妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

20.

犠牲となった者たちの埋葬が終わった。女たちがその上に花弁を撒いていく。

「とりあえずはこれで勘弁してくれ。落ち着いたらちゃんとした墓標を立てるからな」
と高齢の男が手を合わせた。周りにいた者たちもそれに合わせるようにしてしゃがみ込んだり膝を着いたりとして合掌し、死者を弔う。
老人の隣には村長の花が、やはり膝を着いて手を合わせている。
「花さん。若い連中がえらく減ってしまったね。俺のような年寄りが生き残っちまってよ。おっ、シンさん」
シンが現れ、場の空気に変化はあるが、流石にこの時代を生きる者たちである。本能的な恐怖を抑え、理性的な判断でシンと接しようとする。
「奴らの片付けも終わった」
あんな賊の死骸などばら撒いてしまえばいい、と思ったが、それを食らいに野獣が集まるのも脅威となるだろう。カラスやハエがたかるのも心地の良いことではない。だが、埋葬の理由は別にあった。
「この人たちも時代の犠牲者。とんでもない悪党だけど、死んだら皆仏様。埋葬してあげたいの」
という花の要望に応えた結果だ。
元人間であったというだけの無惨な肉と骨のブロックだ。それまでシン本人が敵の遺骸を片付けたことなどないし、ましてや弔ったこともない。だが、この嫌な役割さえ村の者たちが手伝ってくれた。
穴を掘るのは南斗聖拳なら容易いが、雑務に使うような真似はしない。
協力がなければもっと長引いただろう。流石に村人の墓地に埋葬するわけには行かない。20人分の肉塊を遠くまで運んで穴を掘り埋葬した。その仕事を一人でこなすのはまず無理だった。


「花さん、俺が怖くないのか?それに俺はかつてキングという男。その焼印も」
「この焼印、、身体の傷として考えるなら、もう全然平気。痛くもないし。でもこの焼印が押されたときの状況は、、もう忘れられないし、誰にも話さない。けどね、人間の目は前に付いてるのよ」
明るい声だった。強い声だった。大したものだ。
「この辺りをうろついていた賊はタジフたちだけだったのだろう?だが、タジフたちがいなくなったせいで代わりの賊が来るかも知れない」

十字傷はほとんど癒えている。筋肉が、いや細胞一つ一つが傷を塞ぐべく締め付けている。無理な動きをすればまだ出血はあろうが埋葬に関わる一連の重労働をこなしても痛みさえ感じなかった。
「かと言って、俺はこの村に居続けられない。南斗聖拳は人と住むことは出来ない」
花は、そうなの?と言おうとしたが、、、たしかにシンの言う通りだろう。異質すぎる存在は恩人であったとしても時の経過とともにいずれ忌避されることになってしまう。
「この村は守る。だがとどまるということではない。ここは拳王軍の勢力下ではあったがタジフたちの有様からして実質的には誰の領土でもない」
花は黙ってシンの続きを待っている。
「拳王と並ぶ勢力であるあの聖帝とは、、いわゆる知り合いだ。聖帝に掛け合ってこの近辺を直轄地にしてもらう」
「でも、聖帝は悪の帝王と呼ばれている。そんなことしたら」
「わかってる。たしかに聖帝は悪だろう。だが属する全ての兵や官までがそうというわけではない。信用出来る何人かも知ってはいる。もちろん、荒らさないよう脅しもかけておく」
仮にサウザーラオウに敗れたなら、その時はラオウにだろうと頭を下げる。望むなら命をも差し出そう。
シンはもう既に死人(シビト)。南斗聖拳の誇りは取り戻したがかつての傲慢さはない。プライドの意味を少しは正せたであろうか。
「もう発つ。皆に礼はしたいが、あの南斗の姿を見せてしまった。黙って去るのがいいだろう」
「そうはいかないよ、シンさん」
と言ってきたのは先の老人だった。
「過去のことは知らん。いや敢えて知らないと言わせてもらう。でもね、タジフたちがこの村を狙っていたのはあんたのせいじゃない。そしてタジフたちから俺らを守ってくれたのはシンさんあんただよ」
南斗聖拳という力と立場を別にすれば、人間という点において全く違いがないということをシンは学んだ。そのために天は自分を生かしたのか?

、、などとは思わない。
ただ、何故自分が生きているのか、あの状況から助かったのかはわからないままだ。
「もちろん、あんたのことを疎ましく思う者もいるかもわからん。少なくとも恐れる者はいるだろう。だから別れの宴とはいくまいが、別れだけはしっかりと済ませてほしい」
「そうね。そうよ。シンあなたはこの村を救ってくれた。そしてこれからも守るために聖帝の元に行く。仲がいいわけではないんでしょ?聖帝と。そんなシンを黙って去らせるわけには行かない。挨拶はしてもらうからね」

 


挨拶と言っても無駄に言葉を残す気はない。それでも村人の多くが旅立ちを見送るべく集まっていた。リマの姿はない。それでいい。南斗聖拳は人から隔てられたところにある。
別れの土産は多すぎないよう食糧と替えの服だけをバックパックに詰め込んだ。今時、武器が要らないというのが常人からはあり得ない。
「では、世話になったな。すぐにこの村の近くに軍を置くようにする」
たった一つのバックパックを背負うと、シンは皆に背を向けて歩き始めた
「シン!」
花だった。
「シン!やっぱりあなたかっこいいよ!」
この村を忘れることはないだろう。忘れるどころではない。守らねばならない。


村から出て少しした頃、、
〜ン、〜ン、僅かに聴こえた。この声は! バッ振り向いた先に、、、
「シ〜ン!ありがとう!ありがとう!ありがと〜う!」
「リマ、、」
遠くからリマが泣きながら手を振っている。
良かった。あの凄惨極まる光景に再び心を閉ざしたと思っていた。
リマの全力の叫びに思わず胸が熱くなる。もう会うことはないだろう。だがこの村は、、皆は必ず俺が守る!
「さらばだ、リマ。またな」
もう会うことはないと思っているのに無意識に言葉が出ていた。