妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

21.聖帝

警護隊統括責任者リゾは慌てて聖帝の居室に向かっていた。

今日は夜間ではなく昼間の警護である。最早聖帝本体に攻撃を仕掛けるような敵はいない。それなのに彼は急いでいた。

「聖帝様!失礼いたします!」
危うくドアを蹴破るところだったが、冷静に考えればそこまで慌てることであろうか? いや、しかし、、、などと軽い混乱にある。何とも難しい事態であった。
聖帝サウザーはビルの際に立ち、毎日少しずつ高く築き上げられて行く巨大建造物、聖帝十字陵を眺めていた。
このところ、建造のペースが増したのだ。日に日に十字陵が完成に近付いている。
「なんだ今度は?リゾ」
真面目すぎるこの警護隊長に眉を潜めながらサウザーは振り向いた。するとそこには、、、
「ほお、珍しい顔だ。死んだと聞いていたが」
リゾは困ってしまった。事情を説明するよりも早くシン本人がサウザーの前に現れてしまったのだから。それにしても全力で駆けていたのにいつの間について来ていたのか。
「あ、聖帝様、つまり、こういうことです。失礼致しました!」
と言って今度は静かに扉を閉めて出て行った。

 


「久しいな、サウザー
サウザーは瓦礫の広がる荒野の先にある十字陵に目を戻し、横目でシンを見ながら応えた。
「生恥を晒しに来たか?ローンイーグル。就職先でも探しに来たか?」
ローンイーグル、、、孤狼をローンウルフと表現するが、そこから転じて孤鷲拳のシンをローンイーグルと呼んだ。
「そうだ。面接に来た」
サウザーはクフフと帝王然として笑う。
「雇われる者の態度ではないな。だが話は聴こう」

 


「なるほど。実に下らん求職理由だな」
「下らなくても本気だ。本気で頼んでいる」
風にそよいだ前髪を直しながらサウザーがシンに振り向いた。そしてシンを上から下までじっと観察して言う。
「貴様らしくもないみすぼらしい姿だな。堕ちたものよ。そんなにあの女は良かったのか? 南斗六星の一人ともあろうものが女一人に魅了され、前後左右見境なく暴れた末にあえなく振られ、遂には貴様自身で手を下したそうだな」
「、、、」
温度上昇開始。
「挙げ句に北斗の小僧めに敗北。どのツラ下げてこの聖帝の下へ来た。しかも仕事をくれと?」
「、、、、」
引き続き上昇中。
 「フン、笑い話にもならん!そんなにあの女は、アレの具合が良かったのか!?」
そして沸点!!
シンが出る!!
本気の殺意を以ってシンが突きを放つ!
ガシッ!
サウザーはそれを左手で掴み取りはしたが予想を超えるその鋭さに思わず反撃を見舞う。シンの首を刎ねんと右の手刀を繰り出す!
その手刀をシンも左の手刀で受ける!

ビシッ!!

反発し合う南斗の裂気が空気を裂き石床を斬る。
そのまま受けた手刀をサウザー側に滑らせ胸を突こうとしたが、、
「!」
動かない。力ではない。氣でもない。 技術だ。
「フッ、、フッフフ。瞳孔が開いているぞ。本当に蘇ったようだな、ローンイーグル」
「わざと挑発を」
戦いは終わった。シンもサウザーも同時に戦闘態勢を解いた。
サウザーがその気なら今の一瞬の戸惑いを見逃さなかったであろう。


「憂慮すべき問題だ」
シンは何がだ!?という視線でサウザーを睨みつける。
「なまじ南斗聖拳を身につけたからそうなる」
「?」
南斗孤鷲拳を身につけたその時点でこの世のほとんど全ての武術を超えてしまう。故に根本的な武を学んでいない」
たしかにそれはその通りだが、今更そのような有象無象の武を学んでどうなる?
「貴様がこのサウザーに勝てぬのは、何も鳳凰拳と孤鷲拳の差というだけではない。総合的な武の練度が違うのだ」
サウザーはマントを翻しながら、再び瓦礫の荒野に目を向けた。
「さらに言うなら、その直情的な性質だ。万が一このサウザーをここで討ったとしてどうなる? かわりに聖帝を継げるか? ラオウと覇権をかけて戦うか? 勝利の後にこの乱世に一つの支配をもたらせるか?」
図星を突かれて反論の余地もないが、釈然としない思いのまま聴いているしかない。
「無論、その炎の性状も場合によっては有利だ。その勢いをしてケンシロウからあの女を奪ったのであろう」
サウザーは大袈裟に憂いたような表情を作る。