妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

55.

二台の大型四駆と3台のバイク。


キヨミたちを後部座席に乗せ、そしてシュレンは助手席に乗るようだ。もう一台の四駆車は先導と偵察を兼ねて先に発車した。
ヒューイと二人の精兵がバイクに乗り込む。残りの兵たちは旅人を装っての徒歩での旅路となる。変に目立つのを避けるための配慮だ。

 

「蝙蝠、報酬は間違いなく届けておく」とシュレンが告げた。

どうにもこの蝙蝠という男を好きになれない、、そんな表情が見え隠れする。

「兄者、俺たちももう先に出る」とヒューイたちはバイクで一台目のクルマの砂煙を追って出た。

 

ジャリ、、、足音。バイケンを倒したシンであった。
「シン様、まあ負けることはないと思っておりましたが、、仰る通りそこそこの敵だったようですね」
軽口なのか、皮肉なのか、それとも身を案じる言葉なのか、、、
「お前は」とシンが蝙蝠ではなくシュレンに目を向ける。やはり蝙蝠の依頼人はユリアだったのか。

「シン様、、」
シュレンが複雑な気持ちを顔に出す。熱い炎の男ゆえ、表情を隠せない。
「シン様の生存を知っているのは五車星でも私とリハクのみ。すぐ先程までここにいたヒューイは知りません。シン様、、、シン様は既に、、、ということになっています。シン様には流派としての南斗聖拳を次代に伝えていただきたい」
言葉の節々に小さなトゲを思わせるものがあった。だがその気持ちは理解できる。

とにかくだ、シュレンはシンに対し、もう乱世の表舞台に顔を出すなというのである。

「それは、俺が決めることだ」
勝手に隠居を決められてはシンも気分が悪い。シュレンを半ば睨む形で言い返した。しばし鋭い目線に鋭く合わせたシュレンだったが、ふっと思い出したように目を逸らす。
そう、こんなことをしている場合ではない。
「それでは失礼します」
恨み辛みの捨て台詞を言うほど惨めではなかった。だが、余計なことを話す暇も、その気持ちもない。

 

「シン」
車内、開いた窓から声がした。サウザーの子だった。
「お?」と蝙蝠も不思議がる。
えずきながらも気丈に、無残に散乱する死骸の数々を越え、伏兵に命を脅かされながらも恐怖に負けなかった少年が涙を、それも大粒の涙を溢しながら大泣きし始めた。

 

シンを見たからではない。それが何となくシン自身にも分かった。
敵兵に命を脅かされ、父サウザーの旧知シンに助けられ、そしてクルマに乗り込み気持ちが落ち着いた今ここで、ここに来てやっと、サウザーの死が現実となり、幼い心の中に重く着地したのだ。
キヨミも言っていた。「悪の帝王と呼ばれていても私たちの前では」と。
少年はサウザーの背中をその目で見ていたのだ。子供というのは父親の背中を見る。背中にその生き様を見るのだ。
その背中、、、偉大で天空を覆うような鳳凰の翼を誰よりも近いところから見ていたのだ。その背中はもうない、、、

キヨミも遂に涙腺を決壊させ我が子を抱き寄せた。
炎の男シュレンもその熱い性情がゆえに思わずのもらい泣きが止められない。
「行くぞ!」とこれ以上涙目を晒すは恥としたか、赤い服を靡かすとクルマに乗り込み前方を指差した。

 

二人は遠く砂煙を残しながら去って行く彼らを見送った。他の残党狩りの気配は今のところないが、そろそろバイケンやゴウダが戻らないことに気が付くだろう。
「ふう、、お疲れ様でしたシン様。さて、ここもそろそろ他の連中が来るかも知れません。少し移動しましょう」
「待て」
「はい?」と蝙蝠が真顔で振り向いた。
「追手が来ようとそんなものはどうにでもなる。それよりも、、予想通りだった。お前の依頼人はユリアだったのか」
「そんなところです」と蝙蝠はここへ来ても飄々として本心を読ませない。しかし、気を取り直すと蝙蝠は言った。
「いいでしょう。私の仕事はとりあえずここまで。私もしばらくは暇人です。いえ、暇だからってもうシン様に付き纏うことはしません。次会う時はちゃんと姿を見せますよ」
「ならばその前に、問いに答えてもらわなければならない」
静かだが固い意思を込めてシンは蝙蝠に返答した。
「この左手が治っている理由を教えてもらおう」