妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

16.

「んだあ!てめえは〜!!」

本能的にシンの威圧にたじろいだ賊たちだったが、彼らの狂気がすぐにそれを上回った。狂気の笑みのまま斧を振り上げ突進してくる賊に鋭い一突きを入れる!
相手が走ってきた勢いで槍は突き刺さったが、予想以上の重さだった。この村手製の槍の貫通力は低い。槍を掴む手が擦り剥けそうな感覚だった。
これが常人の戦いなのか。漸く引き抜く。
「て、てめえ!!」
仲間をやられ逆上する別の男が襲い来るが、振り回される鉄の棍棒をかわし、反撃の一突きを極める!
シンの傷は癒えていた。「力」はないが身体は動く。
「俺らも行くぞ!」と村の戦士たちも後に続く。元より数では勝っていた。
「くっ、てめえら!リーダーがどうなってもいいのかよ!」と赤髪のモヒカンが叫ぶ。
「花さん!覚悟は決まっているのだろう!俺はやるぞ!」合わせてシンが言う。
「、、、」
自分のことは構わなかった。だが、リマが、、、女長は返事に躊躇したが、既に男たちは賊に反撃を始めている。
シンはというとリマを踏みつけたままの男に睨みを利かせ、威圧を続けている。それが功を奏し狼狽えながら悪態は吐くがリマにかける体重は軽減されている。
形勢逆転と思えたが、そうはさせなかったのが、短髪の剣士と、そして遂に動いたタジフだった。
短髪剣士は実にスマートな戦いで村の戦士たちを斬り伏せて行くのに対し、タジフは力任せの豪の剣だった。巾着の紐を伸ばし背負う形にしてあるが、背中が広過ぎるせいでただの飾りにしか見えない。
短髪剣士は何かしらの古流の剣だが、タジフの技は剣道、いわゆる剣道のようだった。
手にした得物は刀ではなく鉄棒。手入れの難儀さと刃こぼれのことを気にしたのかはわからないが殺傷力に関しては同じようなものだった。何にせよ実戦慣れした二人の男が次々と村の戦士たちを斬り、あるいは豪快に砕いて行く。
短髪が遂にシンを標的として捉えた。ニヤけている。渾身の力で槍を突くが軽くいなされると、その一撃が手にした槍を切断した。先端以外は木製だが鋭すぎる剣の迅さ故かほとんど衝撃も感じさせず槍は切断された。
この強敵に対し、自分がしたことは力任せに槍を突いただけだった。全く以って自分の強さなど南斗聖拳という特別な力を授かっただけに過ぎなかったことを思い知らされた。
次の一撃が来たら避けられない間合いだ。敵はニヤけている。
「どけ」
重厚な声。タジフだった。タジフが鉄棒を振り上げる。その起こりを見て早過ぎるタイミングで、それこそ死に物狂いで身をかわした。
ビュ!!
タイミングが早過ぎることはなかった。短髪剣士よりも更に速い振り下ろしであった。まさにギリギリの回避。
タジフはこの間合いでかわされたことに瞬間驚いた。シンは返す一撃を読む。下から斬り返しならぬ打ち返しがあると予想したが、それよりも早くタジフの体当たりがシンを吹き飛ばした。
183cmのシンよりも大きく、横幅はもっと差がある岩のような男の岩のような体当たりである。

「タジフさん、俺の二撃目でやれてたのに」

と、短髪剣士がわざとらしい困り顔で抗議するがタジフは全く聞こえていないような体だった。


体当たりの衝撃で意識は一瞬途絶え、受け身も取れないまま地面に落下した。その二重の衝撃に意識が朦朧とした。半分気絶のようなものだった。
一方でタジフは倒れたシンには構わずに他の村人兵を血で染まった鉄棒で打ち砕き続けていく。戦闘不能に陥った者は後からでも始末できるからだ。
剣道をベースにした実戦特化型の我流剣術でタジフは悪鬼のごとき勢いで攻め入り、補佐するように短髪剣士が後ろに続く。しかし補佐の必要も背中を守るというような役目もまるで不必要なほどタジフは強かった。

グサッ!
「う、、」
敵の一人がいたぶるように倒れたシンの肩にナイフを突き立てている。
「てめえ!よくも仲間をやりやがったな!すぐには楽にさせねえ!生まれたことを後悔させてやらあ!!」
スキがある!シンは混濁した意識の中でもほとんど無意識に素早くナイフを奪い取ると油断した敵の喉元に突き刺した。多少なりとも技が身に染み付いている。
しかしこの後が酷かった。ガッ!短髪剣士がシンの側頭部を刀の峰で強かに打ったのである。
「こいつめ、うちの奴ら何人やるんだよ。ったく。タジフさん!こいつの処刑は俺に任せてくれ!」
タジフは黙って肯くだけだった。既にその周りに立っている者は誰もいない。タジフ本人には僅かな切り傷さえ見当たらない。恐るべき戦闘力だった。
「よし、タジフさんの許しもあった。お前たち、先ずは痛めつけろ。武器はなしだ」
リマを踏みつけている男も、また徐々に体重をかけていく。
「おうおう、ひでえ奴らだなあ、おい。ええ?お嬢ちゃん。みんなお前さんのことを放っておいて立ち向かって来たぜ?アハ。そんで全滅返り討ちだ。何なのお前ら命捨てて笑い取りに来てんの?」
倒れたシンを囲んで賊たちが蹴りや踏み付けを繰り返す。皆一様に楽しんでいる。
「すまないリマ、、、お前一人守ってやれない」

読みが甘すぎた。一瞬でリマを踏みつけている男を倒す気でいたが、それは南斗時代の読みだった。いや、もちろん現在の状態を把握してでの計算だったが、それでも甘すぎた。

南斗聖拳の使えないシンなど、ただの男に過ぎなかった。

「すまない花さん、そして皆、、すまない」

「ああ!何ぶつぶつ言ってやがる!まだ力が足りねえか?これで、、どうだ!オラ!」


少し離れたところで女長を抑えたままの赤髪モヒカンが叫ぶ。

「ヒャッハー!どうだおばちゃん!これがこの世界の現実!新しい絶対のルールなんだよ!いいか?よく覚えとけ。もっとも、覚えてもすぐアレだけどなあ! これが正義なんだよ!力が正義なんだよ!弱いお前らが悪なんだ!」
そして女長の服を破き、「お!?歳の割になかなかいいじゃねえか!安心しろ、俺は少しも優しくねえぜ!」とまた高い声で笑う。


力が正義、、、力こそが正義、、、
「力こそ正義。い〜い時代になったものだ。強者は心おきなく欲しいものを手に入れることが出来る」
歪んだ笑みで何者かが言っている、、、誰でもないかつての自分だった。あの時の自分だった。