妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

17.

「大丈夫よ。きっと神様が助けてくれるわ」

泣く子をあやすように優しく語りかける母親。少しも助かるとは思っていない。奴らに苦しめられ辱しめられるよりいっそのこと、、、。手には短刀が握られている。


「いやあ楽しいなあ!略奪と殺戮こそ正義の味方に与えられた特権だあ!」
赤髪のモヒカンが叫ぶ。
「さて、おばちゃん!もっと脱がしちゃおうか!」と背中を見た時だった。
「ん?こりゃあ、、、十字の焼印。ハハハ〜!!なんだよおばちゃん!サザンクロスの家畜上がりかよ!」
「!!」
遠退く意識の中で、確かに聴こえた。焼印、サザンクロス、、、
「家畜から解放されて、やっとこんないい村作って、そしてまた奪われる。プッ、、プッハッハッハ! 泣ける。泣けるぜえ〜ブハハハハ! おっと自棄になって暴れんなよ。無駄だから。もうお前らはライオンに捕まった小鹿なんだよ!」
そして一方でリマを踏みつけ、いたぶり続ける男も言う。
「さあて、そろそろ全体重かけようかな?」

 

「リ、リマ、、、」
シンを痛めつける連中が笑う。
「なんだあ?色男!そんなにあのガキが気になるのか!?安心しろ!すぐに会わせてやる!あの世でな!」
「ハハ!そりゃあ随分ベタなセリフだなあ」
「弱いキサマらが悪いんだよ!エースさんが言った通りだ。力が正義なんだからよ!」
頃合いを見計らい短髪剣士が近寄る。
「よおし、お前ら。一旦終わりだ。立たせろ」
シンは両脇から抱えられ強引に立たされた。「さてと。少しずつ刻んでやる。安心しろ。ここを刺しては終わりだってところはよく知ってる。ちゃんと避けてやる。ゆっくりと苦しみを楽しめ」
と言って土埃だらけのシンの服を破いて脱がした。
「ほお、、すげえ傷跡だな。十字の形に楔でも打たれたか?全くエースの言う通り。弱さは罪。重罪。死罪だ。だが先ずは一発殴らせろ」ガッ!刀の柄でシンの横っ面を強打した。シンは耐えきれず再び地面に倒れた。こんなに地面と親しい仲になったことはない。
「おい立て。自分の力で立て。お前も少しは武の道にいたんだろ?よく言われなかったから?自分で立てと」
立てと言われたから立とうとするわけではない。だが立ち上がろうとする自分を理解出来ない。勝てないのに。

既に身体は限界だった。膝を立てたまではいいが、ここから立ち上がることが出来ない。

「五秒だ。あと五秒で立たなければ、あのガキを斬る。おい、そのガキ連れて来い!、、、4、、、3、、、ゆっくり数えてやってるんだがな」
「あ、はい!オラ!立てオラ!ジライさんが呼んだんだよ」
「逃げ、て」

「あん?お嬢ちゃんなんか言ったか?」
「逃げて、逃げて、、、」
「に〜い、、、い〜ち、、、」


「シン!!逃げて〜!!!みんな逃げて〜!!!」
自身を案じるでもなく、リマは叫んだ。
もういい、私はいい。お父さんに会えるから。お母さんに会えるから。
でも!シンは助かって!花さんは助かって!
みんなは助かって!!!


「リマが喋った」
「リマちゃん」
「リ、リマが」


「フッ、逃げてと言っても逃げられないのわからないかな?まだ子供だもんな。気が変わった。シンというのか、貴様。あのガキの前で刻みながら殺してやろう。お前ら、もう一回立たせろ」
と、二人の男がまた先と同様両脇から抱えようとしたが、、、
「ん?おいどうした?」


ギン!!

 

「ん?」
空気が変わった?なんとも表現しにくいが何かが変わった。タジフだけがそれに気がついている。タジフに次ぐ実力者である短髪剣士ジライさえ別段何かを感じた様子はない。
「おい、早く立たせろ!」
しかし、シンのそばにいる賊二人が動かない。
「おい?」
その言葉と同時に二人が崩れ落ちるように倒れた。そしてかわりに、ゆら〜と立ち上がったシンだが、、、
紛れもなく、つい先程まで賊たちに痛めつけられていたはずの男だが、、何かが違う。
「お、おお、お、お、お、おい、まさか、、ありゃあ、、いやまさか、、」
と取り乱しているのは赤髪モヒカンのエースだった。エースの左の額には傷跡があるが、それは以前あったタトゥーを隠すために付けたものだ。
エースという名も、実のところスペードのエースから取っている。凶暴な殺戮集団であったキング配下の四天王が一人、スペードの部下だった男だ。
別行動している間にスペードはケンシロウに倒され、続け様にサザンクロスも落とされ、その混乱の最中に逃げ出している。キングに属していたことが知られれば何かと不都合。故に額のスペードマークは削り取っていた。


漸くにしてタジフ以外の賊たちも、この理解不能な変化に気付きはじめた。先程まで痛めつけ続けていたズタボロな男が、急に強烈な存在感を纏い、ただならぬ空気を発しているのだ。


「力こそが正義」
その押し殺すような声に凶暴な賊たちが鳥肌を立てながら後退りする。
「いい時代になったものだ」
散々痛めつけた筈なのに顔の腫れが引いている。
「強き者は、望む物を手に入れる」


やや離れたところでシンを見ていたエースが呟く。
「やべ、、ありゃ本物だ。名前もシンつうんだろ?キングの名はシンだって聞いたことがある。さっきと全然雰囲気違うじゃねえか、、、生きてたのかよ、、、そりゃあねえぜ。こりゃあやべえ、、、、やべえって!!!」