妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

167.

「どこの誰から聞いた話よ?」

 


泰山王にさえ敬意を抱かないガルダの態度に怒りを覚えたか、筋肉達磨の髪の毛のない頭が紅くなる。

「(ん? 小芝居ではない?)」と、侮る気はないが、短気な男を見てガルダはニヤけた顔を作る。

敵対しても仕方ないどころか、人数からしても勝ち目はない。ガルダは表情を戻した。

というよりもだ。そもそも戦闘に入ることはないと考えている。

何故なら彼らこの目の前の男たちは、「業界第三位」の首脳陣だからである。

北斗神拳を一位とし、悔しいが南斗聖拳は第二位。元斗皇拳はその特殊性と特異性から除くとしても、間違いなく北斗南斗が業界トップだ。

そして次点となると、ここに来るのは、これもほぼ間違いなく泰山流だ。

だが、「斗」から見れば、ツートップとの開きは小さくはない。

南斗聖拳にもゴミカスのような流派は少なくないが、泰山流も多くはその程度と考えられている。

もちろん、中には泰山流の至宝と謳われる天狼拳もあり、これは南斗六聖拳にも匹敵する力はある。

だが、やはり六聖拳を中心とした上位拳士は多くの泰山A級戦士を凌ぐ者たちだ。

そして、その事実は泰山流の戦士たちにとっても、認めたくはないが認めざるを得ない重い現実だった。

であれば、北斗神拳を倒し業界一位になりたい南斗聖拳である。同様に泰山流の気持ちも理解できる。

つまり、ケンシロウとシンの対決の行方は泰山流にとっても無関心なわけはない。少しも無関係なはずはない。

いずれが勝つにせよ、その拳を「見れる」のであれば泰山流の今後にとって、何よりも大きな成果となろう。

しかしだ。ガルダが偽の情報を流させたのは、南斗聖拳の業界での地位を思ってのことではない。

北斗神拳南斗聖拳の決着は、あの帝王サウザーが敗けた時、、、、着いたのだ。

またいつもの席に着いた南斗聖拳に対しては、今のガルダにとっては遺憾であるが、実に遺憾ではあるが受け入れている。

北斗神拳南斗聖拳の宿命の対決がまた行われるということ。これ自体もちろん何よりもの大事だが、今回はまた違う。

この度に至っては、ケンシロウと、そしてあの気に入らないシンの特別な戦いなのだ。

自分も南斗聖拳の端くれである(と今は認めている)以上、南斗聖拳の勝ちを願っている。

だが、シンの勝ちではなく「ケンシロウ」の勝ちを望んでいる。ケンシロウあの男には、なるほどレイやシュウが思いを託した何かがある。

一方で、シンという男個人の敗北イコール死を待ってもいない。

矛盾した気持ちのままだが、一つ確実に言えるのは、、、、

 


「この戦いは、、、」とここで息を調えた。真なる思いを込め、ガルダは続けた。

「誰の邪魔もさせたくないんだよ」

 


多くは語るまい。だが、察してほしい。

泰山さん、あんたらの事情も理解はできる。だからって、仮に見物人だか立会人だかにしても、あの二人の邪魔はさせたくないんだよ。

あんたらに「見られて」、北斗南斗の弱みを見つけられたくないんじゃない。いやむしろ、自信無くすかもよ?

絶人の域に達したあの二人の「会話」をよぉ、同じ「言葉」で話せない俺たちが聞くことは、、許されねえんじゃねえのかい?

 


「、、、、」

泰山王リュウの柔和な笑みが消えていた。やや険しさの色を濃くしている。

だが流石に泰山の王だった。

「フフッ、、、フフフ。そうであったな。こちらの耳が勝手に風の噂話を拾っただけ。確かに、こちらがガルダ殿を責める理由はない」

「無理すんなよ。気が済まねえなら、、やってもいいんだぜ?」

 


泰山流にも自負すべき誇りがあろう。プライドがあろう。だから一人っきりのガルダを囲み殺すようなことはしないはず。

だが!

不思議なことにガルダの拳士としての本能が騒ぎ立つ。

、、、戦りたい、、、

「ほぉ、、、」とガルダの変化を感知しリュウが感嘆を口にする。流石に南斗神鳥拳だと。

一方でガルダリュウの脱力を感じ取った。言うまでもなく、これは失意や油断による脱力ではない。

戦いを前にして、力みではなく、若き達人ガルダを前にしての無駄を削ぎ取った脱力だ。

「この泰山心意拳を見たいと?」

泰山心意拳! 泰山至宝の天狼拳をも超える泰山唯一の拳!

ガルダは思わず身構えた。緊張が氣の縛りとなり十傑たちを絡め取る。その極度の緊張の中、泰山王リュウだけが柔和な笑みで力みなく立っている。

「こ、れは、、?」

ガルダの戦闘モードがオンになる。

「、、、、、」

強い、、はずだ、、、よな? 、、、強さを感じられない。

代わりに不気味さは十二分だった。

ガルダの身体を氣のガスが覆う。あと僅かな昂りだけで発火し氣炎は燃え上がるだろう。ここで何かキッカケがあれば、、、、

 


「やめだ」

 


言ったのはリュウだった。元より闘気を発してもいないため、リュウの様子には小さな変化もなく、ただ言葉だけが言い放たれた。

 


ガルダ殿の言うこと、、フフ、、わかる」とニッコリと、初めてリュウは本当の笑顔を見せた。

そして、「確かに卑しくも北斗殿と南斗殿の対決を盗み見しようかと思っていた。立会人の体をしてな。恥ずかしい限りだ」と、頭を下げた。

必殺の氣を纏う寸前からのこの落差に、ガルダは戸惑いを隠せず、思わず「あ」とだけ一言口にすると、

すぐに我に返り、「フッ」と笑い、発火寸前だった氣を解いた。ほとんど油断に近いほどの武装解除。スキだらけだった。

だが、このスキを突くような相手でないことは、これも実によくわかった。

 


喧嘩っ早いハゲ男が「いいのか王よ!南斗に頭を下げるなど!」だの「リュウ!この機をみすみすと逃すと!?」などとは言わない。

凛々しい真顔で自分たちの王を見ている。意識ではガルダを見ている。それは他の者たちも同様だった。

 


「我らが届かぬ高みにて、至高の出会いを果たさんとする二人の拳士。なるほど確かに、邪魔立ては赦されぬ」

「、、、、」

「まだ我らでは見届け人にもなれまい、、か」

「いや、泰山王殿、、俺やあなたなら、戦いの「解説」くらいはできるかもよ?」

既に実際、ガルダはこの泰山王に敬意をいだいていた。しかしいきなりここで言葉遣いを丁寧にするのもどうか、、と、若さが阻む。

 


「帰ろ」

けろっした顔で泰山王リュウは両脇の猛者たちに言う。

「そう言うなら」と長髪の切れ者が気取った仕種で返す。全員が生意気なガルダに対し、これっぽっちの遺恨も残してはいない。

ガルダは何となくだが、悟った。感じた。

王だからではなく、この中で恐らく最強の男だからでもなく、信頼に値する人間としてのリュウだから、他の者たちは文句なく従うのだ、と。

 


「それでは失礼する、ガルダ殿。かの至高の拳士たちの逢瀬、その結末はこの「界隈」の人間には自然と聞こえよう」と踵を返す。

長めで柔らかい波がかった茶色い髪が揺れる。周りの者たちも一様にガルダに背を向けた。

去り際に睨む者も、捨て台詞を吐く者もいない。疾風の様に去るでもなく、普通〜に、ガルダの来た方とは反対に彼らは去って行った。

 


「あのハゲ達磨のイライラも、やっぱり小芝居か?」

小声で一人ガルダは言った。あの鉄棒は仕込み銃じゃないと確信しながら。

にしても、泰山王リュウ、、、泰山心意拳、、、まるでその力量が読めなかった。ケンシロウやシン、ガルゴともまた違う。

そして、、、あの結束力。

 


「泰山ねぇ、、、」

 


この「対決」がガルダの拳格を押し上げた。そう信じるに値する経験だっだ。

 


「ふぅ、、あんな奴らに追われるってのも、なかなか厳しいんじゃないの?お二人さん」

 


青い空を見上げた。

 


「この蒼天の彼方で、あんたらはやり合うんだよな」