妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

37.蝙蝠

今の俺は指突一つさえ真には極めていないのではないか。少なくとも現時点では。


リュウケン、、あの北斗神拳には型がない分、あらゆる相手に対してあらゆる者に変化できる。
ならば南斗六聖拳として己が流派の孤鷲拳に拘るよりも、「南斗聖拳」という一つの拳として柔軟性を取り入れることが北斗神拳に対抗できる最も有効な手段に思えた。

 

統合、、、南斗聖拳は分派と競合により進化を果たして来た。仮に六聖拳の統合が為されるならどうであるだろうか。いや、、どうだったであろうか。

レイもユダも既にこの乱世に散ってしまったのだ。

 

周囲あらゆる気配の変化を見逃さない暗殺拳南斗聖拳の浅い眠りの中、シンは音ではない断続的な何かのうねりを感じ取った。スッと目を開けて立ち上がり、不動のまま周囲を氣で探る。

「流石ですね〜」とほとんど音も生じさせずに黒い影がシンの前に降り立った。
火の明かりに照らされながらも闇と同化したようなその姿は、サトーから聞いていた特徴の全てが当てはまっている。
「キサマが蝙蝠か」
顔の十字傷はサウザーに刻まれたもの。これもサトーの情報だ。全身黒づくめ。
「へい。お久しぶりです」
「何?」

面識があるとでもいうのか。
「お久しぶりといっても一方的な話なんですが」
「どういうことだ」
浮かべた薄笑いが気に入らなかった。
それにしても先程の着地と、このシンを前にしての落ち着き様。シュメにも様々な部門があると聞くが、この蝙蝠は暗殺専門の忍であろう。

とは言えだ。手練れであろうとたかだか忍。まさか南斗聖拳とやり合うつもりなのだろうか?

銃器等の使用は有り得る。油断はない。


「早速ぅなんですがシン様。あなたを殺しに来ました」
突然だ。思わず口元が緩む。

サトーの話では蝙蝠に南斗への害意はないとのことだった。だがこの不気味な男の真意を読めなくても不思議ではない。
本来、シュメが南斗に逆らうなど許される話ではないが、これほど時代も状況も変化しては南斗とシュメを隔てる壁も崩れて然るべきか。


「流石ですね〜。さりげなく動きながらも固い地面を探している。いきなり来ますか?」
気付いていたか。そしてその上で挑発とは。面白い、、乗ってやろう!!
蝙蝠の言う通り。超速で間合いを詰めるため、蹴り出す力に耐えるポイントを探していた。そして既にその上にある。
ザザッ!!シンが出る!
いきなりの大技、横蹴りである。空気を豪快に切り裂きながらシンが右脚を突き出した!
「おっと!」
「!」
蝙蝠はシンが詰めた分を退がりその蹴りを回避した。


「キサマ、この動き」
「いやあ、危ない。前よりも速いんじゃないですか? 余裕持って距離を離しておいて良かった。紙一重ですね」

蝙蝠の黒い服の胸が裂気で損傷しヒラヒラとそよいでいる。
「流石ですシン様」と楽しそうに上目遣いで蝙蝠は笑う。


前、という言葉の意味はまだわからないが、速さが増しているのは事実だった。
サウザーの速さを見ることで、シン自身の速さにもまだ先があることを知った。この意識の変化だけでも違う。さらに鳳凰拳の最速の足捌きをあれ以来ずっと思い描いていたのだ。
まだまだ本物の速さには及ばないが、動きにおいても精神性においてもシンが一番キレていた頃を既に超えている。


蝙蝠は破れた胸元を見て楽しそうに言う。
「大したものだ。復活してからそうは経っていないでしょうに」
「蝙蝠、キサマだだのシュメではないな。その動き南斗聖拳か」
二タァ、、不気味な笑いだった。
「仰る通り。私は南斗蝙翔拳の担い手です」


南斗蝙翔拳、、系統は水鳥拳と紅鶴拳の中間くらいに位置する流派だが上位聖拳ではない。
「蝙翔拳ごときでその動きはなかなかのものだ」
それよりも通常は有り得ないことだ。シュメは南斗から用いられ信用もある組織であり、その分の報酬も惜しみなく与えられていた。だが互いの組織には明確な上下があった。

そのシュメの人間が南斗聖拳を学ぶことは固く禁じられている。過去にもそんな特例があったとは聞いたことがない。

この乱世となり、そんなルールが仮に壊れていたとしても、南斗聖拳の一派を学ぶには年月がいる。あの表向き平和な時代に拳を修得していなければならない筈だ。

 

蝙蝠はそんなシンの思案を余所に二本の短刀を取り出した。柄の部分の色が左右異なっている。右手の短刀が白、左手が黒である。
「お褒めの言葉、ありがとうございます。では、こちらからも仕掛けてよろしいでしょうか?」