妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

28.リュウガ

拳王の支配を末端から揺るがしかねない腐った者たちを自らの手で粛清したばかりだ。

拳王の恐怖という絶対的な支配力がなくなり、部隊の多くは元の凶賊に戻ってしまっている。

しかしリュウガは拳王ラオウの復活を信じている。今は姿を消しているが治療に専念している筈だと信じている。

だからこそ、この拳王不在の今軍規を乱してはならない。一罰百戒とはいうが、リュウガは拳王領地を廻っては血の粛清を繰り返していた。

拳王こそ、ラオウこそ、この乱世を終わらす一本の巨木と信じているからだ。支配という巨木であると確信している。

拳王の伝説を汚す腐った枝は刈り取らねばならない。

 

崩れ傾いたビルの陰で真っ白い愛馬を休ませ、七人の仲間と共に簡素な食事を終えると、リュウガは一人離れて腰を下ろし静かに目を閉じた。
合わせてそれぞれの戦士も、それぞれの戦馬も一時の休息である。


ゆっくりと呼吸し泰山天狼拳により酷使した身体と脳を休める。同時に周囲の音にも集中する。休憩と警戒を兼ねた瞑想である。

しばらくして、そのリュウガの耳は静寂の中に微かなエンジン音を捉えた。

カッと目を見開きリュウガが言う。

「備えろ!敵かもしれん!」

休んでいた兵士たちはリュウガ専属の精兵である。流石と言える切り替えの早さで身を整えた。

彼らは戦闘を得意とするだけではない。拳王を世紀末覇者として戴き、乱世の早期終結を願う仲間なのだ。平和な世を待望する熱き思いを持った同志たちなのだ。
拳王組織の重鎮中の重鎮である将軍リュウガを筆頭にした少数エリート集団。その名も竜牙会である。


遠くに聞こえたエンジン音はどんどんと大きくなって来ている。物陰から出て音のする方角を見ると小さな砂煙の中心にあるのは、やけに横幅のあるバイクらしき異様な車体だ。

そしてバイクを駆る男の真後ろに座すのは!

「あれは!まさか!何故ここに!?」
さらにスピードを上げたその異様な乗り物が迫り来る。本体を置いてけぼりにしたサウザー玉座付きバイクであった。

拳王不在を狙い侵略を!?

 

リュウガ様!」
ここは逃げましょう、などとも言えず、かと言って応戦しましょうとも言えず、兵士たちは戦慄した。何にせよリュウガに付き従うしかない。

リュウガは思案する。
ここで逃げるのは可能だ。相手は道路しか走れないが、こちらは全員が馬に乗る。ゆっくりではあっても瓦礫の中を進んで行ける。
あの派手なバイクでは追っては来れない。傲慢な帝王サウザーがわざわざ降りて一人でこちらを追ってくるとも考えられない。

だがだ!
実質的に拳王軍の副頭であるリュウガが一目散に逃げようものなら、その汚名は確実に広められるだろう。相手がサウザーとあれば逃亡も致し方なしとなるかも知れないが、それでも話を大きくして伝えられれば崩壊しかけた拳王軍の士気に影響する。
それこそ空中分解すらあり得る。

 

どうする?


「お前たちは逃げろ!無駄に命を捨てるな」
「しかし!我らだけが、、」

竜牙会は皆同じ黒い兜を被り、黒い鎧を装備している。その姿から黒騎士団とも呼ばれている。

その黒の中に白一点のリュウガが映える。

リュウガは仲間の発言を遮り、

「俺はここで逃げるわけにはいかない。だが、卿たちの、、いや俺たちの見る未来は何だ? この乱世は拳王様が必ず終わらせる。だがその後の仕事は誰がやる? ここで卿たちが命を落とせば治世までの期間はその分延びる。延びた間に起こる悲劇を思え」
場合によっては仲間全員との別れを意味する言葉だった。
必ずしも戦闘に入るという意味合いではないが、正面から聖帝と対峙することに違いはない。覚悟の言葉である。


リュウガの兵は皆熟練の猛者たちとはいえど、僅かに七人。
悪いことにサウザーの後方から百や二百じゃ済まない兵たちが迫って来ているのが見える。多勢に無勢もいいところだ。

敵本隊が到着し、仮にその時点で逃亡するとなればリュウガだけは突破も可能だろう。だが七人の仲間はまず生き残れない。いや、サウザーがあの趣味の悪い玉座から降りればリュウガの命も危うい。

リュウガは自らの命を惜しんだ。それは拳王軍における自分の役割を思ってのことだ。

ラオウは一人自らが突き進み「道」を作る。ラオウはただずっと突き進むだろう。だがその後の道には何も残ってはいない筈だ。乱世も終わるが、治世への足掛かりも何もない。
ラオウが作った空虚な道に平和な世を作り上げて行くのが、リュウガが自らに課した使命なのだ。いや、それは竜牙会全員の使命であり願いだ。
リュウガはラオウの復活を強く信じている。そして拳王の復権のため、ここで逃げることは断じて出来なかった。