロと落ちたのだ。
「これは?」とコダマは壁を凝視した。
「!?」
壁に無数の細かい傷が、いや傷というよりも切り跡が出来ていた。鋭い。これは南斗の裂気。
コダマも気持ちが湧き立つのを感じた。
シン様は決してこんな街でいじけていたわけではない。いずれこのような時のために南斗の斬爪を磨いていたのだ。

 

しかし、相手は未知の拳。
元斗皇拳