妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

23.

両開きの扉を開けるとそこは想像以上に広い部屋であった。大広間である。

壁面に貼り付けられた鏡で囲まれた室内。複数のリング。サンドバック、グローブ、レガース、ヘッドギア等々。
リングの上ではボクシングや拳法のスパーリングが行われている。
奥側にはレスリングマットが敷かれており、組技のトレーニングに励む筋肉逞しい男たちがつかみ合い投げ合い極め合いを繰り返していた。

皆若く筋肉質の者たちだけかと思えば、別の一角では老境に達した者による武術研究も為されている。
汗臭い、男臭いモワッとした匂いが広い室内に満ちていた。


サウザーの姿に気付くと男たちが一斉に訓練を止め、握った右拳を胸に当て礼をする。
「聖帝様!」
「構わん、続けろ」
その一言でまた男たちは自分の訓練に没頭する。中にはサウザーを意識しすぎて動きが固くなった者もいるが、大抵のものは、サウザーのことをもう忘れたかのように激しく組み合い、或いは殴り合っている。


まさか、この者たちの武術指導をしろというのか?

それがサウザーの頼みなのか?


「この者たちは」
「、、、」
「俺のスパーリングパートナーであり、師たちだ」
これには驚いた。あの傲慢な帝王、南斗最強の男がこのような、いやこの程度の男たちを、師匠だと!?
「よいかローンイーグル。南斗聖拳を身につけたなら、その時から舞台が変わる。空手やボクシングに柔道などは比較対象ではなくなってしまう。南斗聖拳と同じ舞台に立つものは、他の南斗聖拳であり、そして北斗神拳なのだ」
部屋の中央をゆっくり歩き、さらに奥へと向かって行く。
「伝承者となり一度その舞台に立てば、その者を鍛えるものは誰もいない。たった一人で上がったその同じ舞台の他の役者は皆敵だ。スパーリングなどない。命を賭した真剣勝負しかない」
古武道師範と思しき高齢の男が笑顔で聖帝に頭を下げる。サウザーは頷くような一礼で応える。
「ならばあえて下の舞台に降り、そこから新たに学ぶ姿勢を持たねばならない。時にはそれも必要なのだ」
不遜、傲慢、独尊、そんなサウザーにこんな面があろうとは。
そしてサウザーたちが知らぬことではあるが、拳王ラオウもまた、様々な流派の使い手を捕らえ、その秘技や奥義を会得している。その後の用済みとなった彼らの運命はカサンドラ投獄ではあるのだが。
「武の道は深く遠い。武を極めるとは、それは人間を極めるということだ。ローンイーグル、貴様は人間を極めることができるか?」
できる筈がない。人間を極めるというものが如何なるものかも検討がつかない。
「真なる意味で武の極致に立つことはできない。武の道に終わりはないということだ」
そして大広間の奥に着くとそこにあるもう一つの重い扉を開けた。
ガランとして殆ど何もない小さい部屋だった。
「ここは前室だ。この先が」
と、火の消えた松明を手にするともう一つの扉を開けた。
真っ暗だった。サウザーは手にした松明に人差し指で触れ氣を込めた。ボウッと小さな音を立てて火が広がって行く。それを種火に壁面に設けられたオイル灯に火を点けて回った。
元の建物の部屋に石を敷き詰めた床面と同様の壁面。やや凹凸が残るフロアだった。カチッ、壁面のスイッチを押した。天井から排気される音がし、同時に石壁の隙間から自然給気が始まった。
「電気が?」
ラオウ支配下にあったガスシティを落とした。ラオウが消え、統率の取れない敵を落とすのは容易だったそうだ。ガスやオイルがあれば発電機を動かせる。もう少しすればこの城の廊下や主だった部屋くらいは電灯を使える」
なるほどこの建物はとりあえずにせよサウザーの本拠地として決まったということか。
「さて、、」とサウザーはマントを脱いで壁の突起に意外な丁寧さで引っ掛けた。
「頼みとはこれだ。貴様に南斗聖拳最強の鳳凰拳を見せておく」
見せる、、、ただ傍らから見ていろということではあるまい。