妄想北斗の拳

妄天の拳です。北斗の拳のイフストーリーを南斗聖拳シンを中心に妄想してます。

118.

南斗聖拳は恐ろしい暗殺拳ではあっても、神が定めた人間の限界を破る、まさに聖なる力だ。同意であろう?」

シンは、先ずは黙って聴くに徹した。
南斗聖拳には誇りを持っている。それがシンという人間を形成するほとんど全てと言っていい。
しかし、どの角度から見ても人を惨殺する術であるという事実はどう言い訳しても否定できない。
シンや他の拳士たちも、それを繰り返しながら精神が崩壊することもない人外の仮生たちだ。南斗聖拳とはそういうものだと強く認識している。「聖」の字を持っていても、清いものでは断じてないと十二分に理解している。
バルバはそれを「聖なる力」と陶酔するような顔で言うのだ。違和感を得ない筈もない。

途中、やはり黒いローブを纏った男が脇から現れバルバに火の灯った松明を手渡した。
街の中はあれほど煌々と照らされていたというのに、この真っ暗な洞穴では所々に設置された篝火にわざわざ松明で灯りを灯しながら進んでいる。
視界を得るという実益よりも、厳かな雰囲気を殊更に重視しているようで、シンにはそれが滑稽にさえ感じられた。
それでいて長く続く足場だけは整えられていて歩き易くなっているのだから、遂には滑稽を過ぎて興醒めもしてしまう。


「それにしてもガルゴとの対決は惜しかったな」
「見ていたのか?」
「いいや、聞いた話だ」
「蝙蝠か」
奴はこちらのことを事細かに報告していたのか。蝙蝠への心象が悪くなる。

「蝙蝠ではない。我が手は地平の彼方に届き、目は遥か千里を見渡す。耳はもちろん地獄耳だ」
「そんな陳腐な表現は要らない」
要はどごにでも自分の手駒がいると言いたいのだ。蝙蝠がこいつに近しい報告者でなかったことに安堵した。
あんな怪しい男でも自分を幾度も助けてくれた蝙蝠を簡単に疑う自分の軽薄さを内心で嗤う。

「だが、ガルゴはそなた以上に戦いを繰り返して来た歴戦の拳士、いや生粋の戦士だ。しかも生死の端境を何度も見てきた元斗皇拳の男。そなたにまだ足らぬ、経験を存分に持っておった」
「負けは負けだ」
それ以上でも以下でもない。双方納得して同じ舞台に上がって全力で戦った。経験が少ないだの、鍛錬が足りないなどは舞台に上がったからには何の言い訳にもならない。

「生き残ったのだから、見ようによってはそなたの勝ちとも言えるぞ。いいや、寧ろ私はそう見ておる」
「、、、、」

整えられた道であっても、篝火に火を灯しながらであること、そしてバルバの遅い歩行に合わせているため、実際の時間経過よりも長く感じでいたかも知れない。
この他人のペースに合わせて歩くということに飽きて来た頃、、、空気の湿度が下がり、やや冷んやりとし始めるのを感じた。
そこから洞穴は大きく拡がっており、少年の頃に師に連れて行かれた古い寺院を思い出す、、初めて人を殺めた時のあの寺院を。
そしてその記憶と同じく、そこに姿を現したのは大きく古い建造物だった。
シンに建築の知識はないが、西洋風でも東洋風でもない建築様式のように思われた。

「石造り、、、」
湿気は随分と解消はされていたが、風の流れを感じない洞穴で、しかも地震が多いこの国で石造りの大きな建物を造るとは。
その思いを汲み取りバルバが言う。
「我ら南斗なれば、岩石を切断することは可能であろう?」
「この石は南斗の拳士が!?」
「石を斬ることで己が南斗聖拳の出来具合を確かめるのであれば、そのうち嫌でも石に詳しくなる。自然と揺れに強い組み方も学ぶものだ。いいや、これは必然か」
しれっと言い放ったが、このバルバも南斗の拳を会得しているのだろうか?
それなら合点も行くには行く。

「そう、この石造りの神殿は我ら南斗聖拳の、この国での新たな始まりとなった神聖なる場所。その名を聚聖殿!」
と、誇るようにバルバは両腕を広げて誇らしげに声を響かせた。
「ジュセイデン、、、」
「そなたも六聖拳の一人なら知っていよう。南斗聖拳は一子相伝北斗神拳の伝承者争いに敗れた者たちが創始した拳」
「この国に南斗聖拳の?」
「そうだ。この聚聖殿は南斗宗家の本拠にして、南斗聖拳の先人たちを祀る慰霊殿」

バルバは聚聖殿中央に構える解放されたままの鉄門を進み、時折シンを振り返っては不気味な笑みを浮かべる。
「漸くだ。漸くこの聖殿に迎えるに相応しい男を招き入れることができる」
「買いかぶるな」
謙遜ではない。ガルゴに敗れたことだけではない多くの失態や挫折がある。憐みも受けて来た。その俺を相応しいと言うようではこの霊殿の底も知れる。

篝火は点々と壁面に付けられているが、霊殿までの途中の道のそれよりも小さく余計に薄暗い。
慰霊殿といわれても墓標らしきものもなく、南斗宗家の本拠といわれても鍛錬を連想させるものは何一つない。
闘神像も武具も、試し斬り用の石も、平衡感覚を養う切り立った足場も、、、とにかく何もない。
何もない、石に囲まれた路をゆっくり進むバルバの背中を見ながら黙ってついて行く。

「ん?」
異臭、、、、そして多くの気配。
息を殺している多勢の者たちがこの先にいる。

「バルバ、歓迎会でも開いてくれるのか?」
「望むなら」
と、バルバは身体ごと振り向いた。
「酒でも、女でも、何でも用意しよう。そなたはここで、あのサウザーをも超える南斗聖拳真の伝承者となるのだから」

そして全く意外なことを付け加えた。

 

「史上二人目のな」