ケンシロウがスゥッと近付いていた!
「なに!!」 いつ!?
シンの心の隙間に撃ち出す横蹴りの連打!
「あたたあ!」
ガードを固めて蹴りを受ける! 流せない間合いで蹴り込まれた力がシンの腕を一瞬の痺れを与えた。
言うまでもなく、その蹴りの威力は筋力のみによるものではない。氣により、速度も力も強度が増している。
受ける方も受ける方。正しく受けても「並」の範疇にいる人間では肉を潰され骨を折られている。
しかしだ、南斗聖拳を相手したこの場面で、力はあっても速さには劣る足蹴りを選んだケンシロウが気に入らなかった。
スキを突かれた攻めだったのだ。指や拳による秘孔点穴なら、より優位に立てたのではないか?
シンの沸点は低い。これに対してシンも怒りの反撃を試みる。多少の人間改善も、本質は本質。変わらないことも多々ある。
そもそも沸点の低さは弱点か? 力を与えてくれるか? 冷静に対処されればスキが目立つ? 構わぬ!
南斗の蹴りがケンシロウの下肢を狙う! 当たればこれ幸い。南斗聖拳が当たればそれはどこでも致命の経絡秘孔のようなものだ。
しかし、ケンシロウは脚を上げ受けるでもなく、またスッと間合いを外し、シンの蹴りによる斬撃を空振りさせた。
一瞬の感情が乗った南斗聖拳の蹴り。派手さのない暗殺拳の戦いを望んだはずのシンの蹴りが、空気と5,6m先の壁面を荒く断つ。
どうにも、、、とシンは焦りを感じた。
ケンシロウの動きと気配が読めない、、、読みにくい。反応半分読み半分でケンシロウの動きを追うシンだが、、、、
あのサウザーやガルゴでさえ、移動に生じる気配を見失うことはなかった。速さで言えばサウザーの方が遥かに上なのにだ。
ケンシロウが遅いと言っているのではない。一番読みにくい疾さなのだ。来るのか、来ないか、退くか、進むか、が読みにくい。
流石に北斗神拳!と感心している場合ではない。先ずはこの動きを見切らねば、この勝負に勝つことは、、、、!!!!
トッ!! 被弾!!
先の拳の当たりを除けばこの一戦初の被弾はシンの脇腹だった。が、極めて浅い。触れられた程度。秘孔を突かれた感覚は、、、ない!
シンは過去実際に死点を撃たれている。サザンクロスでだ。その感覚とは違う。やられてはいない。
シンの鍛錬の結果が、ほとんど無意識にケンシロウの一撃の間合いを感じ取り、ギリギリのところで回避に成功していた。
確かに、撃たれた感覚ではなかった。指先と、そして不思議にも柔らかく温かみさえも感じるような氣が、、脇腹に触れた。死神のキスは甘く優しい、のか?
執念を身に付け凄味を増したあの時のケンシロウ。その後の怒りにより力を増した拳。それらとは性質が違う。
暗殺拳としての精度も格段に上がっているようだ。北斗神拳伝承者の深み。計り知れない何か。
、、待て、、とシンは不気味に感じながらも冷静に努め、逃げにならない距離で間合いを空ける。
北斗神拳だけが死神ではない。南斗聖拳も死と災厄を巻き起こす破壊の神ではないか。
必死だが、思考が渦巻いた。何かを探ろうとしている。脳が情報を掻き集め、解答を出そうとしている。
「そうか!」
この動きは!! あの!!