妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

30.

リュウガとサウザーは遂に相対した。


「久しいな。正統殿」

いつものポーズのまま見下ろし、リュウガに投げかけたその言葉は辛辣だった。


「正統殿とあろう方が、このような辺鄙な場所で何をしておられる?」
と、わざとらしく困ったような顔を作って見せている。
サウザー
一変、サウザーはニヤけた顔から急に真顔になった。
「フン、貴様もあの女の被害者よ。実の妹であっても周りを不幸にするばかりだな、あの女は」
その一言に狼の目が鋭さを増す。
「南斗慈母星だと?あんなものは凶星以外の何物でもない」
500の兵によるリュウガの包囲が完了した。
リュウガの怒りに満ちた眼光。この包囲網も狼の周りを囲んだ羊の群れに過ぎないのかも知れない。


南斗六聖拳は格としては同じく将である。だがその中でもあえて「将」の星を名乗る鳳凰拳伝承者は南斗聖拳108派の最も高き頂きに君臨する。
対して他の五星は将星の衛星に過ぎないが、その衛星の中でも南斗正統血統は南斗将星の対となる、謂わばその暴走を抑える目付の役割でもあった。
しかし、南斗慈母星は常にこの世に現れるわけではない。単に正統血統が女子を得れば、それ即ち南斗慈母星ではないのだ。


南斗聖拳との関わりが深い霊能力者がいた。

摩利支天の化身と伝えられオババ様と敬われる年齢不詳の漂泊の巫女である。
彼女が幼きユリアを「視た」時だった。まだこの時ユリアは感情の起伏がほとんどない無表情な少女であり、中にはユリアを白痴と嗤う者さえもいた。
しかし、漂泊の巫女の御神託は周囲の予想を裏切るものだった。
「間違いありません。この子は南斗慈母の星を宿命とする子です。今はまだその運命が目覚めていませんが、いずれこの子は、確実に訪れるだろう戦乱の世にあって、疲れ傷付いた多くの衆生を優しく照らす光となるでしょう」


よく当たる、見通すと評判の高い摩利支天のオババ様。その時で既に老境に達している筈だが、その姿はどう見ても20代の若く神秘的な美女だった。

常に遠くを見るような冷めた目だけがその実年齢を示しているかに思えた。
そのオババ様が、後に戦乱の世が来ると言ったのだ。ユリアの後見人ダーマたちは不穏なお告げに動揺した。


南斗慈母星を凶星というサウザーの言葉にも、実は一理ある。
なぜなら慈母星降臨は、上記のようにその慈愛に満ちた光明が「必要になる時代」が来ることを指し示すからである。
加えて、北斗南斗の厳しい宿命を背負う孤独な拳士たちにとって、慈母星の持つ癒しと母性はユリアの美しい容姿も相まってその男たちの心を容易に奪ってしまった。
強きが故に引くことを知らない男たちが一人の女を欲すれば、そこに闘争が生じるのは当然であるのだ。
摩利支天の神託など鼻で笑うサウザーからすれば、慈母星ユリアなどは男たちを惑わす魔性にしか見えていないのだ。


そして、、、
南斗慈母星降臨によって本来は南斗正統血統として他の四人とは違った角度から将星サウザーを牽制し、南斗の連帯に貢献する筈だったリュウガは、南斗六聖拳となる道から外れなければならなかった。


(※南斗六星最後の一人が拳士でなくてユリアという超級後付けで実兄リュウガの立ち位置がかなり微妙になります。スピンオフ漫画では、読んでないのでよくはわからないのですが、それによると慈母星はいつの時代も存在しているが自らの宿命に毎回目覚めるということではない。そんなときのために代理の南斗聖拳があるとかなんとか。自分もそう解釈というか妄想していました。ただ違う点として慈母星は常に存在しているのではなく世界的大混乱の前に現れるという妄想設定としました。リュウガは本来南斗正統血統として、その南斗聖拳(漫画だと南斗神鳥拳)を継承し、六星の一人(漫画では亡星?)となる筈が慈母星降臨のためそのユリアに将を譲る形となった、としました)


よって、南斗の一部にはリュウガのことを無念の人と呼ぶ者もいる。
優れた拳才を持ち、歳若いながらに慧眼に優れ、そして人を惹きつける容姿にも恵まれながら、六星に数えられることが叶わなかったためだ。
いや、仮に六星の一人となれなくても、南斗聖拳を継承しユリアを陰から助けることは可能だった。
南斗五車星南斗聖拳を身につけた南斗正統血統者リュウガがユリアの保護という一つの目的の下にまとまれば、それは帝王サウザーへの大きな抑止力になる筈であったのだ。


その道さえをも奪ったのは、南斗正統血統の後見人ダーマであった。
理由は一つ。サウザーの存在だった。
サウザーは危険すぎたのだ。