妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

32.

リュウガとユリアの命を危険と察したダーマはシュウと二人だけの話し合いの場を設けた。

ダーマ本人がシュウに直接に呼びかけたものである。間に人を置けば話が漏れる可能性が否定できない。

サウザーが組織内にばら撒いた疑いの種はそこいらに芽を吹いていたが、シュウだけは誰よりも信じることができた。

 

ユリアに関しては元から慈母星守護の役割を担う五車星に託すことは出来る。サウザーから遠くに離し、そして慈母星の宿命未だ目覚めずとすればある程度の時間は稼げるだろう。
問題はリュウガだ。
リュウガは南斗聖拳の基礎は学んでいたが、サウザー側の監視が強く十代後半ながら特定の流派の奥義修得には至っていない。

慈母星が現れたのだからリュウガが南斗聖拳を学んでも六星に数えられることはない。

南斗正統血統を次代に継ぐだけの男として、ただの象徴として生きろ、ということである。


リュウガ本人も自分の置かれた立場とサウザーの脅威を理解している。拳の才に恵まれながら南斗の拳を継承されずに切歯扼腕とする日々。

愚痴や暴言こそ吐くことはなかったが、目だけは徐々に鋭さを増して行った。

たまに会うことがある腹違いの弟はというと、「あんなデコポッチ野郎のことなんか考えても仕方ないだろ。俺は好きにやってくぜ」と気楽なもので、その後いつの間にかフラッとでかけると行方が追えなくなったという。

リュウガは性格からしてジュウザのように自由には振る舞えない。もちろん自棄になり愚行に出るようなこともないのだが、リュウガの周りの人間はわからない。
もしリュウガ付きの人間たちが我慢できずに立ち上がれば、サウザーは喜んで叛逆の象徴として挙げられたリュウガを討つだろう。しかも南斗聖拳組織の安寧のためという大義名分を背景に。

 


シュウにはいつも驚かされる。
その両眼は完全に失明している筈なのに、案内の必要もなく狭い階段を上り、ダーマの後ろをついて来る。段差に躓くことさえもない。
病んだダーマに階段を上るのは難儀なことであった筈だが、シュウは手を差し伸べたりはしなかった。ダーマのプライドを尊重したからだ。ダーマにはその裏側の気遣いがありがたかった。

石塔の最上階に到着すると、その一室でシュウとダーマは密談に入った。

シュウに椅子を勧めれば、座るその動作には不自然さが感じられない。見えているのではないか? 見えている以上に正確で無駄がない動きであった。

失明とは狂言サウザーの油断を誘っているのではないのか? とさえ思えてくる。
もっとも、現にこれほど自然な動きができるのであればサウザーもシュウを盲目として侮ることはないだろう。そして残念ながらシュウの力であってもサウザーを倒すことは難しい。


「ソナー、、のようなものです。微かな氣を発し、それが物に当たり跳ね返るのを体全体で感じるのです。色こそ分かりませんが、かなり正確に形を判別出来ます」
「おお、そういうことですか」
「あの時以前よりも、この技の会得に向けて修練を積んでいたのですが、どうにも上手くいかず頓挫していました。皮肉なものです。光を失って初めて、、、雑談はここまでにしましょう」
「そうですな。サウザーがどこで目を光らせているか。あ、目を光らせるなど、これは失敬」
これにはシュウも笑った。緊急時の内密な話し合いの場だが、シュウは屈託なく笑った。
だがダーマは悲しくなった。この男仁星のシュウは南斗に不可欠な人物だ。サウザーが歪まねばシュウが彼を盛り立て南斗は最高に栄えたであろうに。
この悲しい表情もシュウには「見える」のであろうか。

 


「それが一番、確かな道でしょう」
泰山寺への接触北斗神拳リュウケン様にお願いするのがよろしいでしょうな。あの方は泰山にも顔が利きますし、北斗神拳南斗聖拳表裏一体の融和を望んでおります」
こうしてリュウケンを通し、泰山王と面会を許された若きリュウガは南斗を離れ泰山寺拳法或いは泰山流と呼ばれる決して表に出ない組織に引き取られた。

泰山側からすれば北斗神拳南斗聖拳も味方というわけではない。もちろんトラブルはある。そこに命が関わる事態もある。
だが、泰山流と言えど北斗と南斗を敵に回すことは避けたいとは考えている。そこに舞い込んだ今回の件は北斗にも南斗にも恩を売る好機であった。
南斗正統血統の若者を北斗神拳伝承者リュウケンの仲介を経て泰山に迎え入れるのである。友好的なときにも敵対したときも切り札となり得る。


リュウケン殿、あの若者は「感化」されておりますな」
泰山王は意外にも小柄で温和な人物だった。もちろん、泰山流の王であるのだから、その柔和な雰囲気をどこまで信用できるかというと、それは別の話ではあるが。
「そのようです、泰山殿。しかし惜しい。あの才と人の上に立つに相応しい高潔さと血筋というものでしょう、人を惹きつける魅力も持ち合わせています」


感化、、、
常人を「斗士」のような超人にするのは簡単ではない。人間の秘められた能力を目覚めさせるのには大きな危険が伴うのだ。
経絡秘孔を点く、或いは同時にある種の薬物を投与し力を目覚めさせるのだが、必ずしも全ての人間に「資格」があるのではない。
下手をすれば、いや、方術を間違わなくとも廃人もしくは死に至らしめることもある。
だが稀に「斗士」に付き、その「力」を繰り返し目にしていると、その氣に感化され自然に能力が開発され解放することがある。
危険の大きい覚醒方法により「力」を得たのではなく、北斗南斗の拳士たちの近くに置かれ「感化」された人間。それこそが北斗南斗の継承者となるに相応しい才能の持ち主である。