妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

60.時は経ち

「ようやくか」


砂漠と言ってもいいような荒野の中にその小柄な男は目的の街を見つけた。
身を守る術はあっても、単身この瓦礫と砂地の繰り返しを旅するのはシュメの人間であっても過酷なものだ。

バイクは途中で故障し乗り捨てねばならず、到着は本人が立てた予定よりも大幅に遅れている。

 

第15郡都、通称ネオベガス。
リスクを冒しても為さねばならない目的が彼にはあった。

 

 

世紀末覇者拳王が敷いた支配と、その滅亡により世界には仮初めの短い平和が訪れた。だがその拳王を滅ぼした世紀末救世主とも呼ばれる男、北斗神拳伝承者ケンシロウが姿を消して久しい。

時経つ内に一旦は消滅しかけていた暴徒の小集団の数々が息を吹き返し、、、

 

世は再び混沌と化した。

 

この乱世にあって最後の勝利者となったのは天帝という謎の人物だった。

天帝の居城を置く都、即ち中央帝都を囲むように多くの小都市が点在している。その小都市は郡都もしくはエリアと呼ばれ街ごとの特色があった。
荒野は未だ弱肉強食の過酷さを残す厳しい世界だが、郡都内には一応の警察組織があり、また貨幣制度も復活している。
それらが旧世界以上に腐敗の種となっているのは事実だが、物々交換もしくは強奪という手段以外で交易を可能にするという点では多くの利便性と何より安全性を生み出している。
交易性の他に、エリア内の規律と安全を守るという意味においても警察組織の存在には一定以上の存在価値があった。

 

とは言えだ、、、
「おい! そうだ!  そこのお前だ!」
この街に入って二度目の「職質」だ。もっとも、それは表向きのことで、要は司刑隊による小遣い稼ぎである。幾ばくかのジュドルを差し出しその男コダマは難を逃れた。
彼ら司刑隊にとって気に入らない者たちを「犯罪者」にするのは容易である。こういった微妙なバランス感覚がエリアの住人として必須なスキルとなっている。

故に「職質」の罠に嵌るのは来訪者がほとんどである。


辺りは暗くなりつつあるが、中心部に進むに連れ、オイル灯や松明だけでなく部分的には電灯も備え付けられており、それがこの新時代にあっては随分と有難いものであることを改めて痛感する。
時折、司刑隊の警笛で一斉に道が空くと、そこを上級都民を載せた嫌味なまでの装飾の施された馬車が通過する。彼らは下級の貧民には一瞥もくれはしない。

街の灯りの陰には露出の多い格好をした女たちや、賭けに勝った飲んだくれ、いかにも怪しげな薬物を売る貧困層の少年たちの姿が散見された。
しかしコダマの目的はそんなものではない。彼の目的はギャンブル場にある。もちろん賭け事を楽しむために来たわけでもない。

 


「次はいよいよメインだな」
「バトルキング!」
「だが今日は分からんぞ」
「相手は無敗の新星ブラウニーブルだからな」
「今日は全部負けてる。残ったジュドルをキングにぶち込むぜ!」

時代が時代だろうと、治世だろうと乱世であろうとギャンブラーたちの極楽はこのような賭場をおいて他にない。

もちろん極楽だけではない真反対の場所でもあるのだが、彼らギャンブラーは「今回は勝てる」と根拠のない予感に満ち足りている。

オケラになった者が姿を消すのはこの遠慮のない時代に珍しくない。帝都での強制労働に連れて行かれるという噂は全くのデタラメではなさそうだ。

 

コロッセオの一方から硬く固められた土の闘場に現れたのは浅黒い肌の筋骨逞しい男だった。息を荒げながら自分の強さを見せつける。ブラウニーブルだ。人気も上々のよう。
「次だ!!さあ!お待たせ致しましたぜ!テメエらバカ野郎!!」
衣服はビキニパンツのみというほとんど全裸姿で首には蝶ネクタイという退廃感丸出しの男が力を込めてアナウンスする。
「キング!! 最強の男バトルキングの入場だあ!!」
歓声が天井のないすり鉢状のコロッセオを空へ向かって突き抜けて行く。

高見に設置された上級都民専用ブースには時代錯誤な中世欧州風の少しも似合わない衣服に身を包んだ貴族たちが観覧に訪れている。

貴族即ちジュドルを余るほど持ち合わせている者たち。貨幣制度自体が新しいことから推測するに彼らは中央帝都上層部の近親者以外には考えにくい。

コダマはそんな貴族をまるで気にもせず目的の男が現れるのを待った。

そして遂に会場の熱気の中、長い銀髪を後ろで束ね、顔にペイントを施した男が現れた。
それを見たコダマは誰にも聞き取れない声で呟く。
「オダニの情報の通り。あれは間違いなくシン様だ」