妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

61.

「キング! また来月やろうぜ」
「この顔見ろ。半年後だ」

 

バトルキングとさえ称えられるシンの動きはブラウニーブルを翻弄した。ブルの打撃を見切り、掴みに来ても華麗な足捌きでそれをかわす。
そして避けた先から「起こり」のほとんどない掌底打ちや前蹴りなどの打撃を繰り出す。軽くてもいいからとにかく速さ。速さを重視した攻めである。これで今まで勝利を重ねて来ている。
だが、シンの速く正確な打撃をブラウニーブルは堅いガードで確実に守って見せていた。

ビデオカメラなどまず手に入らない。映像を繰り返し再生しての研究は出来ないものの、複数の仲間たちとシンの試合を観ては対策を練っていた結果だ。
そして遂にブルはシンをテイクダウンすることに成功した。
シンもブルに乗られながらも、その太い胴を両脚で挟み、同じく太い手首を掴んで下から三角絞めを狙う。
だが、この技は体重差が大きい相手には向かない。それは無論のこと知ってはいたが重い相手に乗られればそれだけで体力は削られ、何より上からの強力なパウンドにそうは耐えられるものではない。

ブルは体重を乗せて三角絞めを崩す。シンを持ち上げようと腕を伸ばすようなら、その腕を極めることも可能だったが、試合では一度たりとも見せていないシンの関節技にもブルは危なげない対応をして来る。
遂にシンのガードを抜けた重い一撃が彼の意識は飛ばし、さらに続く連打で勝敗は決まった。

まさかのバトルキングの敗北に会場内は悲喜交々の感情が爆発した。

 

こんな時代でも選手たちの健康面と安全面はきっちり管理されている。レフェリーストップのタイミングも適切だった。
いかにエリアの外は無法地帯とは言っても客に金を落とさせるにはそれなりの闘士が必要なのだ。それを簡単に「壊す」わけにもいかない。ルールも安全性を重視した細かい規定がなされている。
加えて、初期に奴隷同士で行わせた「命のやり取り」は意外にもそれほど評判が良くなかった。
高レベルな人気闘士であっても真の命懸けの戦いとなると格下に敗北或いは思いがけない重傷を負い、次をこなすことが出来なくなるというケースが続き、
また賭けぐるいの観客たちであっても生の殺し合いを観たいわけではないという、これもまたある意味では意外な心理が影響してのことだった。
とは言え、賭け金を失ったギャンブラーの罵声や投げつけられるゴミ屑には遠慮がない。
中には石を投げつけた酔ったギャンブラーもいたが、二人のセキュリティーに両脇から押さえられ、数発貰った上で問答無用に外に投げ出されてしまった。

 

 

「でもあんたは怪我の治りがとんでもなく早いじゃねえかよ」
最強と称されるバトルキングに完全勝利したのだからブルの高揚はまだまだ治まらない様子である。
無敗にして、そして最強者に勝利したブラウニーブル。今夜から彼がこの闘技場の王なのだ。

剃り上げた頭の止まらない汗をタオルで拭きながら、仲間たちと意気揚々にブルは去って行った。

一方のシン、、バトルキングにはセコンドさえ付いていない。顔は常にペイントで隠し、正体がわからないミステリアスな存在だった。
最初の数試合は体重差の大きい相手に勝手が掴めず負けたこともあった。だが誰よりも試合をこなし、いつしかこの「好きにやれ」ルールでもアンタッチャブルと謳われるほどの闘士となっていた。
それも終わりか? 最強の座は奪われたのだ。

もちろん、、、
南斗聖拳は当たり前として、一切の氣の発動も脳の回転数を上げて全てをスローモーションに見るなどの特異な能力は全て封印している。
自分の「強さ」は南斗聖拳という流派の力のみであるという反省から武術や格闘技の類を学び直しているが、だからこそシンの「常人」部分が敗北したという事実には、言い訳したい気持ちも湧き、それなりに落ちる。

コダマは退場するバトルキングの後を追おうとするがゴツいいかにもなセキュリティに阻まれて近づくことが出来ない。シンは「関係者以外立ち入り禁止」と書かれたドアの向こうに一人で消えて行った。

 

仕方ない。出待ちするか。
とは言え、どこからシンが出るかはわからない。地下通路があったらその足取りは途絶えてしまう。
仕方なく闘技場を何周も歩き続ける羽目になったが、これで目立つようだとまた司刑隊に職質という体で金をせびられる。
「俺は何をしてるんだ」と途方に暮れかけたとき、
「何か用なのか?」
と、背後から話しかけられた。
「!」
コダマはシュメの人間である。全く気配を悟らせずに背後に廻られたことにひどく驚き恥じもしたが、暗がりに壁に寄りかかるように立っている様になるその立ち姿を見て納得した。

「シン様!」
シンであれば致し方なし。恥じることもない。そう、仕方がないと自分の心も折り合いがつく。
それにしても、氣を送りこちらの存在を知らせるというような真似はコダマには出来ない。目立つナリでもない。それでもコダマの存在に気が付いていたのだ。

「流石に南斗様」と思わざるを得ない。

軽い挨拶を済ませてすぐに本題に入る。シンの顔は殴られた跡が残り痛々しい。

「シン様。お伝えすることがあります。南斗様の集落が次々と襲われています」

襲撃後の凄惨な場面を目撃している。感情を抑え努めて冷静にコダマは言った。