妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

166.

「いいねえ、、」とガルダは、独り言なのか、その男に言っているのかどちらともつかない声量で言う。

油断もなく、しかし戦意も見せず、、かと言って「何か」あれば迅速に対応する姿勢が感じ取れる。むしろその気配を恐らくわざと伝えて来る。

相手方は十人、、やり合えば多分ガルダとて勝てない。しかも今のガルダの拳力は落ちている。シュラインと交えた一戦のためだった。

多撃必殺の西斗月拳の奥義を破るため、自らの経絡秘孔を焼き切った。いや、滅殺したのだ。

その損傷は深く、回復不可なものであった。経絡の流れが乱れ、以前のような力が出せない。

しかし、本人は別段それほどこれを悪くは考えていない。南斗聖拳は氣を鋭く集中するものだ。暗殺拳だ。

才能がない自分には工夫と弛まない修練が必要だ。出力に頼らない拳を目指して究めることが神鳥の燃える爪と嘴をより鋭くする。

いやもっとも、、とガルダは目の前の戦士たちを察氣する。

万全であってもこの十人とやり合っては勝ち目は薄い。一人ずつやったとしてもだ。泰山王の脇を固める奴らが雑魚であるはずもない。

泰山の最強クラスの武人は「A級」と称されるが、この全員がそうだと言って間違いなかろう。

「(一人ずつ連戦したとして、少しずつ傷を負い、あいつかあいつ辺りでやられるかな?)」と予想を立てる。

泰山王の隣にいる、静かに涼しげな目を向ける長髪の男。かなりの使い手であることが感じ取れる。

その左脇の、頭髪を剃り上げた筋肉達磨が持つ鉄棒も気にはなる。

 


戦闘技術の発達と武具そのものの発達は常に対になって歩むものだ。その武具にあって革命的とも言えるもの。

言うまでもなく銃器の類だ。もしそうであるなら、ガルダに油断がなくても大いなる脅威だった。

女子供でも銃器を扱えさえすれば、その戦闘能力は突き抜ける。ましてこの連中のように「氣」の域まで達した戦士が銃器を持てば、、、

その筋肉達磨野郎の一見何の変哲もない鉄棒が、もし仕込み銃だったなら?

 


「南斗」にも、銃器等最新の武具を取り入れるべきだという意見はあった。それは少しもおかしな話ではない。

そもそも刀剣類でさえ、言ってみればそれ以前の時代を旧きものにする新しい武具であり、技法だからだ。

各種様々な敵が銃器や爆薬を取り入れることを想定するなら、南斗聖拳も変化するべき。変化しないものは化石化し、いずれ崩れて落ちる。

結果、南斗聖拳は、、、取り入れた。しかし、それは組織として目的を果たす手段としてであり、あくまで拳としての南斗聖拳にではない。

闇世界の組織ではあるが、その本質は武術家の集まりのはず、、という信念と誇りが勝ったのだ。

武人としての信念と誇りがなければ、技もその魂も損なわれる。

いかに南斗聖拳が、元から変化を受け入れている拳だとは言え、武人としての信念と誇り、その自負を失えば、恐るべき早さで組織は崩壊しよう。

それにだ、銃器で北斗神拳を超えたとしても、それを南斗聖拳の勝利と讃える者はいない。いるはずもない。

むしろ卑怯な臆病者として南斗聖拳の名は廃る。名ばかりかその実においても南斗は廃り、そして確実に滅ぶ。

唯才のもと、分派と統合を繰り返し、その力と技は錬成され、そこに武人としての高潔な魂が融合される。

そうやって南斗聖拳は更なる高みへと導かれ行くのだ。

 


この状況で、ふと意識が逸れた自分をガルダは自戒した。やり合えば間違いなく脅威、そんな男たち。

何より、真ん中の柔和な「ご主人」が、やはり一番不気味だった。底が見えない、強い弱いの判断もできない。ならば強いと決まっている。

 


「まさかの泰山寺さんか、、、」

十人もいるんだ。何か合わせた目印とか、旗を持つとかさ、してくれよ。

ニッ、「ここに十人いる。泰山十傑とでも名乗らせてもらおう」

「このサザンクロス、住人はなくとも、泰山寺さんは十人とね」

「、、、、」

「、、、、、、」

 


鉄棒を持った筋肉達磨の髪がない頭に血管が浮かぶ。俺たちの王様を侮るなと威嚇して見せる。

血気盛んなオッサンもいるようだ、とガルダは口元を緩める。そしてまた小さく誰にも聞こえない声で言う。

「それともそれ、役割?」

その囁き声が届いたのか、筋肉達磨が顔を赤める。それを長髪の男前が手と目で制する。

そのいかにも小芝居なやり取りにガルダは内心で嗤う。

 


ガルダ殿」

柔和な泰山王リュウが、柔和に話しかける。

リュウ」という名はこの業界に多い名だ。やはり強さと支配の代名詞のような「龍」にかけているのか?

「なんだい? リュウさん」

「ここで北斗神拳南斗聖拳の決着があると、そう聞いたのだが、、」と柔和な王は辺りを見回した。

「ところがどうして、まるでそんな気配はない」

と、ガルダに戻した柔和な視線に刺すようなトゲがほんの一瞬だけ垣間見れる。

 


上手く行った、、、、

 


北斗神拳ケンシロウ南斗聖拳シンの宿命を超えた対決。その立会人ガルダ。血戦の地はサザンクロス。

 


ガルダが敢えて南斗聖拳諸派の生き残りやシュメたちに流させた、偽の情報だった。