妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

58.

27日間、ええ、27日間です。私は記録していましたから。
仮死状態にある貴方様を、毎日あの方が癒しを続けていたのです。もちろん、付きっきりではありませんよ? あの方もいろいろとお忙しいので。
ちなみにですが、、リハク様はシン様への治療に関してはあまり乗り気ではなかったようです。あの方、私にもゴミムシを見るかのような目を向けましたからね。
既に分裂し各々の好きな方向へ走っている南斗六星様のうち四人と、加えて聖帝様を止めるためとは言えゲリラになったシュウ様には何の期待もしていなかったようです。

余談でした。

 

話を戻しますね。墓から貴方様を急いで救い出しサザンクロス内の病院跡に運びました。多少の設備は残ってますしね。
キングが死んだことを知り街の中は大混乱。あの騒ぎっぷりから憶測するにケンシロウ様も奴隷の解放に働いていたんでしょう。
シュレン様もシン様搬送の際に邪魔するならず者がおりましたら遠慮なくあの炎の拳を披露しておりました。
やはりシュレン様もあまり乗り気でないようでしたがユリア様のお願いですからね。まぁ、、、もう少しばかり事情は複雑なんですが。

その左手は、とりあえず「形」を整えて、、ええ、一応は骨接をして皮膚を縫い合わせまして、それからです。
ユリア様が氣で以って癒しを開始されました。もちろん、胸に極められた秘孔に対してもです。

 

混乱が治まってからサザンクロスを出て比較的近い拠点に移動し、治療は続けられました。
そして27日が経過したとき、
「これで、一先ずは大丈夫でしょう。もしかしたら、もう二度と動かないかも知れませんし、それなら南斗の拳を使うことも出来ません。
ですが、もし南斗の拳を取り戻し、この左手に氣が通るなら、それにより経絡の流れが整うことも、なくはないでしょう」というようなことを仰っておりました。
それでシン様が南斗の拳の使い手として見事に復活なさったとき、ユリア様の予測通りその左手は自由を取り戻した、、というわけですね。

 

「そうか、、、俺はあんな非道なことをしていながら、そんな情を。ユリア、、何という女か」
シンは笑った。自嘲気味にも聞こえる笑いだった。
「元より、このシンには釣り合わない。それほどの女だった。そして、南斗聖拳の存続ゆえにこの命救われたなら、、、」
「、、、」
「その道を歩もう」


そんな生き方ができるのだろうか?
蝙蝠は疑問に思った。シンは熱い性格、炎の性情だ。あのシュレンよりも熱く激しい燃え盛る炎だ。その激しさあっての男だ。
そんな男がユリアの情によって仮に気持ちを入れ替えたとしても、ただ南斗聖拳という敗者の流派を守って行くということが可能であろうか。

人は変わるが、人は変わらない。

 

「それとですね、、、これはお伝えしなくても良い事柄かと思いましたが、、、」
「言ってくれ」
勿体ぶってもいずれは言わずにいられない男がこの蝙蝠だ。

「シン様は出血多量状態でもありました。はい、そのお顔。お察しの通り。貴方様の中にはユリア様の血が流れています。だからと言ってシン様もこれで南斗正統血統というわけではありませんがね。
それにしても慈母の愛ここに極まれり、でしょうか。シン様、、、ユリア様から頂いた命、どうか南斗聖拳の存続のためにお使い下さい。ご自愛を」

 

シンは絶句していた。今の心情を表せる言葉をシンは持っていなかった。

「それではシン様。私もこの先やることがあります。しばらく貴方様から離れることになりますが、この命ありましたら、またお会い出来ることを楽しみにしております」
と言い残してサッと背を向けると瓦礫の中であるにも関わらず、ほとんど足音も立てずに軽い足取りで消えて行った。

 

シンの背後では崩れた聖帝十字陵が夕陽を受け、皮肉にも美しく映えつつあった。

それは南斗の敗北を象徴しているというのにだ。