妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

38.

南斗蝙翔拳
南斗聖拳108派にあっては中程度の拳格に過ぎない。
短刀に頼る流派ではない筈だが、格からすれば「聖拳」の会得がなくてもさほどおかしくもない。
だが、その動きだけはなかなかなものだ。

奴の名、蝙蝠もここから取ったか?
それにしても随分と自信があるようだ。

 

すると、フワッと蝙蝠がシンに向かって跳んだ。それに合わせてシンも距離を詰め、右手の突きを繰り出す。ヒュン!
蝙蝠はそれを身体を捻りながら空中で回避し、そしてその回転を利用し左の逆手で持った短刀をシンに突き立てんとする。
シンもそれを避ける。一見あっさりと避けて見せる。しかし、何かが変だった。
「いやあ流石。これ、そうそう避けられたものではないんですよ」
「キサマもよくこのシンの一撃をかわした」
しかも宙で突きを避けるとは。それにしても違和感の正体がわからない。
「いいえぇ、シン様。今のはまだ様子見の突きではありませんか。本気なら空中では避けられません」
これにはシンも驚いた。シンが様子見の突きを撃つと読み切っていたことになる。そして、本気であれば「空中では」避けられない、と蝙蝠は言った。
「いいだろう」
まだ蝙蝠についての謎は残るが構いはしない。地上でなら本気の突きを避けられるらしいからな。


「お、本気で来ますか? 殺気が凄いことになってます」
クワッ!!
挑発に弱いシンが怒りに任せて踏み出したその一歩、足が地に着くと同時に蝙蝠は短刀から手を離し空中に「置き去り」にし、懐から瞬時に取り出した二本の筒状の棒を投げた。そしてすぐに空中に「置いて」あった短刀を掴み、横に移動する。
常人にはとても見切れない早技である。


小賢しい! 出る機に合わせて武器を投げるなど基本的な攻めだ!


シンはその二本の棒を一瞬にして砕く、、、が、
ボン!!
軽い破裂とともに煙幕が広がり視界を塞ぐ。スキを作るための目眩しだった。
「蝙蝠!まさに忍だな!」とシンが声を上げる。煙には特別な効果はない。視界をほんの僅かに遮る程度。この程度では蝙蝠の姿を見失うことはない。
「楽しんでもらえて」と蝙蝠は跳躍し先と同じ筒状の棒を、今度は片手四本ずつ投げつけた。
「私も嬉しいですよ!」


直進性を生む羽根は付いていないが、重心が前にあるのか放たれた棒は真っ直ぐに飛び、シンを中心に少し広めの範囲を覆う。避けた先でもそれが当たる様にだ。


下らん!かわすまでもない!


シンに真っ直ぐ向かい着弾するであろう棒は八本中わずか一本。砕けばまた煙幕であろう。再度付き合う気はシンにない。

南斗聖拳の使い手からすれば、止まった棒に過ぎない。
北斗神拳でいうところの二指真空把!! だが!!


ザクッ!
右手二本の指で掴んだ棒の中から太目の針がスライドしてシンの右胸に刺さる! 浅いが一瞬のスキ!
だから筒状だったのだ。一回目の攻撃、煙幕に実は意味がない。狙いはこれだったわけか。二指真空把で掴み取った瞬間、中の仕込み針がズレて飛び出すという仕組み。
その一瞬のスキを見逃さず蝙蝠が詰める!


だが舐めるな! そんな短刀でこのシンを殺れると!?


シンは胸の針を抜き捨て、
「うゎら!!」
と、高い声を上げ複数の突きを撃ち放つ! が、蝙蝠は途中で止まって突きを空撃ちさせ、、そしてニィと笑う。
シンは完全に沸点に達している。再度、襲い掛かろうとしたとき、足がもつれた。
毒!!
瞬時に針によって出来た傷を自ら突き刺し血を抜いた。次いで調気法と筋肉の収縮で毒を更に噴き出させる。しかし即効性。出し切れていない分が働く。
「!?」
目眩!

 

蝙蝠がいない!今ので見失なった!

 

背後!!
シンの背後にピタリと付いた蝙蝠が右手の短刀でシンの喉元を切り裂く瞬間だった!
右の掌に集めた氣で刃を止め、さらに蝙蝠の左手の追撃を左腕で受けて制し、その流れから左手で背後を突く!
当たらない!


蝙蝠は後方に跳びフワッと着地すると、また安全圏に距離を取る。

「惜しかったですね」

蝙蝠自身の攻めが惜しかったのか、シンの背後に撃った突きが惜しかったのかわからない。そんなことはいい。


強い。


下流の南斗蝙翔拳と侮っていた。

だが!この蝙蝠は南斗聖拳の倒し方を知っている。しかもやはり、その攻撃には違和感がある。


「まあ、落ち込まないで下さい。沢山の仕掛けを試して、それで成功したのが幾つかってところです。貴方様の動きや心理を読み切ったってことではありませんから」
この会話でペースを乱される。一手一手リセットされて更なる策を仕掛けられてしまう。主導権を握らねば!
両手に過剰なほどの氣を集める。
「伝衝裂波!!」
下から大きく両腕で斬り上げ南斗の裂気を飛ばす!
紅鶴拳の代表的な技だが、他の六聖拳にも同様に受け継がれる技だ。本家ほどの鋭さはないが、これを何度か連続で撃つ。
砂煙を上げながら、いやむしろそれこそ煙幕のように砂煙を上げながら、疾く鋭い氣の刃が走る!