妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

57.

「だから言ったでしょう? 私はシン様の大ファンですと」
もう返す言葉がシンにはなかった。

 

キング、、という類稀なる男は乱世の最初期を誰よりも疾く駆け抜けて、そして早々と散っていった。ですがね、その役割はこの乱世のその後を導く道標を作ったと言ったら言い過ぎでしょうか。
その大役を為したシン様はもう用済みだったのでしょうか?


そうではありません。


南斗聖拳という巨大で通常は一個人が持ち得ない力を持ちながら、その内側はユリア様の歓心を得ようとあてなく奔走しもがき続け、「迷う」という点にあっても下々と何ら変わらない一人の若者であった貴方様。
ユリア様はその慈母星の普遍的愛の故にそんなシン様を見捨てられなかったのです。
そして、、
あの方にはもう一つ、予知という極めて稀なる能力があります。もちろん、未来というのは常に揺れ動く不確定なもの。
あの方曰く、予知というよりも南斗北斗の宿命を読むことで先を「視る」とのことでした。
ですがその時ばかりはお近くにいたせいか、、、ええ、はい、そうなんです。実は貴方様とケンシロウ様との対決の時、お近くにおられたのです。
申し訳ありませんが目的そのものはケンシロウ様です。恋人であったことを一旦脇に置き、南斗慈母星として、ケンシロウ様に北斗神拳伝承者としての資格があるかを見定めるためでした。
立場上は仕方がないこととはいえ、お辛かったでしょうね。

ついに貴方様がケンシロウ様と対峙したその時、、、はっきりと「見えた」そうです。貴方様の悲しい末路が。
ですので私は、ユリア様の命によりケンシロウ様が、あの人間離れした巨体の御仁に苦戦している間、防護の網を設置しておりました。私は忍上がりですし南斗蝙翔拳ですから容易ではありませんでしたけど、うまくやれましたよ。
そして、身を投げた直後の投薬で仮死の眠りに落ちた貴方様を下ろしてから衣服を汚し、それらしく整えました。
ケンシロウ様が走って降りてくることはないにせよ、それほど時間があったわけではありませんでしたが、ケンシロウ様の鈍感さもあって上手くごまかせました。

、、、、、
離れた所から愛したケンシロウ様を見つめるユリア様は実に美しかったですよ。本当ならケンシロウ様の元に走り出したかったでしょう。
でもそれをしたらケンシロウ様はそこで「完成」となったでしょうね。
それはそれで安定したかなりの強さなのでしょうけど、正統伝承者としてこの後に続く宿命の戦いを経て行くには不十分な完成形だったでしょう。
そしてですね、ケンシロウ様が去った後、すぐに治療の始まりとなったわけです。

 


「癒しの力? そんなの信じられない。俺は自身を含めて多くの破壊を見てきた。夥しい破壊を見てきた! だが、一瞬で傷を、いや完全に破壊された肉体を癒すなど一度たりて見たことはない!」

「では、その左手はどう説明されます?」
「、、、」

「それと、、、、」

「私は「一瞬」などとはひとことも言っておりませんよ」
「なに!?」


正直言って、ケンシロウ様の生存を確認した以上、ユリア様からすれば貴方様は「対象」としては眼中にありません。
ですが、やり方が間違っていたにしても、ユリア様自身のために、、いえ、、そこもシン様本人ご自分の欲望のためだという方もいるかも知れませんが、その熱い思いだけは否定出来たものではなかったのでしょう。
その純情、シン様の真っ直ぐな熱情は全くユリア様を動かさなかったわけではない、、と言ったところでしょうか。
もしかしたら、そう無意味な仮定ですけど、シン様が道を正したならユリア様は貴方を、もちろんケンシロウ様の仇ですから愛しはしないものの、認めて赦すことはあったのかもしれません。
いえ、、、死は罪の清算などとも某教えではありますし、これは或いはの憶測ですがシン様が「死んだ」ことで既に全ての罪をお赦しになったのかも知れませんね。