「その命令には従えません!」
一人の戦士が言った。
「リュウガ様、この竜牙会にしてもあなたあってのもの。我らは同じ志の下に集まったのではありませんか!リュウガ様!あなたが拳王様に希望を託すように、我らもあなたに希望を見ているのです!」
出来ない。こんな仲間たちをここで犬死させることは出来ない。
「駄目だ」
リュウガの目は氷のように冷たく、そして狼の牙の如く鋭かった。
「俺がいなくなる程度で竜牙会は終わるのか?そんなものだったのか?卿たちの希望とは拳王様にかけたものではなかったのか?そうでなく俺頼みだったのか?」
「ならば共に逃げましょう。まだ間に合います。拳王様がいない現在、聖帝から逃げても恥じることはありません。むしろそうあるべきでは? 残骸の中を往けば聖帝めも追っては来ないでしょう」
今度は年長の黒騎士が落ち着いた口調で言った。
対してリュウガも語気を強めて返す。
「駄目だ! 今日も俺は拳王の伝説を損なう者たちを粛清した。その俺がいかに聖帝相手だろうと背を向けることなど出来はしない」
七人が真剣な眼差しをリュウガに向けている。
「却って、、、このリュウガがここで果てることで拳王麾下の戦士たちも覚悟が決まろう」
周囲を凍てつかせるような冷たい目だった。
粛清という形で拳王への恐怖の代理的な役目を果たすより、聖帝という本来の敵の強大さを強調できると考えたのだ。
加えてこの七人であれば、リュウガ亡き後のことも任せられる。その信頼に値する仲間たちだ。
それに、、、
この天狼の牙が鳳凰の喉元を抉らないとは、、言えない筈だ。
「さあ行ってくれ」
まだ何か言おうとする若い黒騎士を先程の年長者が制する。
この若者の気持ちも痛いほどにわかる。覚悟が決まるよりも何よりも、リュウガが生きていることの方が遥かに拳王軍には益がある。彼らはこの男が拳王様を信じているのと同様に、この男を信じている。
だが、この男は一度決めたらそれを通すことも知っている。
「わかりました。では先に戻っております。遅くなりませんように」
フッ、とリュウガは横顔で笑った。
「聖帝様!リュウガを除く敵兵が逃亡を!」とサウザーに追いついたモヒ官が叫ぶ。
「罠かも知れません!逃げて見せることで我らを追わせ、建物に隠れた伏兵たちが」
ガツッ!
報告したモヒ官より上位のモヒ官が殴った。
「バカ者!ここまで進んで来ておいて敵の足跡を探さなかったのか!敵兵多数を思わせるような痕跡はあったか!」
「あ、、」と報告モヒ官は自責した。
「それだけでないわ!我らは聖帝軍であるぞ!前進して制圧するのが聖帝様の誉れ高き戦士であろう!」
まず前提として拳王と聖帝の決着は直接対決以外にあり得ない。罠や伏兵で倒せたとしても、それは王である前に拳士であるということを全面的に否定する行為だ。
いかに勝者が歴史を作る、書き換えて行くとはいえ、拳士としての矜持を捨てることはない。
故にサウザーはそんなモヒ官たちのやり取りには全く意を介さず、いつもの座りポーズで前方を見ている。
白馬に跨り、ただ一人こちらに向かって来るリュウガを。
500の兵がサウザーに追いつくと指揮モヒ官が腕を広げ全体に合図を出した。
それを受け、兵達はきれいに左右二手に分かれ単騎のリュウガを取り囲むように動き出した。
しかしリュウガはゆっくりと近づきながらもサウザーから目を離さない。
「フッフッフッ、、、さすがはシリウス。その名に相応しい存在感を出しておる。その気のようだ」