妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

27.聖帝

瓦礫の山の中にあっても整えられた、かつて国道と呼ばれていた広い道を進んでいる集団があった。

その中心にいるのは聖帝サウザーである。

玉座付きのバイクに脚を組み、拳で頬杖をするサウザーいつものポーズ。
その聖帝サウザーを重装の近衛兵が二重に取り囲み、それをさらに剣と盾や弓矢を装備した比較的軽装な兵たちが綺麗な円形を作りながら、そしてその円形を崩さないように器用に瓦礫の中を進んでいた。
その円形からさらに離れたところを偵察隊の中でも選りすぐりの精兵たちが、やはり円形を心掛けながら罠や伏兵の有無を確認している。

「斗」のような異能の戦士にとって最も恐るべきは、何よりも罠である。

殺気もない、予備動作もない、いきなりの殺傷能力の発動は読みようも避けようもないからである。
サウザー本人は罠を恐れてなどはいないが、この時代には大軍と言える500名ほどでの行軍は荒廃した世界においては大いに目立つ。
だが、通常の戦闘なら特別に訓練された近衛の猛者が負けることはない。数においても質においてもほぼ敵はないのだ。まして玉座の主はサウザーだ。戦闘を仕掛ける賊などいる筈もない。

だからこそ罠というものが脅威となるのだが、今までのところ、それらしきものが発見されたことはない。有効な罠を作る物資も知識も不足している上、わざわざ聖帝に対抗しようとする勢力は拳王以外にないからだ。
その拳王とは少なくとも現時点において口約束とはいえ不可侵の関係にある。しかもラオウケンシロウとの戦いで負傷し姿を消した。

一部では、拳王は死んだとさえ言われていた。

シュウのレジスタンスにしても細々と邪魔する程度にすぎず、正面からサウザーに挑むようなことはない。だからこそ、かつての六星でありながらゲリラになり下がったシュウを「ドブネズミ」と蔑む。

聖帝の行軍を阻むものなど無きに等しい状態だった。

 

「ん? あれは先行の偵察ですな」
双眼鏡を構えたモヒ官が告げる。
数分後、聖帝の前に片膝を地につけ偵察モヒ官が報告した。
「これより先およそ5キロほどの地点に拳王軍小隊と思われる20人ほどの死骸あり!」
「拳王軍の?」と言ったのはサウザーの右側にいる重装の兵士である。装飾が多くやや実用性に欠ける槍を構えながら低い声で応える。聖帝の近衛兵の身分は高い。
「は!それら拳王軍の兵士には一様に肉を抉られたような跡があります! 変な言い方ですが、きれいに抉られています!」
「抉られたような?」
そう問い返したのはサウザーであった。
「死骸は新しいか?」
「は!まだ新しい状態でございました!」
サウザーは長い脚を逆に組み直しながら邪悪に笑う。
「速度を上げる。追い付くぞ」


肉をきれいに抉る、、そんな専用の武器など聞かない。武器としても効率が悪い。まして20人ほどを逃さず倒したということからしても普通の話ではない。
しかし、それを素手で可能する男を知っている。
抉ることは南斗聖拳ならば可能だが、わざわざそんな真似はしない。
奴しかいない。ある意味、因縁の男だ。鋭い牙を持ったあの銀狼だ。