妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

54.

ブォン!
バイケンの奥義がシンの胸を掠める!
服が裂かれ薄らと血が滲んだ。

ニヤケながらシンを振り返る。

「次は外さんぞ!」
再びバイケンは両手を高速で上下させ氣の擬似障壁を作る。
一方、馬鹿らしくなり思わずシンからは笑みが溢れた。あまりに無駄過ぎる技だからだ。
「下らん技だ。それで奥義とは。はじめよりも速度が落ちて来ているぞ」
「む? く! ほざけ!!」
これだけ無駄な動きを繰り返していれば氣も肉体も消耗する。シン自身もほんの少し前までは「南斗孤鷲拳」という流派だけの強さでしかなかった。
このバイケンも同じなのだ。泰山流の最上級戦士であろうが、その流派の力だけで一気に高い舞台に立ってしまった。
妖鋼筋鬼として裏側の世界に響いた悪名も、所詮は次元が下の世界の住人を数多く始末して来ただけのこと。
「さあ、、もう一度その下らん技を俺に試してみろ」
「おのれが!!」
バイケンが深く踏み込みシンを肉片に変えようとしたところ! 
ガシッ!
「間合いを詰めすぎたのがキサマの敗因だ」
シンの両手の指がバイケンの左右の太い中指を完全なタイミングで掴み取っている。
器用な動きが困難だった左手も戦闘時の氣が通った状態なら、もうほとんど右手と違いはないところまで回復していた。
そしてシンは掴み取った自らの指に込めた氣をさらに鋭く一点に集中させる。
バッ! 鮮血とともにバイケンの中指は斬り散らされた。

だが、バイケンも泰山流A級戦士の意地を見せる。中指を失い、たじろぐどころか逆に火がついた。
「!」
バイケンが指を奪い油断したシンに対して強烈な右肩の体当たりを極めた!
シンは弾き飛ばされ背後の壁に激突。咄嗟に両腕でクロスブロックを作り直撃は避けたが、その衝撃とバイケンの肩の硬さに驚く。
「フ、フフ、、、泰山最強はリュウガではない。最強は既にケンシロウによって倒されはしたが、鬼の哭く街、監獄カサンドラの獄長よ!」
「、、、」
ウイグルは泰山流ではない、自分の民族に伝わる最大の技にて不沈カサンドラの伝説を打ち立てた。そして俺はウイグルと同郷。もう一度受けてみよ!我らが大陸を制覇した技を!そして圧死せい!この鋼鉄の肩によって!」
「ふう、、」
背中に壁を背負ったシンが一歩前へ出る。
「妖鋼筋鬼か、、なかなかの硬さだ。だが」
とシンは右の人差し指を立てバイケンに向けた。
「キサマの体当たり、この拳(コブシ)で止めて見せよう」

指を立てておきながら、拳?だと?
先の一撃がよほど効いたようだ。意識も混濁か? 面白い。
「いいだろう! 俺のこの肩はゴウダの爪では傷付けることさえも出来なかった。貴様の南斗聖拳の氣が勝つか、俺の肩の氣が勝つか。勝負!」
バイケンがシンに走り出し、そして!
「蒙古覇極道!!」
全体重と全氣を集めた鋼鉄の肩による単純にして最も威力の高い突進打撃!

一方で、
クワッ! シンが目を見開く!
「おおお!」

そして、、、ビタッ!!
シンの指とバイケンの肩が接した瞬間、バイケンの前進が止められた。シンも僅かに押されはしたが、足が床を砕き抉って踏みとどまった。やや押された分、すぐ背後は壁面。後はない。


「ぐう、流石は南斗聖拳! これを止めるとは。だが! このまま押し潰してやるわ!」とバイケンは押す力を継続する。
「言った筈だ。俺の拳で止めるとな。なかなかいい当たりだったが、俺はもっと強い当たりをこの身で以って知っている」とシンの眼が鋭く光る。


「!!」
その時、激痛がバイケンを襲った。シンの「拳」は宣言の通り「面」で肩を止めている。
そして指による「点」は既に鋼鉄と誇る肩に穴を穿ち深く刺さり込んでいる。
間を置かず「裂!!」とシンが唸り、指先一点極度の集中にあった南斗聖拳の裂気を一気に散らした。それは体内の刃が四方八方に飛び出すのと同じ。

 

「ぐおおお!」
奥義も封じられ、自慢の鋼の肩も斬り裂かれ、バイケンには敗北を認める以外の思考が沸き起こらなかった。
完全破壊された右肩を押さえながら激痛と疲労とダメージと、そして絶望で両膝を落とす。

膝をついたバイケンにシンが冷たい目で見下ろしながら言う。

「バイケン、キサマはその泰山流の力だけで自分よりも弱い者を虐げていただけだ」
バイケンの肩による体当たりよりも強い体当たり、、、シンが言っているのはタジフのことだった。
もちろんタジフは強い肉体の持ち主だったが、バイケンはより大きく、何より泰山流の達者。強いのは言うまでもなくバイケンだ。
だが、タジフは命を落としかねない乱世の中、死戦のギリギリを見切り生き抜き戦い抜いて来た。
その違いが、ただ流派の力だけで、しかも弱者だけを殺めて来たバイケンとタジフを隔てている。