妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

39.

地面を斬り刻む恐ろしい音と共に砂煙を上げながら裂波が蝙蝠を狙う!

しかし、今回もまたフワッと蝙蝠は舞い上がると裂波の全てをかわし、広い庭の中央にある彫刻像の上に音もなく着地した。
的を外された裂波が後方の壁を刻む。


南斗蝙翔拳、、、何を以ってコウモリとするかはわからないが、とにかく速く、柔らかく、そして軽い。
裂波を避ける反応と跳躍は六聖拳レベルだ。そしてその軽さ。少なくとも軽さなら自分以上と認めざるを得ない。

「聖拳」会得を出来ない男と侮っていた。相手を舐めていたのはこちらの方だった。稀代の手練れだ。中程度の南斗聖拳が故に技を磨きに磨いていたのだ。


ガラガラガラ、、、裂波で刻まれた石壁が倒壊した。


蝙蝠は彫刻像の上に立った姿勢から膝を曲げ、ガーゴイルの様な座り姿になりシンを見下ろす。
「上から失礼しますよシン様。やっと活き活きして来ましたねえ。どうにもユリア様を失ってからのシン様は腑抜けてましたから」
「何?」
蝙蝠は先程、シンに対して「一方的に久しい」と言ったが、、、


!!


「まさか!!」

 

サザンクロスで時折、たしかに正体不明の気配を感じたことがあった。配下の南斗諸派の者が周りをうろついているだけかと考え、危険性もないようなので放置するがままにしていたが、、、合点が行く。合致する。
この男の類稀なる優れた飛翔術、、、。
「キサマだったのか!!」


ケンシロウとの対決中であったあの時、ケンシロウに意識を集中している。その最中にあっては、別の小さな気配には気が付きようはない。

ケンシロウにしても、背後から殺意剥き出しで襲う兵士には気が付いたとして、気配を殺すこれほどの術者の存在には気が付かなくても不思議はない。


「蝙蝠!キサマが俺を助けたのか!?」
蝙蝠は微かな笑みを浮かべ、シンの考えを肯定した。


だが、、、たがだ!
身を投げた俺を空中で捕らえるなど、いかにこの男でも可能なのか?
すると予想通りのシンの困惑に蝙蝠が答えを出した。
「シン様がケンシロウ様に秘孔を突かれ、ビルの縁に歩み出したとき、何をするかは見え見えでしたよ。運が良かったのはケンシロウ様が秘孔の効果までの時間を取ったことです。あれがなければ助けようはなかった」


だがまだわからない。疑問は残る。すると蝙蝠は続ける。
「落ちて行くあなたを受け止めるだけではなく、もちろん網も用意していました。目立たないように小さいものでしたがね。私の飛翔軽功術とその網、二つが揃ってお助け出来ました」
予め網を用意していた!? あり得ない! そんなことがあってたまるか! そこまで行動が読める筈がない。ますますわからなくなる。
「では、秘孔は!?」
「薬を使いました。既に気を失った貴方様に秘薬を打ち込み、、、ああ、これも即効性のやつなんですがね、それで仮死状態にしたんです」
「仮死状態、、、」
「そうです。それでケンシロウ様が¨死んだ¨貴方様を葬ったわけですが、ケンシロウ様、、気付きませんでしたね。まあそのくらいよく出来た薬です。秘薬の名は伊達じゃありません。それにケンシロウ様は天才故かどこか抜けてるところもあるんですよねぇ」
「、、、」
「ご自分の大恩ある兄弟子トキ様と少し似てる程度のアミバ殿との違いも分からないくらいですから」とほくそ笑む。

アミバの名だけは知っているが、トキとの関連は知らない。そのアミバケンシロウと会っているという話も知らない。この男は一体、、、

 

「貴方様の¨ご遺体¨がキレイな状態であることに大した疑問も持ちませんでしたね。いえ、もちろん、それらしく見えるように貴方様の服を汚しはしましたがね」

蝙蝠は頭上に輝く北斗七星を見上げてから続けた。

「それでも北斗の秘拳は厄介でした。仮死状態にしても秘孔の効果は無くならないんですね、一応はギリギリ生きてましたから。ただし、、遅らせることは出来ました」

シンはただ聞き入るしかなかった。疑問が解ける時が来たのだ。
「仮死状態にし、秘孔の破壊を遅らせ、そして常人の何倍も早いシン様の回復力と拮抗させることが、、、はい、出来ました。つまり貴方様は死に向かいながら、その逆に回復を同時進行させていたんです」
「、、、、」
「貴方様の十字傷は破壊と回復が同時に為された結果なんですよ。正確に言えばそれだけではないんですがね。まあそれはまだいいでしょう」
「まだだ、まだわからない」
シンは左手を蝙蝠に見せた。彼の左手もあの時ケンシロウに破壊されている。秘孔ではなく奴の怒りの拳を受けた際、その力で破壊されているのだ。


「ああそれですね。なぜだと思います? もちろん私にはあの手を治すことなんて出来ませんよ。いやあ、少し前のあの世界の医療でも無理ですかね」
「どういうことだ!? 誰かの手を付けたとでもいうのか!?」
そんなわけないのは理解している。この手は間違いなく自分のものだ。だがシンは混乱していた。
「それももう少し後のお楽しみにした方がよろしいかと。一度に多くを知ると興が削がれますよ」
「では、何故に俺を助けた!?」
焦っているのが自分でわかる。わかるが問うのをやめられない。