「は!?」
シンは壁に寄りかかったままだった。俺は今、、何を見たのか?
それにしても、とギルはシンを、というよりも得体の知れない目の前の男を刮目したままに思考の渦に呑まれている。
数秒して、その渦を逃げ出して着いた先の理解、、、これが真の暗殺拳南斗聖拳か!
後から込み上げてくる恐怖。膝から下の感覚が恐怖で狂っている。今にも震えそうになる膝だった。
「ギル」とのシンの声が彼の呪縛を解いた。これは彼による敢えての救済だ、呪縛からの。膝の震えは抑えたが、尚それでも力が入らない。
かつてファルコに兄弟で挑み、あっけなく退けられているが、あの圧倒的な元斗皇拳とはまるで別の恐ろしさがある。
しかも、生きているからこそ、後から悟れる恐怖だ。
「(達している、、、)」ファルコやサウザーとはまた違う何かしらの境地に。
「そんな俺だからこそ、「今」に賭ける思いは強い。ここへ来て分かりかけたものもある。これは多分、南斗聖拳の強みだ」
「何なんですかい?それは!」とギルは不気味な恐怖に囚われたことを隠す勢いで言い放つ。侮辱の小芝居を詫びることも忘れていた。
「もう少し、、だ。もう少しでわかるはず。もしかしたら、俺にはわからないかも知れないのだが」
「、、、」
口を開いたままの間抜けな表情のむさ苦しい黒づくめの男は続けるべき言葉を失った。極致に達した者の考えなどわかる故もない。
だが、、
「俺はね、、」
丁寧な言葉遣いはできないが、敬意を失うことなくと注意していたギルは思わず「俺」と口にした。もうそんなことはどうでもいい。
「シン様、、これを伝えに来たんですよ」
「伝える?」
「シン様は負けると、生き残った南斗の奴らや、シュメたちもそう思ってまさぁ」
「、、、、」
「ですがね、俺はわからんくなりました。もうなんていうか、上すぎて。でもこれは伝えとかないと」
「何だ?」
ギルは深呼吸し、凛とした顔を作った。痩せてもいかつい顔だが、いい顔だった。
「南斗聖拳は任せてください!こんな俺が言うのも烏滸がましいのですが、ガルダ君もいるし、他にもまだ何人かは「使える」のもいてます」
どうにも上手く言葉を伝えられない。だから思いを伝えるんだ。
「シン様にはね、南斗聖拳のためだとか、そんなん気にせんとやりおうてもらいたいんですよ」
「、、、、」
!
その時ふと、シンの脳裏に気付きが降りた。
「フフ、黒作りのむさい男は俺を助ける役目、宿命でもあるのか?」
「はい?」
「こちらの話だ。だが、感謝する。ありがとう」
「え、え?、ええ!?」
むさ苦しい髭面の男が困惑する。天上人六聖拳が頭を下げたのだ。
「この出会いを感謝しよう。蒼天の彼方に」
ギルは恐縮したが、一方でシンは微笑を浮かべたままだった。
美形でも知られた南斗孤鷲拳のシンだったが、相変わらずのニヒルな笑みを見せられてギルの顔の強張りも幾分かは取れて行く。
「わかりかけた何かと言ったが、お前のお陰で更にまたわかりかけた。南斗聖拳の強みだ」
実際、その何かを理解していた。にもかかわらず、「わかりかけている」にとどまってるいるのは、シンのそれを認めたくない性格の故だった。
ぼんやりとした丸くシンの背丈ほどの、目の前にあるもの。北斗神拳を倒し得るその朧げな何かは、、、、