妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

33.オマージュ

「まさか貴様ごときがこの聖帝を止められると思うたか」

聖帝サウザーはいつものポーズを崩すことなくリュウガを見下ろし、そして見下した。
「貴様にラオウをも超える力があるのか?」
「ない。だがサウザー!貴様に拳王様ほどの力はない。俺でも届く!」
サウザーの左の口角が上がる。
リュウガを囲む兵たちに緊張が走る。聖帝と天狼リュウガが激突する。その氣に巻き込まれはしないか。だが聖帝正規軍に後退はない。一度組んだ陣形を自ら崩すことは死を意味する。
「当て付けか?南斗への」

「違う!」
リュウガはサウザーから少しも目を逸らさず即答した。今更、南斗への私怨などはない。
「分裂し道を違うた南斗にこの乱世を制する力はない!」
包囲された状態にあり、まして聖帝と敵として向かい合いながらもその堂々たる立ち振る舞いにはサウザーの兵たちの中にも感服する者さえ出始めた。
「フン、ならばラオウにはその力があると。ラオウ北斗神拳伝承者ではない。奴こそ北斗の宿命から離れ暴走しているだけではないか?」

「それも違う! あの力は天をも破る拳だ! あの方の力は突き抜けている。北斗も南斗も超えたところにある! まさに天覇の剛拳なのだ。拳王ラオウこそが乱世を終わらせる真の覇王!」
「ほお、、この聖帝も安く見積もられたようだな。いいだろう」
と、右手をさっと挙げた。
「おう!」という掛け声と共に聖帝の背後から二人の男が飛び出した。
モヒ官ではあるが、他と一線を画す空気を纏っている。それよりも常人には不可能な跳躍だ。南斗聖拳の一派であろう。
その思いをサウザーが覆す。
「その者たちは南斗ではなく、華山流の双剣使いだ。流石に並の兵とは違う。泰山天狼拳、この聖帝に届くとまで言った力、いかほどか見せてもらおう」

サウザーはいつものポーズを左右逆に組み直した。不敵な笑みは変わらない。


リュウガは白馬から降りると呼吸を変えた。サウザーの氣眼にはリュウガの戦闘状態への移行がはっきり見えている?
「ほお、白銀の闘気か、無駄に放出するでもなく。酷寒の大地の厳しさを思わせる。貴様ら、油断はするな。見事討ち取ればそれぞれに一軍を与えよう」
双剣を手にした二人は肯くこともなくリュウガを細い目で静かに見ている。既に開始されている状態だった。
この双剣使いたちもリュウガに隙がないことを感じ取っている。迂闊に仕掛けることはできないでいる。

 


既に「感化」されていたリュウガの秘めた能力は覚醒寸前であった。その状態故に泰山王は彼を泰山流の至宝と呼ばれる天狼拳に預けた。先代伝承者は天狼拳の奥義に到達することが出来ず、知識として天狼拳を継承しているだけに過ぎなかった。
だが、何が吉となるかはわからない。満足に天狼拳を会得出来なかったが、それ故に拳技の研鑽を怠るどころか諦めず腐らず、ただ技を練りに練り続けていた。
その知識と経験は自分に活かすことは叶わなかったが、南斗の高貴な血を引く青年リュウガは自分の代わりに至宝の拳を次々と会得して行く。
リュウガ自身も南斗聖拳の奥義会得が妨害されていたため、ならばと基本となる事細かな技の研鑽は続けていた。いずれこの修練が役に立つことを予期して。そしてここへ来てそれが十二分に功を奏したのであった。

 


双剣使いは一人が正面に、一人が背後に移動した。正面の男に注意を集め、後方の隙を作るというごく当たり前の戦法だが有効なやり方だ。

と、リュウガが動いた。両手を正面の敵に伸ばし、気弾でも撃つかのような構えを取った。
サウザーも興味深くリュウガを見据えた。北斗神拳や話に聞く元斗皇拳ならば気弾を撃つことは可能だからだ。
見事だった。前方に気を集中させながら後方の敵が詰め寄る隙を与えない。正面の双剣使いは気弾を警戒し、微かな怯みを見せた。
リュウガはしかし、ゆっくりと伸ばした腕を戻し脇腹の辺りに構え直した。それこそまさに気弾を放つような構えである。
一瞬、背後の敵から氣を逸らす。流石に華山流の剣士はその隙を見逃さない。自分から氣の縛りが消えたことからほとんど条件反射で間合いを詰めた。
と同時にリュウガが前方へ跳んだ!
「む!」とサウザーが感心するほどの巧さであった。起こりが少なく最高速度への時間が短い。
脇腹に構えた両手を突き出しながら前方の剣士へ襲いかかるリュウガ!
ドヒュッ!!
天狼拳とはいえ狼に例えるのもおかしなくらいの速さと鋭い牙だった。
ボトッと落ちたのは人間の喉元であった。
「天狼抜刀牙」
リュウガが技の名を披露する。喉元を抉り取られた華山の剣士は凍り付いたかのように微動だにせず立ち尽くす。
その直後、抉り取られた部位から血が吹き出すとそのまま崩れ落ちるように前へ倒れた。

「ほお、巧いな。身体操作だけではない。背後の敵を動かせば呼応して前の敵も動く。その僅かな氣と肉体の状態変化に合わせた一撃」

サウザーの独り言ではあるが書記官がその言葉を速記していく。

 

マントを翻しながらもう一方の敵に向く。師から受け継いだ上等なマントの端が僅かに切られていた。流石に華山流である。
だが、もうケリは着いたようなものだ。肉体のみではない常人を超えた能力を見せた双剣使いだったが、泰山の至宝拳とは格が違う。
逃亡など許されないことを知っている双剣使いは両剣を前方に構え覚悟の特攻を仕掛ける。
左剣で突き、リュウガの回避方向に右剣を突く狙いだったが、リュウガは左の一撃目に合わせてすれ違い様に頭部を抉った!
左目から後頭部にかけて欠損した華山の剣士は言い残した。
「さ、むい。つめ、たい」
ドサッ そして遅れての出血。
天狼拳の鋭さに周囲の兵たちも寒気を感じる思いだった。
その冷たい空気をサウザーの笑い声が斬る。
「見事だ。流石は正統血統殿。そして泰山流の至宝と言われる天狼拳だ、シリウスよ」
サウザーが立ち上がる!
「だが、この聖帝に通用するかな?」