妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

31.

明るく利発、しかし拳に対しては師と共にストイックなまでに探究を続ける将星を背負うその少年は、南斗聖拳の組織にとっては、まさに期待の新星だった。


そして沈黙の慈母星ユリアも北斗の若き拳士ラオウケンシロウとの接触により感情が蘇っている。
南斗聖拳の将来に希望を持てる材料はまだ揃っていた。
白鷺拳のシュウと、その下の世代になるが孤鷲拳、水鳥拳、紅鶴拳の次期継承者も、その格に恥じぬ才を持っている。
慈母星降臨という皮肉にも明るくない未来が予想される中、南斗聖拳組織には過去に類を見ない好材料が揃っていた。

 

 

そしてサウザーは15歳で南斗鳳凰拳伝承者になった。

 

サウザーの変化は、それこそ変身と言ってもいいものだった。
齢15にして眉間には深い皺が刻まれ、高めでよく通る声は凄みのある獅子の威嚇の如くに変わった。
演武であっても相手を半殺しにするのが常。止めなければ演武中の悲しき事故に見せて殺害するであろうことは明らか。もちろん、これは今後自分に従わない者がどうなるかを知らしめるためであった。
将星の目覚め、、、穏健で王道を歩んだオウガイと違い、サウザーの歩む道は覇道に他ならなかった。


力と恐怖によって南斗聖拳組織を支配するだけではない。拳の強さは劣っても各分野の有能な人物は多い。そのような人物を積極的に用いて重宝し充分な恩賞を与え、飴と鞭を使い分けた。
サウザーの支配力は急速に拡大し、20歳になろう頃には名実ともに南斗聖拳の王となっていた。


サウザーのあまりの独裁に対し、拳での決闘を挑まんとする拳士もいたが、最強鳳凰拳の伝承者にして、現在進行形で武の追究を続けるサウザーには到底敵わない。

それでも刃向かおうものなら、悪い場合は一族郎党処刑とされる。それよりは「飴」を受け入れた方が当たり前に賢い道だった。

その後も将星南斗の王に叛旗を翻さんとする者たちや、表立ってサウザーを非難できず陰謀を企てる面々もいたが、その関係者は行方不明になり、或いは事故に巻き込まれた。


それがサウザーのやり方だった。
自分で直に敵を排除するだけではない。サウザーの仕業であることは明白であっても、あえて配下を動かし行方不明や事故に見せかけてはそ知らぬ顔をした。内通者が至る所に居るという疑心の種をばら撒いた。
仁星シュウも行き過ぎたサウザーの独裁に諫言するが、家族や仲間のことをちらつかせられ、沈黙せざるを得ない状況に追い込まれた。


サウザーが進めばその後ろには毎回何人もの有能な取り巻きが付いて回る。ブロンドの長髪を靡かせながら我が道を往く若きサウザー
その頃にはサウザーに楯突くものは誰もいなかった。


このような状況にあって将星を牽制する役目を持つ南斗正統血統をサウザーが邪魔と見るのは自明の理とも言えた。
ユリアとリュウガにはサウザーに反抗する様子はないが、サウザーが失態を犯すようなことがあれば、それを機とばかりに南斗の一部はサウザー憎しの思いからユリアとリュウガを旗印として立ち上がるだろう。
そして一部とはいえ、その数がある一線を超えれば一気に連鎖反応を起こし南斗聖拳組織はサウザー側から正統血統側にひっくり返る。

血統主義ではないだろうが、やはり伝統に重きを置く者たちも多いのだ。正当な根拠なしにユリアとリュウガを討つことはできない。
仮にそれを敢行した場合、他の六聖拳は次代伝承者への過渡期で力は弱まっている状態であり、南斗聖拳組織は衰勢を免れない。

泰山流、場合によっては華山流程度の組織にさえ弱みを見せることになる。

それだけではない。南斗に乱れあるとなれば北斗神拳が仲裁という体で割り込みかねない。

南斗は「身内」の問題も解決出来ない、そんな屈辱的な評判が流れることは南斗の帝王サウザーにとって許されることではない。北斗神拳抹殺はサウザーの目指すところでもあるのだ。

しかし、北斗神拳伝承者リュウケンは師父オウガイの友。憎き北斗神拳といえど、オウガイの認めた数少ない男リュウケンには秘かに敬意を抱いていた。

倒すべき北斗神拳は次代の者どもである。ラオウでありトキであった。ケンシロウが伝承者になるなどこの時点では思いもしていない。


サウザーは正統血統を非難し謀叛の気配ありとする根拠を探した。なければ作ればいいとさえ考えていた。

そんな折、若き正統血統リュウガが南斗聖拳を自ら崩壊させ、北斗に服従せんと企てているという、そんな噂が出回った。
これを画策したのはサウザーに取り入った若き紅鶴拳伝承者、新たに六星の座を勝ち取った妖星のユダであった。
ユダにサウザーへの忠誠はない。ないが、自分が南斗の王となるためにはサウザーを利用し、その座を足掛かりとして更に高く飛躍せねばならないことを知っている。
サウザーが正統血統を絶やした後に、それが過ちであったとの証拠をふれ回り、その権威を貶める。サウザーへの不満は更に高まり、すぐに怒りに変わるだろう。

だが、それだけでは恐るべきサウザーに対抗しようとは誰も思わない筈だ。そこにユダが立つという算段だ。南斗紅鶴拳の力と、そして数を味方につければサウザーをも失脚させることはできる。
だが甘い。サウザーはそれを見通している。見通して尚ユダのやるがままにさせた。
権謀術数渦巻く大きく古い組織南斗聖拳の中を、始めから最強の鳳凰拳と将星を継いだという権威があったとは言え、結局はサウザーが独力で組織を制圧して来たのだ。
ユダの過剰な上昇志向を巧みに利用し、頃合いを見計らってユダを叛逆者として晒す。そして赦す。それはユダに大きな屈辱を与える他に、叛逆者であっても有能な人材は断罪するだけではなく、時には赦し再度の活躍の場を与えるというサウザーの将器の宣伝にもなる。

これもまた内心では叛意を抱く者たちにサウザーを認めさせ、南斗聖拳組織を強固な一つの組織に、いや、帝王の扱いやすい道具にするための策略であり遊びであった。