妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

9.

今思えば洗脳だったのだろう。神が見捨てたこの世紀末にあって「神は我々を選んだ」と説く大佐こそが彼にとっての神だった。洗脳でも全く構わなかった。
愛する者たちを失い一人になった彼にはこの星のどこにも生き場所はないが、自ら命を終わらす気もない。自分を突き動かす目的が必要だった。
「諸君よ見ろ! さあ後ろを振り返って見よ! この光景を見よ! 拝金主義物質主義のブタども、カネカネカネ!モノモノモノの!その醜いブタどもがこの荒れ果てた破滅の世界をもたらしたのだ!
だが悲しむな! 我々は生き残った! ではなぜにここにいる!? 破滅の地のことを言っているのはではない! なぜ諸君はこの場にいる!? 簡単だ! 偶然ではない! 選ばれたからだ!
そして選ばれて尚、自らが選民たるに相応しいことを証明し続けて来た! 堕落した思いを棄て、命を落しかねない厳しい訓練にも耐え!友と呼んだ者たちをも!弱者とあれば鋼の如き精神で非情なる一撃を下した!」
演台の大佐が右拳を力強く握り込む。
「では改めてGOLANの誇り高き精兵たちに問う! 誰が選んだ!? 誰が諸君を選んだ!? 私ではない!私ではないのだ! では誰だ!!?」
考えさせる時間を与えるかのように数秒の沈黙を挟み、「私には夢がある。追い続ける理想がある」とトーンを変えた。
思い出すと今でも軽い興奮が起こる。自ら問うておきながら回答しない。こちらも問いの答は知っているが、大佐はあえて回答しない。そのもどかしさ、ムズムズした感覚が大佐の演説への集中を増す。
「我が夢は!真に優れた人間が治める国を造ることだ! それを!今この場所から始める! 諸君の命!私に捧げてほしい! ときには死ねと言わねばならないかも知れぬ! そのときは勇猛に死んでほしい! だがそれも全て我が理想のため!」
訓練兵から正式にGOLANの一員として認められたタジフたち40名は一言も発せずに耳を傾けている。
「、、、私一人では不可能なのだ! だが! 諸君らの力があれば成し遂げられる! 楽な道ではないが!我々がやらねばならない! ここに!神の国を造る! ゴッドランドを必ずここに建国する! そして!必ず!全世界を支配する!!」
震えていた。馬鹿しか騙せないような話だったのかも知れないが、自ら騙されに行っていた。わかるのは大佐は本気で言っているということだ。その熱量に圧されて心が熱くなってしまっていた。
「我々は必ず成し遂げる。神が我々を選んだからだ」
キメの一言は静かに、しかし重く言い放った。そして空気を引き裂くような速さで右手を動かし配下の自分たちに敬礼した。
今でもあの時の大佐の姿がはっきりと思い出される。
短い期間だったが、理想を生きた。愛する者を喪い、死んでいた心が熱く蘇った。
充分だった。熱く生き、そして夢破れたのだ。熱く燃えた魂はまた死んだ。今のタジフの願いは一つだけ。虐殺の中ではなく、GOLANの誇りを胸に戦って散りたかった。

 


「タジフさん、そろそろまたあの村に揺さぶりかけますか? 種はもう芽を吹いてる頃です」
あの頃、同じ夢を見た仲間とは比較できないほどゲスい顔をした部下が彼の回想を遮った。
「、、、、そうだな、クルマを用意しろ」
そして彼は傍に立ててある鉄棒を手にして立ち上がる。