妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

15.

川か。川の中を。村の中を流れる川の中を通って奴らは入り込んで来たのだ。
もちろん鉄格子で侵入を防ぐための処置はしてあったが、それが外されている。
致し方あるまい。人間の危機感というものは時が経てばどうしても薄れてしまう。杜撰な危機管理と言わざるを得ないが、慣れと油断は人間が克服できない問題の一つだ。


そして、手遅れだった。既に戦闘は行われていた。シンが駆けつけた時、五人の男が血塗れで倒れている。皆こちら側の男たちだ。一方、賊たちには傷を負った者さえいない。
余裕綽々な賊たちに対し、村の男たちは武器を構えたまま萎縮している。中には興奮し飛び出しそうな若者もいるが、実戦の経験値が違うだろう。相手になるまい。
女子供は村内の奥側に逃げているが、もう時間の問題だろう。つまり、今シンがいるここを守り切れないなら終わりということだ。
「待って!」
女長だった。
「待って!私たちの食糧を分けてあげることはできる。でも労働者がいなければあなたたちが楽に生きることはできない。頼む!お願いです。もうやめて下さい!」
と言って土下座した。
「花さん」


遂には賊の数人が内側からゲート開け、タジフたちが全員侵入を終えた。
岩のような男、あれがタジフか。何やら大事そうに巾着袋を抱えている。その中身を見たものはいないが、恐らく拳銃だと見立てられていた。
以前、部下に中身を尋ねられた時、「いよいよ勝てぬとなった時に使う」とだけ答えている。


怖気付いている、、、南斗の荒鷲と言われたシンが雑兵に過ぎない二十人ばかりの男たちに怖気付いていた。自分にはほんの少しも勇気などなかったことを悟る。結局はただ南斗聖拳という力だけが彼の全てだったのだ。


タジフの隣にいるいかにも凶暴な赤髪のモヒカンが言う。
「はあ!?バカかお前は!俺らにとってはな!こんな村は餌場の一つに過ぎねえんだよ!嫌がる奴から強引に奪うから面白えんだろうが!」
「そうだ!男たちは全殺し!女たちは飽きるまで遊んでやるよ!そして食いもんなくなったらまた別のところは行くだけだ!」
一斉に笑い声が上がった。わざと下卑な笑い声にし、恐怖を煽っている。
「てめえら!」
怒りで自制出来ず、遂に一人の若者が飛び出した。どうせ皆がヤられるならそれもいいかも知れんが、、、
「うおお!!」
若者の想定外の突進に一瞬ざわめく輩どもだったが、さすがに反応が早い。この時点で既に若者の運命は決まっていた。
スッ、斬!
しかし、モヒカンでもない別の短髪で地味目な男が、怒れる若者の前に突然現れたかと思うと刀を真横に一閃した。
「あ、、?」
若者はその場に膝をついて腹を抑えているが、溢れ出す臓物を抑えることが出来ない。ゆっくりと前に倒れるとそのまま動かなくなった、、、
「あ〜あ、刀の手入れは面倒なんだぞ。大人しくしてればいいものを」
手練れだ。切っ先の速度はかなりなものだった。常人の目には追えない。つまり、今のシンには見えていなかった。
勝てないだろうことはわかる。恐れを感じてもいる。だが、ここで黙ってはいられない。かつては南斗の将の一人だったそのプライドが彼を動かした。プライドというより意地だった。

一歩踏み出した時だった。
「お願いだ!私の命を投げ出す!せめて村人たちを放逐で許して下さい!」
リーダーのタジフは奥に構えたまま黙している。答えたのは赤髪のモヒカンだった。
「だからね?おばちゃん、、、、ダメ〜!!」
また下卑た笑い声が湧き上がる。
男たちも遂に反撃とばかりに動いたが、輩たちの余裕ある立ち構えと、そして何より先程の短髪の剣士の静かな威圧が彼らの突進を躊躇させた。加えて、
「おう、お前ら!この女あ転がすぞ!?」
と、赤髪モヒカンが威嚇する。転がす、、嫌な予感しかしない。
「おお、何故じゃ、、何故神は力なき者を救ってくれん」
「ジジイ!聞こえてるぞ!その歳でわかんねえのか?神様はよ!弱い奴が大っ嫌いなんだよ!」
そしてまたまた下卑た笑いだった。短髪の剣士もにやけている。
「おう!ガキぃ見つけだぜ。隠れてやがった」
汚いなりをした別の輩が幼い女の子の髪を引っ張りながら連れて来た。
「ああ、リマ!」
叫んだのは涙ながらの女長だった。
「こりゃあ美人になるなあ、間違いない。売るか、それとも、、、。タジフさん!このガキどうしますか!?」
タジフが初めて声を出した。静かだが重い声だった。
「関心はない。好きにしろ」
「よっしゃ!決めた。踏み潰してみよう♪やってみよう♪あいつら真っ当ぶってる大人たちがどう反応するかを見てみよう♪」
男はリマを地面に叩きつけると彼女を踏みつけ少しずつ体重をかけ始めた。リマは必死で抵抗するが胸の上に置かれた足は全く動かない。


「待て」
その凄みのある声は歴戦の輩どもにも異質なものに思えたようだ。輩どもの動きが一瞬止まる。
もう抑えられなかった。そして理解した。

ここだ。この時のために自分は生かされたのだろう。自分の罪の精算には全くなりはしないが、ここで死すことが運命なのだろう。もうこの村は守れまい。
だが、ここで動けないようなら南斗聖拳の使い手であった過去をも否定しなければならない。