妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

24.

「それは横から黙って見ていろということか?」

そうでないのは知っている。知っていて問うている。
それに答えずサウザーは別のことを話し始めた。
「我が南斗鳳凰拳は一子相伝。まだ息子たちには修行にも入らせていない。その覚悟が出来ている者がいない。聖帝の後継者としてこれといった物を持った者がおらんのだ」
サウザーが深呼吸を始める。まだただの呼吸だ。
「これからの聖帝の戦いは厳しいものになる。北斗神拳伝承者ケンシロウと拳王ラオウを倒し、場合によってはトキとも拳を交えねばなるまい。そう、北斗神拳を滅するのだ」
サウザーの体温が上がって行くのがわかる。呼吸で身体を戦闘用に変えて行っているのだ。ゆっくりと。
「北斗は、一子相伝の下に争いながらそれでいて、外敵が現れれば共闘するという実に煩わしい連中だ。一つにまとまらない南斗とは違う。他にもこの聖帝の敵はいる。今はまだ勢力を伸ばしてはいないが、、、」
「、、、」
「やがてこの聖帝の前に敵として現れる者が一人いる。天帝だ」
天帝、、、サウザーは天帝がまだ滅んでいないという。シンは現代の天帝が如何なる男なのかさえ聞いたこともない。かつて南斗六聖拳は天帝の居城を守る六つの門の衛将だった過去がある、というのは当然知った話であっても。
南斗六聖拳という呼称にしても星座南斗六星に因んでいるのか、この六門からなのかも不明だ。
だが幸いにして南斗六星最後の一人、ユリアの生存は隠されているようだ。さすがに海のリハクを中心とした南斗五車星


「天帝を守らんとする男も楽な相手ではない」

ビシン! サウザーが遂に南斗聖拳の氣を満たした。南斗の氣が空気を裂く。同時にシンも静かに、そしてそこから急加速で力を込める。十字傷が微かに痛むものの血の滲みはない。
「この一時で鳳凰拳の全てを見せることはできぬが、一部から全てを学べ。殺す気で来い! 安心しろ、貴様ごときに取られる聖帝の命ではない!」
「その気で行かせてもらう!」
サウザーはまさか、自分が敗れることも想定しているというのか? それで一子相伝南斗鳳凰拳をこの俺に託そうとしているのか? そんな男ではあるまいが、、、
いや、今は先ずこの場に集中せねば!


両腕をサウザーに向け前方に集中した構えを取った。右腕が上で右脚を前にしている。一方でサウザーは構えるでもなく悠然と立っているだけだ。
「どうした?来ぬのか?ローンイーグル。臆したか?」
「構えぬのか!?」

構えない相手には調子が狂う。
「知らぬのか。南斗鳳凰拳に構えはない。最強故に脅威となる敵がいないからだ。故に我が拳はただ攻める拳!」


シンがまだほんの少年の頃、10代後半の若き鳳凰拳伝承者サウザーの演武を見たことがある。その時は構えていた筈だ。あの時の光景は目に焼き付いている。
技の鋭さや強さのみならず、その佇まいに既に帝王然とした支配力があった。
「以前とまるで別人だ。いや、元からの拳の鋭さと才には尋常ならざるものがあったが、、伝承者の重さであろうか?オウガイ殿亡き後のサウザーは鬼気迫るものがある」
その師父の言葉を横に聞きながらもサウザーの迫力に圧されたまま、自分が少なくともその時点で遥かに及ばないことを認めざるを得ず、ただ悔しさで歯を食いしばっていた。
なるほど、たとえ演武会でも敵は身内にあり。全てを見せるような真似はしないということだったのだろう。


「どうした? ではこちらから行こう」
いつの間にか思案に囚われた。不覚。どこかでまだ実戦ではないという甘さがあった。
そして、どこまでも余裕な態度のサウザーに軽い殺意が湧き上がる。
思い知らせてやろう、、、


サウザーが言う。
「ただの手合わせと思うな。貴様に力なくばこの場で葬り去る。これは死合いだ」
空気が変わった。来るタイミングを隠しもしない。


来る!


ダン! サウザーが出る!!
「前進し!!」
「!!?」

その一瞬でサウザーがシンの射程距離内に入っていた。と、同時に放たれたサウザーの突きをシンは頭部をずらして回避する!
ギリギリだ。サウザーも本気で取りに来ている!
「チッ!、、??!」

舌打ちしながら反撃を試みるが、、サウザーは既に間合いを外れたところにいる。迅い!!
自身の突きが間合いごと外されて回避されるなど思いもしなかった。しかし決してそれが思い上がりだったとは言えまい。それほどまでにサウザーの動きは速い!
「そして、、、」と大きく息を吸い込むと、、
グン!!! 疾い!!!
「制圧する!!」
その速度からさらに加速された突きが今度は腹部を狙う!!
避けられない! ガシ!! 受けるしかなかった。突きを横に流すだけでもその重さと鋭さで全力を要した。
完全に氣と体のバランスを崩した。


-死-


完全にその 間 があった。


ポン、、サウザーがシンの肩を軽く叩いた。
「これが制圧前進の我が鳳凰拳だ」
これほどの差があるのか?これほど遠いか。孤鷲拳と鳳凰拳の差だけではない。まさしく武の練度の差だ。
「構えなき構えと、そしていかなる他流より飛翔軽功に長ける南斗聖拳その中でも最速の足捌き。そしてもう一つ。次で最後だ」