妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

13.

この村の連中も、戦士とはいえ元は真っ当な人間の集まりである。だからこそ彼は自分が異質であることを感じないわけにはいかない。

いや、正確にはそうではない。彼自身が「普通」の人間と同一線上にいる現状を認めたくないだけだった。
しかし、その普通と彼を隔てていた「力」は失われたままだ。単に「力」に満ち溢れていたその過去だけが彼に異質さと特別さを意識させていた。
「力」を失くした現在の状況から考えられる未来は全く見えない。どれだけ時が経っても見える気がしなかった。考えたくもなかった。
そんな思いを持ってはいても、村の一員として右手のみの片手ながら様々な作業を手伝っていると、彼を認める人間もチラホラと出て来る。
そして、いつしか不思議と弱った身体も回復が進み、細くなった筋肉にもやや厚みが増して来ていた。

 

「どう?シン、体調は?」
気さくに話しかけて来たのは女長だ。右側にヒビが入った眼鏡の奥は優しい目をしている。誰にも分け隔てがない。リーダーでありながら決して威張ることもなく、皆と共に作業に従事している。
「花さん」
本名ではないようだが何となくいつの間にかそう呼ばれていたらしい。「長」というような敬意ではなく親しみを込めて皆はそう呼んでいる。
「ねえ、あの子いるでしょ?」と女リーダーの目線の先には手作業中の十歳ほどの暗い顔した少女がいた。
「リマ、、っていうの。かなり酷い経験したみたいで、ずっと心を閉ざしたまま。シンも似たようなもんなんでしょ?ちょっと話しかけてみてよ」と言って花はまたそそくさと立ち去って行く。
いきなりの仕事を任されて戸惑い、呼び止めようとするが、彼女が数メートル進んだだけで何人もが笑顔で声を掛け、あるいは近寄ってはアドバイスを求め、相談を持ちかける。断る機を逃してしまった。
そのリマに目線を移す。やはり暗い顔のままで何やら細かい作業を続けている。存在は知っていたが特に意識してはいなかった。難しい仕事だ、と内心毒づく。


夕方だった。
以前の文明による汚染がなくなった夕陽の美しさを眺め、一日がまた暮れたことをしみじみと感じていると、若く見た目もいい女が近づいて来る。
この村の男たちの欲望引き受け役だ。いや、そんな役目は誰も設けていない。食糧も物資も安定的に供給できるこのコロニーにあってそんな役目を買って出るのも珍しい。
だが、壮絶な過去を持った人間は今時ありふれている。いかれていないようで、いかれた奴らはこの村にも少なくない。
「あの子はね」
遊女というイメージはないものの、そんな役目をこなしているのだから、そのような目的で寄って来たのかとも思ったが、その表情も話し方も至極真っ当なそれであった。
「私は元々リマと同じ街に住んでて」
と初めて話すのに名乗ることもない。お互い顔は知ってるんだから今更名乗らなくてもいいでしょ?というような態度だ。


話はこうだ。
平和だった「あの頃」からリマを知ってる。リマの母は戦争被害で亡くなり、父と二人で生きて来た。悲しみにくれつつもよく笑う気丈ないい子で、元々ヒョロヒョロのサラリーマンだった父もいつの間にか逞しくなり愛娘を守るため必死に頑張っていた。
戦果の爪痕残る街も漸く片付き、何とか生きていく現実的な希望を皆が持ち始めた頃、GOLANを名乗るエリート気取りの賊が街を食い物にし始めた。強引に連れて行かれるリマを取り戻そうとした父は、、、、ということだ。
女は、目撃したリマの父の「その状況」に関しては事細かに説明した。涙ながらだった。


GOLANといえば、あの「大佐」が立ち上げた組織だ。南斗無音拳を習得して尚余りある才能。非常に優れた能力の持ち主であり、それなりのポストに付けたであろうと聞いている。
だが、必要以上に南斗と関わろうとせず、南斗の拳士よりも一軍人としての生き方に重きを置いており、無音拳も数ある戦闘ツール一つに過ぎないようだった
「この時代」になってもキング組織との利害は合致しないため特に関心もなかったが、、、


「でも、その時、、、一人の男が現れて、嘘みたいな話だけど、たった一人でみんなやっつけてしまったの。GOLANは強さだけは本物だったのに、たったひとりでよ?」
たったひとりか。
そのGOLANもケンシロウ一人に潰されたと噂で聞いている。噂だが事実だろう。この女の言っている男もケンシロウに違いない。
「でも、お父さんがあんな目にあってては、いくらGOLANの奴らが倒されたからって、、、お願い。だからあの子をあんまり刺激しないで。花さんがあんたに頼んだなら何か理由があるのかも知れないけど、とにかくお願い」
「俺にとっても難しい仕事なんだ」
自身の業を振り返ればGOLANを悪く言えたものではない。リマを憐む資格さえない。
「あんた、、何者なの?」
唐突だった。
「大人しくしてるように見えるけど、わたしはわかる。あんたたまに、あのGOLANの奴らみたいな、、ちがう、もっと冷たく怖い目をしてることがある」
「生まれつきだ」
冷たくそう言ってシンは女から立ち去った。触れてほしくないところだった。