妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

8.タジフ

身長は190くらいある。それよりも横幅の広さだ。顔はでかいが、それを支える首の太さが普通ではない。岩だ。岩を彷彿とさせる、それがタジフだった。

拳王侵攻軍に配属されているが、拳王ラオウが聖帝サウザーとの睨み合いを続けている現在、中央から離れた支配力の弱い地域では、事実上兵たちのやり放題だった。
タジフはというとしかし、実のところ殺戮や略奪を好むわけではない。彼には彼なりの信念、とまでは呼べないが一本通った筋がある。
その岩のような肉体の戦闘力は抜群で、他の輩はその強さゆえに従っているが、その手下たちを変に縛りつけようものなら寝首を掻かれる事態も予想できる。容易に予想できる。
故に野党生活を楽しんでいるわけではないが、現時点ではこの状態を繰り返していく他はなかった。


少し前の話であるが、彼はGOLANの兵士だった。
偉大なる指導者ロレント大佐の下、優れた人間のみで構成される世界帝国ゴッドランドを建国する、、、彼は大佐の崇高なる理念に身命をかけた。そして愛するものを失い、灰色の絶望で染められたこの新しい世界を生きるための理由とした。


タジフが小隊を引き連れ、物資獲得や若い女たちの拉致任務のために3日ほどゴッドランドを空けている間だった。
その間にたった一人の男によって屈強なGOLANの兵士たちが、そして何より、あの恐ろしく強く指導者としても絶対者であり、この命さえ捧げると決意したあの大佐が倒されていたのだ。その亡骸は見るも無惨なものであったという。
タジフは泣いた。号泣だった。気付けば周りの部下たちも泣いていた。
この時代を生きる意味、縋る思いで献身してきた彼らの理想は波がさらう砂の城のごとくに消え去った。
いま、あの理想をともに追った部下であり仲間であった者たちは一人もいない。

代りにいるのは平和に暮らすことができず、兵士として自らを制することもできず、ただ力だけが取り柄のクズばかりだった。
それが気に入らないなら、中央に戻ればいい。聖帝軍との小競り合いには参戦できるだろう。そうしないのは既に彼の心が死んでしまったからだ。


大佐とはかつて一度だけスパーリングをしたことがある。スパーリングとは言っても弱き者に情けは無用というGOLANにあっては荒野での実戦と何ら違いはない。

元軍人だからなんだという? 口でならどんな理想だって語れる。武器を使われたら敵わないかも知れないが徒手空拳なら体格差もあるし、こちらも素人ではない。でかいが、俺は速いぞ!
格闘技のベースはある。ガタイもある。何より手加減もルールもない命がけの戦いを生き抜いている。自信はあった。
だが彼の打撃はただ空を切り、捕まえようにも、指先さえかすりもしない。何を仕掛けても先読みされているかのように軽くいなされた。

頃合いを見計らって大佐が動いた。その速さに驚きガードを固めたが、一瞬で腕を極められると痛みで大声を上げながら全力で石畳をタップしていた。
殺してやるつもりで臨んだが、痛みのあまり夢中でタップしていた自分の甘さを恥じた。
大佐は余裕の笑みで腕を解くとスッと立ち上がり渋い声で言った。タジフを蔑むような気配は全くなかった。
「ものはいい。だが戦い方がまだ格闘技だ。武器の扱いを覚えればまだまだ強くなる。GOLANは常に優秀な人間を求めているぞ」