妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

63.ボルツ

高い建物の残骸、以前の繁栄の跡はそこかしこに寂しく聳えている。放射能の影響どこ吹くかぜとばかりに草は伸び放題である。

しかし、戦争の爪痕は深いとはいえ住居として再利用するのには十分すぎるほどだ。

戦争被害者の遺骸が放置されたままの部屋もあるが既に腐臭を放つことはない。

 

 

 

それでもこの街は機能していた。

団地の一角にある建物を高い壁で囲み防御能力もそれなり。最近では珍しくなった少人数の賊たちでは攻略不可能だ。

農業に従事していた者のおかげで、不足気味の食料は一定の供給と備蓄が可能。

尚足りない分は強固な男たちで構成された運搬班が、現在ではどこでも生産製造されていない旧世界の異物、つまりこの辺りに残る資材や小物に家具の数々を食料と交換して帰って来る。

最近では中央帝都の版図拡大に伴い、直接の交換ではなくジュドルによる交易が盛んになっていた。

そんな50人強の、この時代では普通規模の街だった。

 


その住民全員が駅前のロータリー広場に集められ、その周りを帝都の正規兵が囲んでいる。

その逞しい重武装の兵たちの中でも一際目立つ大きな身体の男がいる。その男だけ青の特別に拵えられた衣服を身に付けていた。長い髪は緑色だ。

その男が声を張る。

「わたしは帝都の将軍の一人、ボルツ。突然のこの騒ぎを詫びる。だがそなたたちは運がいい。自分の命運を選択できるのだから」

 


選択、、、選択の自由があったにしても従わないなら命を取るという実質強制であることを住民は理解している。

この街の屈強な男たちさえも、武装した数多い帝軍の兵たちに逆らうことの無意味さを理解し、ただ沈黙したままだ。

住民の不安の中、ボルツは続ける。

「この街に南斗聖拳の使い手がいるという情報が入って来た。南斗聖拳は本来天帝に仕える身である。その南斗聖拳がその務めをなおざりにするどころか完全に放棄しているという!」

住民たちが騒つく。

「この街が南斗聖拳の街であったならば根絶やしにせねばならない。だが!天帝は寛大だ。今この中に反逆者南斗の使い手がいるなら名乗り出ろ。

そなたたちが従順な態度を示すなら、その南斗の使い手を処刑するだけでいい。むしろ安心安全安定の天帝の支配下に置かれることを歓びとしてもらいたい」

 


安心安全、天帝の中央帝都、、、光の街。

にわかには信じ難い。郡都があの有様なのに中央帝都に安寧な生活があるとは思えない。

もしそんな世界があるとしても極一部の上級都民だけが享受できるものだろう。貧富の差を考えると隔てられた壁の下側にいる一般の民には希望など持てる余地などないことくらい皆わかっている。

いや、そのような下級の、そしてもっと低い立場である奴隷たちの苦役が中央帝都を光り輝かせるのだ。