荒れ果てている。この街が大都市の中心だったのは「昔」のこと。
栄華を誇った退廃の塊のような、そんな巨大なビルばかりだったが、今はある意味で美しい「墓標」だ。
かつては、夜でも光り輝いていたありふれた景色も、今のこの世界にあって眺めると、まるで別の世界の寓話か、或いは太古の文明の遺跡にも思える。
生憎既に荒廃の世だが、かつての都市部なら住居として使う場所に困らない。有り余る。
だが、その空間を埋める住人は見当たらない。寝泊まりはできても食糧がないからだ。
大都市だったからこそ食糧が手に入らない。トラックが毎日毎日物資を運んで来るシステムは、そんなものはもうないのだから。
至るところに植物の蔓が無遠慮に伸び茂り、所々に小動物の影が見え隠れする。
数人程度なら、そんな動物や植物を食糧にして暮らしている者たちもいるかも知れない。
そうであったとしても、この街が人の住まぬ廃墟の楽園と言っても、少しも言い過ぎではない。
このディストピア、、かつて名があり、「この世界」になってから、また別の名を持った街。
サザンクロス
銀髪の男は、跨った真っ赤なバイクから長い脚を振り回しながら降り立った。
顔の右側を覆っていた虚栄の鉄仮面は外して久しいが、飾り羽根の付いた肩当てと、そこから伸びる邪魔でしかない赤紫のマントを纏っている。
その血舞台として、ここ以上に相応しい場所は、、ない。
「と、思ってくれればいい」
そうガルダは独り言を言う。
油断なく、しかし臨戦ほどではない警戒の氣を張りながら、ガルダはこの街サザンクロスの中央部、キングの居城を目指す。
かつてキングの街であったため、道は整理され、旧世界の戦火によって生み出された瓦礫はほぼ見当たらない。
だがその代わりに、緑色が「侵蝕」し、バイクで進むには面倒だった。進めないことはないが、飛ばせないそんな乗り方では苛々が募るだけ。
「、、、、」
この街の中では中程度の高さのビル。その屋上に男が立っている。
向こうもこちらを認めたか、するとまた別の人影が現れる。
「七人、、ほどか」
散らばっているならもっとだが、あの物陰にまだ数人いるとしてなら七人、、、と、ガルダは大方の予想を着ける。
わかりやすい害意はない。敵意も感じられない。
「とりあえず今は、かな」
大通りを、そのビルを目指し、急がす気を抜かずにガルダは進む。すると「向こう」も屋上でただ待つつもりはないのか、その姿を消した。
階段の途中で会ったとして、それもそれでどうにもばつが悪い。そんな出会い方だけで、望んでもいない戦いになることもある。
ガルダはロータリーの中央で立ち止まり、懐から煙草を取り出す。先端を人差し指で触れたまま軽く吸い込む。ライターの類は必要ない。
その一本を吸い終わる頃、彼らは漸く姿を現した。
十人、、予想より多い数。他に伏兵の気配はないが、多分元々いない。まさにここに現れた十人だけ、、とガルダは予想した。
錫杖を背負う者、腰の両脇に剣を差した者、素手(と思える)の者。どの面も険しく、数に恃んでガルダを侮る者はいない。
流石にやるな、、とガルダは呟くように独りごちる。
横一列に並んでいるわけではないが、陰にいる男が奇襲に駆けるべく機を狙っているわけでもない。
中央にいるやや小柄な男だけが、場違いなほど柔和な表情をガルダに向けている。
自然な声が十分に聴き取れる距離で男たちは止まった。そして柔和が男がいう。
「南斗、、、神鳥拳の、ガルダさん、、かな?」
声まで柔和だった。
気取って応えようか? だが、、、
と、至極普通に返答した。
相手方の数に圧されたわけではない。何とも表現のしづらい、捉えどころのない、柔和な男だ。
その男が微笑みを見せながら名乗る。相変わらず敵意はないが、その笑みには見た目ほど友好的な含みもない。